メチル水銀毒性のセレンによる抑制:水俣病発生当時の環境・患者試料を用いた新規解析
【研究キーワード】
水俣病 / メチル水銀 / セレン / 環境試料 / ヒト試料 / 水俣病患者 / 環境
【研究成果の概要】
アセトアルデヒド精留塔ドレイン投与実験で発症させたネコ717号の臓器、水俣湾汚泥、汚染魚(真鯛)、ヒバリガイモドキの全環境試料で、水銀濃度に連動するセレン濃度の上昇が実証された。この結果は、水俣住民は魚介類の摂取を介して高濃度メチル水銀と比較的高いセレンの双方に曝露されていた可能性を示唆した。本年度は各試料の水銀/セレン(Hg/Se)モル比を検討し、全環境保存試料で、Hg/Seモル比は1を超過し、セレン濃度の増加を遥かに上回る高濃度のメチル水銀曝露があったことが検証された。
続いて、重度の脳病理所見を有する水俣病認定患者13名と病理所見が無く、認定を棄却された対照20名の大脳、小脳、肝臓、腎臓の水銀とセレン濃度およびHg/Seモル比の比較検討を行った。患者の水銀濃度は大脳・小脳で対照の約50倍、肝・腎蔵で対照の約70倍であった。患者のセレン濃度は大脳・小脳で対照の約5-7倍、肝・腎蔵で約10倍であり、患者臓器における水銀濃度と量・反応的なセレン濃度上昇が実証された。対照の大脳と小脳のHg/Seモル比は1以下であるのに対し、患者では1を超えていた。これは患者と対照を識別できる特筆すべき結果と考える。
水俣病は肝・腎蔵に脳より高濃度の水銀が蓄積するが、中枢神経傷害が主体で、肝・腎蔵に傷害などは報告されていない。患者の肝・腎蔵では顕著なセレン増加が認められたが、脳でのセレン上昇は比較的低く、対照と比べた患者の脳のHg/Seモル比が肝・腎より高かったという結果は、水俣病で脳が肝・腎蔵より傷害を受け易かった要因の一端を示す可能性があると考えた。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
中村 政明 | 国立水俣病総合研究センター | その他部局等 | 部長 | (Kakenデータベース) |
板井 啓明 | 東京大学 | 大学院理学系研究科(理学部) | 准教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)