トラザメの胚期に特有の塩類細胞から謎多き軟骨魚の環境適応機構を解明する
【研究キーワード】
塩類細胞 / 軟骨魚 / トラザメ / 環境適応 / 胚
【研究成果の概要】
現生魚類の大部分を占める硬骨魚では鰓の塩類細胞が体液のイオンを調節しており、そのメカニズムについては解明されつつある。一方、軟骨魚類の鰓にも真骨魚と同様に塩類細胞が多数存在することが確認されているが、その役割は明らかになっていない。そこで本研究では、申請者が発見したトラザメ胚期に発達する鰓の塩類細胞集団に着目し、これまで成魚を用いた塩類細胞研究では明らかにできなかった軟骨魚類の環境適応機構の解明を目指すこととした。本年度は、トラザメ胚の鰓に存在する塩類細胞の機能を明らかにするため、イオン輸送体の抗体を作成し、免疫組織化学染色を行った。その結果、成魚で提唱されているモデルと同様に、Na+/K+-ATPaseとV-ATPaseが発現する二種類の塩類細胞がトラザメ胚の鰓でも存在することが明らかになった。また、胚期に特異的に発達した塩類細胞集団については、側底膜にNa+/K+-ATPaseが頂端膜にはNa+/H+ exchangerが局在し、海水中ではH+排出すなわち酸塩基調節に関与することが示唆された。次に、塩類細胞集団が最も発達するステージ33の胚の鰓を透過型電子顕微鏡で観察したところ、頂端膜に微絨毛を持つ細胞が開口部を共有している様子が観察された。真骨魚では、鰓が未発達な胚では塩類細胞は卵黄嚢上皮および体表に存在することが知られている。そこで、トラザメにおいても体表を観察したところ、鰓の二次鰓弁が発達する前のステージ31の胚で体表に塩類細胞が多く存在する様子が観察された。また走査型電子顕微鏡でトラザメ胚の体表を観察したところ、成魚の鰓と同様に塩類細胞の開口部が観察された。以上から、トラザメ胚の鰓にも成魚と同様に二種類の塩類細胞が存在し、鰓隔膜に存在する塩類細胞集団がH+の排出を行っていることが示唆されるとともに、軟骨魚胚の体表にも塩類細胞が分布することが示された。
【研究代表者】
【研究種目】研究活動スタート支援
【研究期間】2021-08-30 - 2023-03-31
【配分額】2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)