Discovery Sagaサイレントキーワード俯瞰

超伝導 / 超流動 / 量子渦 / 不純物効果 / アンデレーエフ束縛状態 / 局所状態密度 / 量子効果 / 異方的超伝導 / 渦糸 / 電子状態 / 準古典理論 / 走査型トンネル分光 / アイレンバーガー方程式 / 準古典近似 / STM / 分数渦 / ピン止め

時間反転対称性をもつ超伝導渦における不純物効果を調べるために、不純物効果とギャップ方程式の両方を自己無撞着に数値的に解き、超伝導渦まわりのエネルギーギャップの空間依存性の温度変化を調べた。その結果、カイラルP波超伝導体における渦糸まわりでは不純物効果が効かず、渦半径の収縮効果(Kramer-Pesch効果)が極低温まで観測され得ることを理論的に示すことが出来た.これは参照のために行ったS波超伝導渦におけるKramer-Pesch効果が、不純物散乱のために低温ではぼやけてしまうのと対照的である。カイラルP波超伝導体はSr2RuO4で実現していると考えられる。またKramer-Pesch効果は、渦糸周りの電流分布をミューオンスピン緩和法で測定することによって観測され得る。本研究によって時間反転対称性をもつ超伝導渦の特異な性質のひとつが見出され、かつその実験的検証も提案されたことになる。
時間反転対称性をもつ渦糸に対する不純物散乱効果を調べる際の関連テーマとして超流動ボース系における散乱問題に取り組み、異常トンネル効果と呼ばれる低エネルギー粒子に対するトンネル効果を調べた。その結果トンネルバリアーの詳細によらず超流動凝縮体の上の励起粒子は、低エネルギー極限で完全透過することを示した。類似の現象は、バルクのS波超伝導体における非磁性不純物効果や本研究課題のテーマである時間反転対称性をもつ超伝導渦における不純物効果でも見られており、不純物に対する特異な現象は、時間反転対称性をもつ量子凝縮系に普遍的な現象であることが強く示唆される。

超伝導 / 渦糸 / 電子状態 / アイレンバーガー方程式 / 異方的超伝導 / 銅酸化物 / ボロカーバイド / ピン止め / カイラルp波 / ルテニウム系 / 輸送現象

本研究では前年度に引き続き、超伝導渦糸状態における電子状態、不純物効果、電気伝導についての理論的、数値的研究を行った。また実験グループと超伝導渦糸状態に関する共同研究も行った。具体的な成果は以下のとおりである。
前年度、自己無撞着でないボルン近似で、渦糸に局在しているアンデレーフ束縛状態に対する不純物散乱率をS波、P波、D波の場合に計算し、特に、カイラルP波の場合,不純物散乱が渦糸内では起こらないことを見出した。
不純物効果に関する上述の結論の根拠をより確かなものにするために、本年度はアイレンバーガー方程式と自己無撞着なボルン近似の範囲内で準古典グリーン関数を数値的に求めた。そのスペクトル関数から不純物散乱率を求め、解析的近似法による結果と比較し、ボルン散乱体では前年度の結果とよく一致することを見出した(投稿中)。
D波を含む異方的超伝導体におけるピン止めエネルギーを準古典近似の範囲で数値的に調べ、等方的S波超伝導体におけるピン止めエネルギーとの定性的な違いを見出した。具体的には非S波超伝導体においては、空間的に一様な状態に存在する不純物が対破壊効果をもつことにより、ピン止めエネルギーはS波の場合に比べて、転移点近傍で10倍程度まで増強されることがわかった。
これは従来のギンツブルグランダウ理論の範囲でのピン止め理論では取り入れられなかった効果であり、点状欠陥によるピン止めが重要になる実験的状況で観測可能であるはずである(国際会議で発表)。

【研究分担者】
KATO Yusuke	the University of Tokyo	Graduate School of Arts and Science	Associate Professor	(Kakenデータベース)