沖縄における「日本的」および「沖縄的」アイデンティティのあり方に関する総合的研究
【研究分野】広領域
【研究キーワード】
沖縄 / アイデンティティ / 近代化 / 祖国 / 物語 / 国民国家 / ナショナリズム / 市民運動 / 太田朝敷 / 社会主義運動 / 祖先崇拝 / 大和 / アメラジアン / 国民統合 / 公民館 / 祖国イメージ / 大和イメージ / 民事訴訟 / 植民地政策 / 共同店
【研究成果の概要】
本研究は、沖縄地域をとりあげ、ナショナル・アイデンティティおよびローカル・アイデンティティが個人の思考や行動にいかに現れるのかを明らかにしようとした。対象地域を、日本国内の周辺に位置し、独自の歴史・文化的背景をもつ沖縄に限定した。各研究者がそれぞれ祖国物語形成、市民運動、紛争処理、宗教運動、国民統合、および共同体組織に焦点をあてて調査研究を行い、定期的に研究会を開いて、それぞれの研究成果について討論を重ねた。その結果、以上の諸点が明らかになった。
物語形成論では、沖縄の代表的言論人、太田朝敷が生産組合運動に関り沖縄の自立を模索する過程で、日本への祖国イメージを形成していく状況が明らかなった。市民運動論では、戦後米軍統治下での祖国復帰運動の過程で、沖縄の人々の「大和」と「沖縄」への関わり方が時代的に変化することが明らかになった。紛争処理論では、沖縄の紛争処理の場面で、その当事者が、沖縄的論理と本土的論理を意図的・戦略的に組み合わせて自己の正当性を主張する状況が明らかなった。宗教運動論では、祖先崇拝が沖縄的アイデンティティを不断に生産し続けている一方で、本土的宗教の受容によって本土的価値観や思考様式が受け入れられていく状況が明らかになった。国民統合論では、沖縄の中での、あるいは海外での社会主義運動をとおして、日本的アイデンティティを相対化しようとする運動が展開されたことが明らかになった。
共同体組織論では、本土的編成原理を志向しつつ沖縄的原理を払拭しきれない状況、および編成過程における帰属意識の揺れが明らかになった。以上の諸点が明らかになったが、同時に、国家からの視点ではなく、国民の主体的行動や意欲に焦点を当てる研究の有効性も明らかになった。今後は、この成果をふまえて、日本全体を視野にいれた近代日本の国民国家形成期におけるナショナリズム問題の研究の必要性と可能性が出てきた。
【研究代表者】