シリコン電子スピン量子ビットの高精度トンネル輸送技術の確立
【研究キーワード】
量子ビット / 量子ドット / 単一スピン / トンネル効果
【研究成果の概要】
本研究は、電子スピンのトンネル過程におけるスピンコヒーレンスの喪失機構を解明し、スピンの量子状態がよく保存されるための条件を明らかにすることを目的としている。ただし、スピンの量子状態の保存とは、偏極成分だけでなく、位相成分も含めた保存のことを指す。このため、そもそもスピンの位相情報が失われにくく、かつ電気的操作性の高いシリコン量子ドットにおいて、トンネル輸送が位相情報に与える影響を評価し、さまざまな過程がトンネル精度に与える影響の解明に取り組んだ。
まず、トンネル輸送を制御する電極電圧パルスの掃引時間を変化させた際の位相情報保持率を詳細に解析することで、以下の結論を得た。輸送されるドット間のトンネル結合を100GHz程度と大きくすると、ナノ秒スケールにおいて、電圧パルス掃引時間に指数関数的に依存するような非断熱トンネルの影響を抑制することが可能である。位相情報の喪失率のうち電圧パルス掃引時間に比例する成分が存在し、この原因として電荷雑音の影響が考えられる。これらの知見を踏まえて、トンネル領域における電子スピンの位相保持時間を詳細に調べたところ、トンネル共鳴条件からの離調に対する依存性が、量子ドットデバイスに働く1/fの電荷雑音と、電子スピンの歳差周波数の電荷雑音感度を考慮することで説明できることを見出した。
以上の結果に加えて、量子状態を保存したトンネル過程を、電子スピン量子ビットの結合性を高める機構として、具体的な量子ビットアレイ構造において活用する方法に関して、検討、提案を行った。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2021-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)