フラストレーション格子磁性体における新奇トポロジカル電子物性の開拓
【研究キーワード】
磁性 / 磁気転移 / 強相関電子系 / イリジウム酸化物 / トポロジカル電子状態 / 量子輸送現象
【研究成果の概要】
本課題の目的は、フラストレーション格子磁性体において、電子間相互作用と相対論的スピン軌道相互作用の協奏が生み出す新しいトポロジカル電子相を開拓することにある。令和3年度では、(a)パイロクロア型ルテニウム酸化物(Pr1-xCax)2Ru2O7において、電子占有率を制御した試料を合成することに成功し、巨大な異常ホール効果を示す強磁性金属相を発見した。(b)パイロクロア型イリジウム酸化物Pr2Ir2O7の単結晶合成を行い、輸送測定と高輝度の放射光を用いて厳密な結晶評価を行なった。(c)パイロクロア型イリジウム酸化物Pr2Ir2O7の質の良い試料において、0.6 Kで長距離秩序することを見出し、金属の物質で初めて磁場誘起の気液相転移を発見した。
(a)3価の希土類イオンから2価のカルシウムイオンに置換することで、実効的にルテニウム4d軌道に正孔をドープすることができた。正孔のドープ量を増やしていくと、反強磁性絶縁体相が消失し、強磁性金属相が現れることを突き止めた。
(b)パイロクロア型イリジウム酸化物Pr2Ir2O7は、長らく量子スピン液体候補の物質として注目を集めていたが、その物性は試料依存性が強く、真の基底状態については未解明であった。本課題では、合成条件を厳密に制御し、試料依存性を細かく調べた。すると、磁気抵抗比が10%に満たない物から50%を超える物まで様々であった。放射光で厳密な構造解析をした結果、磁気抵抗比が小さい試料では、イリジウムサイトに希土類イオンが多く混成し、磁気的秩序を妨げていることが明らかになった。
(c)極低温の比熱測定により、0.6 Kに明確なピークが現れたのを確認した。さらに、磁気輸送特性によって、ホール抵抗率がプラトーを示すことを見出した。これは、絶縁体で見られた気液相転移と類似しており、金属では初めての観測となる。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2021-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)