血管病変におけるエストロゲン受容体α,βの発現特異性の解明と治療への応用
【研究分野】循環器内科学
【研究キーワード】
エストロゲン受容体 / 動脈硬化 / トランスジェニック・ラット / アデノウイルスベクター / 血管平滑筋細胞 / DNA chip / 内皮細胞 / 平滑筋細胞 / 増殖 / アポトーシス
【研究成果の概要】
本研究の目的は、エストロゲン受容体(ER)サブタイプの観点からエストロゲンの動脈硬化抑制作用を解明し、動脈硬化の新しい治療法開発へ応用することである。この3年間において最終的に以下の6つの成果をあげた。(1)糖尿病の動脈硬化への関与をERとの関連から検討し、血管平滑筋細胞で高グルコース状態がERαの発現を有意に低下させ、その機序にグルコースによるprotein kinase Cの活性亢進が関与することを示した。(2)ERαおよびERβ両方の転写機能に対してドミナント・ネガティブ効果を有する、我々が新規に開発した変異タンパクを過剰発現するトランスジェニック・ラットの作成に成功した。このラットにおいて、カフ装着による実験的動脈硬化モデルを作成し、ERの病態生理学的意義を明らかにした。(3)エストロゲンの血管平滑筋細胞の増殖を抑制する作用はERのどちらのサブタイプを介しているのかは不明であった。我々は、ERαとERβを培養血管平滑筋細胞に強制発現させる系を用い、その作用は主にERβを介していることを証明した。(4)動脈硬化の初期病変形成には、内皮細胞のアポトーシスが関連している。そこで、酸化ストレスによる血管内皮細胞のアポトーシスに対するエストロゲンの作用について検討し、エストロゲンはアポトーシスを減少させ、その機序の一部にBax蛋白の発現が関与していることを示した。(5)肥満は動脈硬化の重要な危険因子であるが、エストロゲンには肥満抑制作用がある。この機序としてのエストロゲンの中枢作用を検討し、中枢においてERβがエストロゲンの肥満抑制作用に関与していることを見いだした。(6)ERβの遺伝子上流のCA(cytosine-adenine)リピート多型と血圧の関連を、187人の健常閉経後日本人女性を対象に解析し、その中の一群において有意な収縮期高血圧が認められることを示した。
【研究代表者】