芸術における公共性
【研究分野】美学(含芸術諸学)
【研究キーワード】
芸術 / 公共性 / 公共圏 / パブリックアート / メセナ / 文化財 / 美学
【研究成果の概要】
近代の美学や芸術理論において美や芸術を自律的なものとする傾向が優勢であったのに対して、現代においては、社会との関係において芸術の機能を考察することの必要性が認知されている。そのような状況認識のもとに、われわれは「芸術における公共性」というテーマを設定し、この問題圏に取り組んできた。3年にわたるこの研究は今年度が最終年度にあたるが、その総合的な研究成果を研究分担者全員の論文集による報告書としてまとめることができた。
このテーマを研究するにあたって、われわれは公共性という概念を明確にする理論的アプローチと、各領域の芸術における公共性の実態を分析する実践的アプローチとを、両者の往還を行いつつ、並行して進めるという方針をとった。理論的アプローチにおいては、公共性の概念の内包が歴史的にどのように変遷したかを探るとともに、現代の美学や芸術論において公共性がどのように理解されているかを解明する作業を行った。実践的アプローチにおいては、パブリックアートなどの現代芸術における公共性の様相の分析、美術館内外における展示方式の考察、アート・プロジェクトや初期映画、あるいは日本の美術教育における公共性の所在など、多様な事例研究を行った。その結果見えてきたことは、公共性の概念自体が今日転換期的な状況にあることと、他方では芸術が有する諸々の媒介機能に対する関心が芸術文化のあらゆる局面で高まってきているということである。芸術における公共性というテーマは様々な領域にわたり、含まれる位相も多様であることから、そこに浮上する問題に対して明快な答えを得るまでには至らなかったが、各分担者がそれぞれの視点から取り組んだ成果を総合し、互いに対照させることによって、少なからぬ光をこのテーマに当て、今後の研究に寄与することができたと考える。
【研究代表者】