抗体分子の人工設計を目指す抗原抗体相互作用の精密解析
【研究分野】生物物理学
【研究キーワード】
抗原抗体反応 / 相互作用 / X線結晶構造解析 / 可変領域断片 / 特異性 / 親和性 / 進化工学 / 熱量測定 / ファージ提示系 / 蛋白質工学
【研究成果の概要】
抗体分子の抗原に対する認識能の特徴は高い特異性と親和性にあり、その機構解明は蛋白質の分子設計を行う上で、多くの有益な知見を与える。研究代表者らは、抗原抗体双方に変異を導入し相互作用を解析できる系を構築した。この系を基に、遺伝子工学による部位特異的アミノ酸置換並びに滴定型熱量測定により抗原抗体反応の詳細な解析を行ってきた。本研究では、抗体分子の自在な設計を目指し、以下の二つの観点から研究を推進した。
(1) HyHEL10が弱い認識能を示すシチメンチョウリゾチームに対して、前年度において進化分子工学的手法により選択された変異体の認識能を詳細に解析した。可変領域断片(Fv)並びにペプチドリンカーを用いて一本鎖化した一本鎖抗体(scFv)を大腸菌の分泌発現系を用いて調製し、表面プラスモン共鳴並びに熱力学的に解析した。親和性の向上と特異性の向上は、解離速度定数の大幅な減少に由来していたが、熱力学的には二つの方向性(エンタルピー駆動型、エントロピー駆動型)に分かれていた。一本鎖抗体については野生型が単量体で構成されるのに対し、変異体が二量体と単量体の混合物であることが分かり、このことは可変領域間の相互作用に変化を及ぼしていることを示し、この相互作用の変化が特異性親和性の改良をもたらしていることが示唆された。(2)部位特異的変異導入を施した抗体Fv断片と抗原の複合体について、結晶構造解析を行った。野生型Fvについては、Fabと異なる分子機構で、抗原を認識している可能性が示唆された。塩橋に関与するアミノ酸残基に変異を導入した抗体(32A,96A)と抗原の複合体については、変異導入の効果が、構造変化による場合(32A)と水分子の導入による場合(96A)が観察された。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1997 - 1998
【配分額】2,400千円 (直接経費: 2,400千円)