がんの浸潤・転移における細胞接着分子異常の関与
【研究分野】人体病理学
【研究キーワード】
E-cadherin / α-catenin / β-catenin / c-erbB-2 / 細胞接着 / がん浸潤
【研究成果の概要】
E-cadherinを介する細胞接着-がん浸潤抑制系は、従来一般にE-cadherinの発現低下によって不活化されると考えられてきたが、本研究において同系不活化の分子機構をさらに詳細に検討した。細胞間接着性を欠くヒト胃がん由来細胞株において、E-cadherin遺伝子変異がmRNAスプライシング異常を惹起し同系の機能不全に帰結することを報告した。これらの細胞株において第16染色体ヘテロ接合性喪失を認めたことから、E-cadherinが1アリルの欠失と残存するアリルにおける遺伝子変異の2ヒットによって不活化される可能性を提唱した。第16染色体ヘテロ接合性喪失を伴う乳腺の浸潤性小葉がん手術材料において、E-cadherin遺伝子異常を報告した。他のヒト胃がん由来細胞株において、β-catenin遺伝子変異がE-cadherinとα-cateninの相互作用を阻害し、同系の機能不全を来すことを見いだした。Cadherin-catenin複合体構成分子の発現低下および遺伝子変異を欠き細胞間接着性異常を呈すヒトがん由来細胞株においては、β-cateninおよびE-cadherinに強いチロシンリン酸化を認めた。以上より、cadherin・catenin複合体構成分子の発現低下・遺伝子変異ならびにチロシンリン酸化といった多様な機構により、E-cadherinを介するがん浸潤抑制系が不活化されることが明らかになった。さらに、cadherin・catenin複合体構成分子のチロシンリン酸化に寄与するキナーゼを検索し、c-erbB-2がん遺伝子産物とcadherin・catenin複合体の相互作用を証明して、がん遺伝子産物と細胞間接着分子のクロストークががん細胞間接着と細胞増殖の制御に寄与する可能性を呈示した。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1994
【配分額】1,100千円 (直接経費: 1,100千円)