フランス諸都市における都市化と住民組織の形成史-都市公共交通整備の問題を中心にー
【研究キーワード】
フランス / 都市化 / 住民組織 / 都市公共交通
【研究成果の概要】
フランスの任意の住民組織である街区委員会は、これまで日本の町内会や自治会と比較し得る組織として、現存する街区委員会を調査対象とし、社会学や法社会学の分野で研究が行われてきた。本研究では、こうした既存の研究では明確にできなかった住民組織の形成過程と「地域代表性」をめぐる問題を、現地での実証的調査研究にもとづき、歴史地理学的な視座から新たな知見を提供することを目的としている。本研究課題の独創的特色は、一つの大都市の事例から諸事実の普遍化を試みるのではなく、四大都市の調査結果の比較分析から、都市化における住民組織の形成過程の知見の体系化と理論構築を目指す点にある。特に現在、存在意義が問われている日本の町内会や自治会の将来を考えるうえでも、「都市化」という現象を歴史的視点から再考し、そこでの住民とその組織化の役割と限界を考察する必要があり、それは今後のより良い都市計画に大きく貢献することが期待される。
本年度は日本都市の先行研究も参考にしながら、これまでに入手できたパリ市・都市圏の関連図書と史料から研究を行った。フランス全体を視野に入れた場合、パリの都市公共交通の発展は特異な状況にあった。フランスの地方大都市では、他のヨーロッパの大都市と同様に、1920 年代までは路面電車が主な公共交通手段であった。一方、首都パリは、1900 年に地下鉄が開通したが、地上交通では、地方では既に使われなくなった馬車鉄道が1917 年頃まで、主要な交通手段として用いられていた。パリ市外の郊外地域の首長や県議会議員たちにとっては、鉄道は国の主導で建設が進められ、地下鉄はパリ市の市議会議員たちに主導権を握られていたため、路面電車が彼らの政策を実行するうえで極めて重要な交通手段であった。こうした公共交通政策についての議論を議事録や公報、新聞などでさらに来年度以降、調査を実施する必要がある。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2021-04-01 - 2024-03-31
【配分額】4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)