生体内Ah受容体リガンド・インディルビンのヒト胎内曝露が生殖・発生能に及ぼす影響
【研究分野】放射線・化学物質影響科学
【研究キーワード】
内分泌撹乱物質 / インディルビン / 胎内曝露 / 卵細胞 / アポトーシス / ダイオキシン類
【研究成果の概要】
1.母児のダイオキシン類への曝露状況と次世代への影響
分娩時に得られた母体血、臍帯血、羊水を対象として、ダイオキシン類濃度(PCDDs、PCDFs、Co-PCBs)を高分解能GC-MS法により測定した。その結果、母体血中Co-PCBs濃度と母体年齢の間に有意な正の相関を認めた。また、PCDDs、Co-PCBsにおいて母体血と臍帯血中濃度に有意な母児間の相関が見られ、経胎盤的な移行が確認された。また、羊水中脂肪成分にダイオキシン類(PCDDs、PCDFs)が蓄積することが明らかとなった。更に、ダイオキシン類の胎内曝露により胎児・新生児の甲状腺機能が影響を受ける可能性が示唆された。
2.妊娠マウスのインディルビン曝露が新生仔へ及ぼす影響の解析
ヒト尿中から発見されたインディルビンは、ダイオキシンに比べて約50倍も高いダイオキシン受容体(Ah受容体)結合活性を有し、その生理作用が注目されている。交配後14.5日目の妊娠マウスに(1)インディルビン、(2)7,8-ベンゾフラボン(Ah受容体阻害剤)、(3)インディルビン+7,8-ベンゾフラボン、(4)溶媒(DMSO)のみを投与し、生後4日目の新生仔から卵巣を摘出した。その結果、新生仔の体重は、(3)(4)群に比べて(1)(2)群が有意に小さかった。また、一卵巣あたりの卵胞数(原始卵胞〜一次卵胞)は、インディルビン投与群で対照群より少なかった。
3.母体尿中および羊水中のインディルビン濃度の測定
妊娠初期(妊娠12-15週)、中期(21-24週)、後期(33-36週)の妊婦から得られた尿中のインディルビン濃度を、特異的ELISA法にて測定したところ、妊娠初期に比べて後期が有意に高値だった。しかしながら、母体尿中インディルビン濃度と出生児体重の間に有意な相関は認めなかった。一方、妊娠中期の羊水穿刺時および妊娠末期の帝王切開時に得られた羊水中のインディルビン濃度を測定したが、いずれも測定限界以下だった。
以上より、動物実験からはインディルビンの胎内曝露がダイオキシン受容体を介して新生仔の発育や生殖機能が影響を及ぼす可能性が示唆され、ヒト母体も非妊時より高レベルのインディルビンに曝露されていると考えられたが、ヒト胎児のインディルビン曝露は低レベルにとどまることが示唆された。
【研究代表者】