細胞内共生現象の分子生物学的・細胞生物学的研究
【研究分野】動物発生・生理学
【研究キーワード】
アブラムシ / 細胞内共生体 / シンビオニン / groEL / groES / 塩基配列 / 分子シャペロン / ストレス / アミノ酸配列 / chaperonin / グルタミン代謝 / 免疫組織化学
【研究成果の概要】
1.アブラムシ共生体が細胞内で、唯一大量に合成しているタンパク質、シンビオニンの遺伝子を単離し、その上流および下流域を含めて、全塩基配列を決定した。その結果、シンビオニンは大腸菌groEオペロン同様にgroES相同遺伝子(symS)とともに1つのオペロンを形成して存在することがわかった。シンビオニン・コ-ド領域(symL)のgroEL遺伝子との相同性はアミノ酸レベルで約85%、塩基レベルで75%であった。また、groEに比べたときsymEオペロンにはA/T塩基の蓄積が顕著であった。
2.symSはsymLの上流に位置するにもかかわらず、各種のアブラムシを通じて、symSの発現は後者よりも著しく低く、翻訳レベルの発現調節機構の存在が示唆された。一方、二次共生体においては、自由生活性バクテリア同様にgroES相同遺伝子が大量に発現されていた。細胞内共生の歴史を通じて、groES相同タンパク質の役割は次第に低下し、細胞器官におけるようにgroEL相同タンパク質(シャペロニン)のみが機能するようになったものと思われる。
3.共生体を細胞外で培養すると、シンビオニンの合成量は著しく低下するとともに、他の多種のタンパク質の合成が高まった。しかし、このとき高温にさらすと、共生体は他の数種の熱ショックタンパク質とともに、再びシンビオニンを選択的に合成するようになった。ただし、このシンビオニンは細胞内で合成されるものよりもリン酸化の程度が高かった。これらの結果は共生体は細胞内環境を一種のストレスと認識していることを示唆する。
4.精製したシンビオニンはATPase活性をもち、MgーATPの存在下で、モノマ-へと脱重合をおこすことがわかった。また、紅色イオウ細菌から得たRubisCOの変性モノマ-にシンビオニンを加えると、groESが共存すれば、酵素活性の回復がみられた。さらに、大腸菌の温度感受性groE欠損は、symオペロンを含む組換えプラスミドによってcomplementされた。これらの結果はシンビオニンがgroELおよび細胞器官のシャペロン同様に、分子シャペロンの機能をもつことを強く示唆するものである。
【研究代表者】