奥行き情報の矛盾が生み出す超立体感:「二重否定仮説」の検討
【研究分野】実験心理学
【研究キーワード】
奥行き手がかり / 空間知覚 / 両眼立体視 / 手がかり統合 / 単眼性(絵画的)手がかり / 両眼性手がかり / 視知覚 / 絵画的手がかり / 奥行き知覚 / 事前知識 / 恒常性 / 錯視 / 個人差 / 両眼視差(両眼網膜像差) / 立体視 / 立体感 / 臨場感 / 実験系心理学 / 視覚 / ベイズ
【研究成果の概要】
本研究の目的は,過去の経験とそれに基づいた網膜像の解釈が,視覚体験の質に及ぼす影響について明らかにすることである。例えば我々はステレオグラムやある種の騙し絵に,そのようなシンプルな視覚刺激よりも遥かにリッチな奥行き情報を含んでいるはずの現実世界にはない強い立体感を覚えることがある。本研究が検討する中心的な仮説は,ステレオグラムや錯視を見る際に生じるあの独特な体験の質が,典型的な観察条件下における網膜像の解釈が覆される際に生じる一種の「驚き」に起因する,というものである。
本年度は「事前知識と感覚データの間のギャップが観察者の視覚体験の質に及ぼす影響」という本研究における大枠の興味に則して,いくつかのオンライン観察調査を行った。ひとつは,知覚の恒常性に由来すると考えられる一群の錯視(目の錯覚)と,アナモルフォーズと呼ばれる通常錯視とは別ものとされる視覚現象が,同一のメカニズムで説明可能であるという,前年度に得た着想に基づくものであり,この結果から,垂直水平錯視およびシェパード錯視とよばれる錯視現象が,いずれも典型的な観察条件で生じる網膜像からの逸脱によって説明できること(すなわち,これらの錯視が一種のアナモルフォーズと見做せること)が示唆された。また,同一の視覚刺激に対する解釈が個人によって大きく分かれる現象(例:“the dress” と呼ばれる,人によって青黒・白金に色の解釈が分かれる画像)について,網膜像を解釈する際に用いる事前知識の偏りがその原因であるという仮説に基づき,特定の刺激に対する視覚的順応によってその見え方をある程度制御できることを明らかにした。
また,本年度はアウトリーチ活動の一環として,東京大学駒場祭準備委員会の招待を受け,上記の錯視現象を含む視知覚のメカニズムに関する一般向けのオンライン講演を行った。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2017-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)