放射線誘起表面活性現象を利用した原子炉内構造物防食特性改善
【研究分野】原子力学
【研究キーワード】
原子炉防食 / ステンレス / 応力腐食割れ / 放射線誘起表面活性 / メカニズム / 酸化金属皮膜 / 放射線 / Oxide
【研究成果の概要】
本基盤研究では、原子炉防食、特にステンレス材料の応力腐食割れ防止に必要な放射線誘起表面活性メカニズムの解明及び適切な酸化皮膜の基礎開発を行った。ここで例えば、BWR一次冷却水(炉水)環境では、放射線分解により生成される溶存酸素が炉水内に一定量あるために、腐食反応を支えるカソード反応は溶存酸素還元反応となり、この還元反応と金属溶解反応としてのアノード反応から定常腐食電位が決定されている。炉内構造物表面の酸化金属被膜(SUS、ジルカロイなど)がγ線と反応して、放射線誘起表面活性が生じることにより、新たなアノード反応として低電位で進行するので、通常のカソード防食と同様に、腐食電位を低下でき、また原子炉安全上大きな課題となっている応力腐食割れを抑制することになる。このような技術は特に原子炉高経年化使用において、また近年社会的問題になった原子炉構造物のひび割れ防止に重要な開発を急ぐ必要のある技術であり、本基盤研究成果の寄与は非常に大きい。平成16年度は、RISAによる防食効果を確認し、原子炉内防食実用化の第一段階をクリアすることができた。防食技術の開発では、ジルコニアを溶射したステンレス鋼を高温高圧環境下でγ線照射することにより、腐食電位は-600mV vs. SHE程度まで低下することが確認された。また現時点では、RISA防食被膜としてジルコニア溶射材が最も有望であることが確認できた。さらにRI線源を使用した微弱放射線実験においても、防食効果が確認できた。
本研究においては、世界で初めて確認された放射線誘起表面活性(RISA)による防食(平成14年度萌芽研究)を元に、原子炉内防食実用化の基礎研究を展開し、RISA防食が非常に有効な原子炉技術であることを確認した。
これまで原子炉内腐食防止方法の多くは、近年導入された貴金属注入法を初めとしていずれも海外先進国によって開発されており、本国の原子炉技術はそれらの国外技術に依存しているが、この新しい原子炉内の構造物腐食防止方法は、エネルギー環境技術として我が国の技術水準を向上させ、また世界に貢献できる重要な手段になると期待される。
【研究代表者】