幽門腺型粘液の糖鎖αGlcNAcの発現低下とがんの悪性化の分子機構の解明
【研究キーワード】
αGlcNAc / MUC6 / 幽門腺 / 粘液 / 肺癌 / 腺癌 / filopodia / FSCN / aGlcNAc / 幽門腺型粘液 / 胆道癌 / BilIN / 胃底腺型胃癌 / 分化 / alphaGlcNAc / 糖鎖修飾 / 多段階発癌 / 糖鎖
【研究成果の概要】
我々は、幽門腺型粘液に着目し、特に、がんの発生、悪性化への関与について病理形態学を主軸とした研究を進めてきた。
肺癌は近年腺癌の割合が増しているが、その中でも粘液産生性浸潤性腺癌については、悪性度と相関するマーカーについての十分な知見が乏しい。我々はこれらの多くが胃型粘液を産生することに着目し、MUC6とαGlcNAcの発現と癌の悪性度の相関を調べ、さらに肺癌由来培養細胞を用いて、その生物学的意義を検討した。
肺粘液産生性腺癌の切除検体54例を用いて検討したところ、38例でMUC6陽性を示し、19例でαGlcNAc陽性を示した。αGlcNAcの発現はMUC6の発現部位にほぼ一致していた。発現スコアを比較するとαGlcNAcはMUC6よりも優位にスコアが低く、MUC6陽性癌細胞の多くで、αGlcNAcの糖鎖修飾が消失していることが明らかになった。それぞれの陽性例、陰性例の間における臨床病理学的因子の違いについて検討した。無病再発生存期間を比較すると、MUC6陽性例は陰性例よりも予後が良いことが明らかになった。MUC6の発現そのものが癌の予後に影響を及ぼしていると考えられ、肺がん由来のA549細胞を用い、レトロウイルスベクターにてMUC6遺伝子を導入したところ、癌細胞の増殖能、浸潤能、移動能の有意な低下を認めた。さらに細胞のアクチンフィラメントについて蛍光染色を用いて可視化すると、MUC6導入細胞では、細胞の移動や接着に必要なfilopodiaの低下、喪失があきらかになった。RT-PCRでは、filopodiaの安定化に重要な結合タンパクFSCN遺伝子の転写低下を認めた。
このことから、粘液産生性肺癌では、MUC6発現低下によりFSCN発現、filopodiaの形成により癌細胞の運動能、移動能が増し、がんの悪性化に寄与している可能性が考えられた。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)