アディポネクチンの肥満による低下の原因となる新規転写因子の同定と増加剤の開発
【研究分野】代謝学
【研究キーワード】
糖尿病 / アディポカイン / プロモーター
【研究成果の概要】
アディポネクチンは脂肪組織特異的に発現・分泌されるアディポカインであるが、その血中レベルおよびmRNAの発現は、脂肪組織量が多い肥満者、糖尿病病態モデル動物において減少している。今回、この発現レベル減少のメカニズムを明らかにするために、アディポネクチン遺伝子プロモーター上の責任領域、および結合タンパク質を同定した。肥大化脂肪細胞におけるアディポネクチンのプロモーター活性は、小型脂肪細胞におけるプロモーター活性の約20%にまで低下した。我々は、肥大化脂肪細胞におけるアディポネクチンの発現抑制に関与するプロモーターの責任領域をdeletion studyより見出し、diabetes related element (DRE)と名付けた。DREをタンデムに並べたコンストラクトは小型脂肪細胞においてエンハンサー活性を有し、結合タンパク質量は肥大化脂肪細胞より多かった。DREに対するONE-hybrid systemにより結合タンパク質を単離し、DRE binding protein I (Debl)と名付けた。DeblはC末端側にZnフィンガードメインをもつ転写因子であり、その発現はアディポネクチンと同様に脂肪細胞分化とともに増大し、肥大化に伴って減少した。またEMSAにおいてDeblはDREと結合したが、2bpの変異を導入したDREに対しては著明に結合量が低下した。siRNAによりDeblの発現を抑制した小型脂肪細胞ではアディポネクチンの発現量が20%まで低下した。本研究において、肥大化脂肪細胞においてアディポネクチンの発現が低下していること、および発現低下に関わるプロモーター領域を明らかとした。この領域に結合する新規転写因子Deblの発現が肥大化脂肪細胞において減少することが、アディポネクチンの発現低下に関与していることが示唆された。Deblの発現をコントロールすることが、肥満によるメタボリックシンドロームや2型糖尿病の原因解明、病態本態の治療に結びつきうると考えられる(投稿準備中)。さらに、メタボリックシンドロームモデル動物においては、リガンドのアディポネクチンのみならず、受容体AdipoRの量も低下していてメタボリックシンドロームの原因の一部になっていること、及び、AdipoRの発現量をアディポネクチン存在下に増加させることが、実際に生体内においてメタボリックシンドロームを改善させることを示した(Nat. Med.13:332,2007)。
【研究代表者】