知的所有権制度の再構成--「情報の経済学」からのアプローチ
【研究分野】知的所有権法
【研究キーワード】
情報の経済学 / 独占 / 知的所有権 / 特許権 / 著作権 / 法執行 / 不正競争防止法 / 差し止め / 損害賠償 / 行為規制 / 取引費用 / 情報 / 外部経済 / 費用低減産業
【研究成果の概要】
第1にミクロ経済学の観点から、情報には外部経済性が存在するから、情報は過小生産になること、現代のデジタル化技術の発展のもとでは、フリーライダーを工学的技術で排除することが困難になっていることを指摘し、外部性を内部化するために、情報についての権利に新たな法的制度設計を構想する必要があることを示した。第2に、情報の生産者に大きな権利を与えることは、市場への新規参入を妨げることであり、経済学的には独占の問題を生じ、情報は過小生産となり、価格は上昇することを示した。第3に、現行の知的財産権法は有体物に対する物権の法技術を借用しているが、そのような立場では情報の経済学的性質にそくして理論構成、概念構成を行うことは困難であることを示した。第4に物権的構成が借用であるとすれば、特許権や著作権のような登録制度を媒介とする譲渡可能な財産権という制度設計が唯一のものではなく、不正競争防止法のような単なる行為規制も、外部経済の内部化のために法的制度設計としてあり得ることを示した。第5に、法的制度設計においては広い意味で取引コストの低減が重要であることを示した。それは、法執行の分析が重要であることを意味する。そこでまず分析されるのは、私的執行(現行特許、著作権)と公的執行(独占禁止法関係)の効率性の比較である。そして、違法複製抑止のインセンティブを考慮すると、私人の方がモニタリング機構として効率的であることが示される。従って、救済は民事訴訟が中心となるべきであり、さらに、訴訟の外部効果(一般抑止効果)を考慮すると、損害額のみが補填されるという制度のもとでは訴訟は社会的に最適な水準よりも過小になることがわかる。従って、3倍賠償のような制度が参考とされるべきである。第6に、救済としての差し止めと損害賠償の比較については、サーチコストの裁定者と両当事者への分配のありように依存していることが示された。
【研究代表者】