実験から仮説を自動立案する自律型実験システムの有用性を実証
ロボット×AIによるバイオテクノロジー実験の自動化
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
AI/アルゴリズム/プロトコル/機械学習/最適化/人工知能/産学連携/計算機シミュレーション/データ解析/質量分析/生産技術/持続可能/持続可能な開発/シミュレーション/データ処理/マイクロ/ロボット/ロボットアーム/ロボット制御/光計測/再生可能資源/自動化/実証実験/制御システム/生産性/発酵/経済成長/酵素活性/微生物/ビタミン/アルコール/神経伝達物質/大腸/反応時間/アミノ酸/グルタミン酸/バイオテクノロジー/抗生物質/合成生物学/細胞増殖/細胞培養/生体分子/代謝物/大腸菌/ゲノム/遺伝子/脂質
2025.03.12
証実験神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授らの研究グループは、株式会社島津製作所と協力して、バイオテクノロジーの研究開発を支援する自律型実験システムを開発し、細胞培養から前処理、測定、分析、仮設立案を自律的に実行させる実証実験を行い、有用性の実証に成功しました。本研究では、実験における操作の自動化とその実験での最適解(例えば、目的生産物の生産量やその生産微生物の生育の最大化など)が得られる実験条件の迅速な抽出を目的に、実験操作のオートメーションやAIアルゴリズムを駆使することで、従来の手作業に頼っていたプロセスを大幅に効率化でき、科学的仮説の構築を支援する画期的なシステム技術を実現しました。今後、本システムはバイオテクノロジー領域での展開のみならず、さまざまな科学分野における研究の自動化・効率化を加速させる可能性を秘めています。
この研究成果は、2月24日に国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

ポイント
ロボットとAIを組合わせ、実験の自動化と最適化を実現する自律型実験システム(Autonomous Lab, ANL)を開発した。
微生物培養から、各種のパラメータの測定、データ解析、仮説生成へと至るバイオ実験を自律的に実行した。
収集した各実験データをAIが解析し、新たな仮説(培養条件)の提案とその検証を行うことにより、グルタミン酸の生産用大腸菌株の培養培地成分の最適化に成功した。
ANLを用いることで、バイオテクノロジー研究の効率化と新たな知見発掘の促進が期待される。
研究の背景
微生物は古くから人類のものづくりに利用されてきた。アルコール発酵は紀元前より行われ,現代に至ってはアミノ酸,ペプチド,タンパク質,核酸,脂質,ビタミン,抗生物質,色素等が微生物によって生産されています。バイオものづくりとは遺伝子技術を活用して微生物等によって有用物質を生産することであり、食品、医薬品、化学素材、燃料等の生産など、様々な産業分野で利用される技術のことです。例えば、微生物の遺伝子を組換えたり、ゲノムを編集したりすることにより、目的となる有価物を産生させることや生産性を向上させることが可能となります。バイオプロセスでは化学プロセスと違って常温常圧でものづくりが進行するため、再生可能資源を利用することで、環境など地球規模課題の解決と経済成長の両立が可能となります。
バイオものづくりは世界中で注目され、急速な開発が進められています。近年の合成生物学※1の進展は微生物が生産できる物質を多様化するとともに、その生産量を飛躍的に向上させてきました。例えば、計算機シミュレーションを用いて、ターゲットとなる分子の代謝経路や生成酵素を新たに設計することで、従来、生物が生産できなかった有用物質の高生産が可能になっています。
一方で、このような研究を進め、微生物による目的有用物質の生産性を向上させるためには大量の実験データの取得と解析が重要となります。しかしながら、バイオ実験では多くの実験条件(培地組成、培養温度/pH/通気量、培養時間、反応時間等)のもとで、多くのバイオデータ(ターゲット生産量、原料消費量、細胞増殖、副生成物生産量、代謝物量、酵素活性等)を収集する必要があり、さらに解析には化学構造、試薬の特性、実験プロトコル等のメタデータを含む大規模なデータ処理が求められ、この作業には膨大な時間と労力が必要とされてきました。
この問題を解決するため、自動化により多様なデータ取得を短時間で収集する実験システムや、大規模データの解析システムの開発が世界中で精力的に行われています。神戸大学が参画しているGlobal Biofoundry Allianceもそのような取り組みの一部です。しかしながら、従来の自動実験システムの多くは特定の用途に限定され、柔軟性や拡張性に課題がありました。
研究の内容
神戸大学と島津製作所の研究チームは、柔軟性と拡張性を兼ね備えた「自律型実験システム(Autonomous Lab, ANL)」を世界に先駆けて開発し、その有効性を検証しました。ANLはモジュール式の実験装置※2とベイズ最適化※3アルゴリズム機能を組み合わせ、培養・前処理・測定・分析・仮説生成までのプロセスを自動で実行できるシステムです(図1)。本研究では、ANLの有効性を検証するため、大腸菌を用いたグルタミン酸※4生産のための培地最適化を以下のように実施しました。
ANLの構築:大腸菌の培養用プレート搬送/培養用培地調製/培養/サンプリング/希釈/濁度計測、培養液の遠心分離/上清回収/サンプリング/希釈/成分分析等を行うための装置システムを設計した。多検体(96ウェルプレート)での実験を想定し、ロボットアーム、プレート格納庫、液体分注機、培養機、遠心分離機、微量吸光計測機(マイクロプレートリーダー)、液体クロマトグラフ質量分析系から構成(図1)され、一台の計算機による一括制御システムとした。各装置は自由に配置・拡張できる仕様とし、計算機は動作制御だけでなく、実験条件の最適化を担う仕様とした。
培地最適化のための成分選定:大腸菌の増殖とグルタミン酸生産に影響を与える培地成分を特定することを目的とし、成分組成の異なる培地を調製した後に大腸菌を添加し、培養および評価を行った。その結果、培地組成の微量成分である、CaCl₂, MgSO₄, CoCl₂, ZnSO₄の濃度が影響を与えることを明らかにした。
ベイズ最適化による培地組成の最適化:実験結果に基づく最適組成の予測、自動実験、データ処理のサイクルを繰り返すことで、細胞増殖率と最大細胞密度が向上する最適な培地条件を特定した。
スケールアップによる有効性の検証:96ウェルプレートでの実験で最適化された培地を用いて、異なる培養スケール(1 mL, 10 mL, 100 mLの各容量)で培養試験を実施した。その結果、従来の基本培地と比較して細胞増殖率および最大細胞密度が向上した。これにより、ANLによる条件最適化が試験管、フラスコレベルのスケールアップにも適用可能であることが示された。
こうして、本研究は、グルタミン酸を過剰生産する大腸菌株を用いた培地条件の最適化を行い、細胞増殖率と最大増殖量の向上を達成しました。
ANLは、多様かつ大量なバイオデータの迅速な収集と処理を自動で行うことができ、バイオものづくりにおける実験の最適化を効率的に実現できることが実証されました。本システム構成はモジュール式の設計であるため、柔軟に機能を追加・変更でき、様々な生産技術への応用が期待されます。すなわち、本ANLシステムは大腸菌以外の微生物や、グルタミン酸以外の様々な生産ターゲットにも適用可能であり、高い拡張性を有しています。
今後の展開
近年、科学技術の発展に伴い、実験データの自動収集と分析の重要性が増しています。特に、ロボット技術と人工知能(AI)の進歩により、科学的仮説の推定や発見を行う自律型実験システムが注目されています。こうしたシステムは、人の介入なしに実験を計画・実行し、再現性の高いデータを迅速かつ低コストで取得することが可能です。進展著しいバイオテクノロジー分野においても、実験の自動化と効率化が求められています。このような背景のもと、神戸大学と島津製作所はAIとロボット技術を活用したANLの開発を進めています。
ANLは、食品、医薬、環境分野等での幅広いバイオものづくりに貢献することが期待されます。
ANLは、実験の自動実行やデータ解析を通じて、研究者の負担を軽減し、効率的な仮説構築を支援することも目指しています。 今後は、バイオプロダクション分野における実験効率と信頼性の向上に貢献し、バイオものづくりにおいて多様な応用が期待されます。
用語解説
※1合成生物学:生物学、工学、情報科学、化学等を融合した学問分野であり、生物システムを設計・改変し、新しい機能を持つ生物や生体分子を作り出すことや生物システムを理解することを目的としている。※2モジュール式の装置:複数の独立したモジュール(部品やユニット)を組合わせて構成されるシステムや装置。各モジュールは必要に応じて追加・交換・改良が可能な設計になっている。※3ベイズ最適化:未知の関数を推定する機械学習の手法。ロボット制御等、幅広い分野で利用されている。※4グルタミン酸:アミノ酸の一種であり、食品のうまみ成分や脳の神経伝達物質として知られている。謝辞
本研究はJSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)の支援を受けて実施されました。論文情報
タイトル“Development of the autonomous lab system to support biotechnology research”DOI10.1038/s41598-025-89069-y
・著者
Keiji Fushimi, Yusuke Nakai, Akiko Nishi, Ryo Suzuki, Masahiro Ikegami, Risa Nimura, Taichi Tomono, Ryota Hidese, Hisashi Yasueda, Yusuke Tagawa, Tomohisa Hasunuma
・掲載誌
Scientific Reports研究者
蓮沼 誠久教授
先端バイオ工学研究センター

SDGs
※3ベイズ最適化:未知の関数を推定する機械学習の手法。ロボット制御等、幅広い分野で利用されている。※4グルタミン酸:アミノ酸の一種であり、食品のうまみ成分や脳の神経伝達物質として知られている。謝辞
本研究はJSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)の支援を受けて実施されました。論文情報
タイトル“Development of the autonomous lab system to support biotechnology research”DOI10.1038/s41598-025-89069-y
・著者
Keiji Fushimi, Yusuke Nakai, Akiko Nishi, Ryo Suzuki, Masahiro Ikegami, Risa Nimura, Taichi Tomono, Ryota Hidese, Hisashi Yasueda, Yusuke Tagawa, Tomohisa Hasunuma
・掲載誌
Scientific Reports研究者
蓮沼 誠久教授
先端バイオ工学研究センター

SDGs
謝辞
本研究はJSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)の支援を受けて実施されました。論文情報
タイトル“Development of the autonomous lab system to support biotechnology research”DOI10.1038/s41598-025-89069-y
・著者
Keiji Fushimi, Yusuke Nakai, Akiko Nishi, Ryo Suzuki, Masahiro Ikegami, Risa Nimura, Taichi Tomono, Ryota Hidese, Hisashi Yasueda, Yusuke Tagawa, Tomohisa Hasunuma
・掲載誌
Scientific Reports研究者
蓮沼 誠久教授
先端バイオ工学研究センター

SDGs
・著者
Keiji Fushimi, Yusuke Nakai, Akiko Nishi, Ryo Suzuki, Masahiro Ikegami, Risa Nimura, Taichi Tomono, Ryota Hidese, Hisashi Yasueda, Yusuke Tagawa, Tomohisa Hasunuma
・掲載誌
Scientific Reports
研究者
蓮沼 誠久
先端バイオ工学研究センター

SDGs



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