近代移行期の家族と地域性:庶民のライフコースと社会的ネットワーク
【研究分野】社会学(含社会福祉関係)
【研究キーワード】
歴史人口学 / 家族社会学 / 地域研究 / 宗門改帳 / データベース / 結婚 / 出生 / 世帯構造
【研究成果の概要】
本研究は、幕末から明治初期(1850〜71年)にかけて全国5地域で各地域630〜2000世帯の情報を有する宗門改帳や戸籍を利用し、庶民のライフコースと、社会的・地理的移動を中心とした社会的ネットワークを分析することから、近代移行期の家族と地域性を探ることを目的とした。真壁(常陸国真壁郡)、多摩(武蔵国南多摩郡)、久居(伊勢国一志郡・安濃郡)、越前(越前国丹生郡・今立郡・坂井郡・大野郡・南条郡)、備中(備中国窪谷郡・都宇郡)の、合計149の村々のデータベースを構築し、明治統計とのつきあわせ、個人・世帯レベルデータでの同居児法、静態初婚年齢法、ハンメル・ラスレット世帯分類法を活用した分析を行った。
結婚年齢と出生率推計からは、関東の真壁と多摩の早婚に対して、久居、越前、備中の晩婚パターンと、越前で高いレベルの出生率が明らかになった。その多摩と真壁は、直系家族世帯中心型であり、継承者の結婚年齢の早さ、戸主交代の早さ、平均世帯規模の大きさ、女子戸主率の低さという点でも、他の3地域と対照的であった。真壁と備中では他地域にない複合家族世帯が観察されたが、その拡張方向は結婚年齢に左右されていた。さらに、社会経済階層別の分析では、地域差を越えてその共通性が明らかになり、社会経済的地位は、結婚年齢とは負の、出生力や世帯の複雑さとは正の明らかな相関関係が判明した。また地理的・社会的ネットワークも、階層差に大きく影響されていた。
以上の分析結果から、マクロレベルの人口資料が存在しない1846年から明治初年まで、いわゆる「空白の四半世紀」についての出生・結婚動向と世帯構造・継承パターンが明らかとなり、その地域性が解明された。単純な地域類型論にとらわれない実証分析の必要性と、これまでの歴史人口学で利用されてこなかった単年資料の活用法を大いに示唆するものである。
【研究代表者】