抗癌活性を示すポリ酸を基盤とする医薬品の開発
【研究分野】消化器外科学
【研究キーワード】
ポリ酸 / PM-8 / アポトーシス / PM-17 / オートファジー / 抗腫瘍効果 / ^<10>B_<32> / 中性子捕捉療法 / 熱中性子
【研究成果の概要】
ポリ酸は金属と酸素原子との結合からなるナノからミクロサイズの陰イオンであり、結合する金属の種類、数によりその抗腫瘍効果や水溶液中の安定性が変化してくる。我々は、モリブデン原子数が正確に7、16、個数含まれるポリ酸を合成し、得たポリ酸を用いて、抗腫瘍効果を検討した。7個のモリブデン原子からなるポリ酸(PM-8)をヒト膵臓癌細胞AsPC-1に投与し、ヘキスト染色、DNA ladder形成、TUNEL染色によりアポトーシスを検出できた。さらに、ヒト胃癌細胞MKN-45を用いて作成した担癌マウスモデルにおいて、1週間のPM-8の腫瘍内により腫瘍増殖抑制効果を確認した。16個のモリブデン原子からなるポリ酸(PM-17)をAsPC-1細胞に作用させると、Caspase3の活性を認めアポトーシスの機序を確認した。Caspase3の上流シグナルを検索するとCaspase8やCaspase9の活性は弱くCaspase12のシグナルが増加していることが解り、PM-17は小胞体ストレスによるアポトーシスを誘引することを発見した。AsPC-1担癌モデルにおいてPM-17を腫瘍内投与することにより顕著な腫瘍増殖抑制効果を見出した。さらに、PM-17を反応させた胃癌細胞において細胞質内にオートファゴソームと呼ばれる自己消化空胞体を見出した。PM-17処理細胞にオートファゴソームに結合する活性化LC-3タンパク遺伝子を遺伝子導入すると細胞質に特異的にLC-3の凝集体を確認できオートファジー機序も生じていることも発見した。以上より、PM-17の癌細胞障害作用機序としてアポトーシスとオートファジーが関与していることを突き止めた。
中性子捕捉療法への展開を考えて、ボロン原子32個からなるポリ酸(H_<15>[V_<12>^<10>B_<32>O_<84>Na_4]・13H_2O;^<10>B_<32>)を合成した。この^<10>B_<32>を膵臓癌細胞AsPC-1と反応させ熱中性子(2×10^<12>n/cm2)を照射することによりコロニーアッセイにおいて細胞障害効果を認め、中性子捕捉療法への応用が期待される。
【研究代表者】