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東北大学 研究Discovery Saga
2026年10月19日

リュウグウのナトリウムと塩素は、塩ではなく吸着態で存在

―アミノ酸などの生体物質の合成や地球への水供給への示唆―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
C型小惑星の進化や、初期地球への水の供給過程の解明に貢献することが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学化学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
リュウグウ/初期地球/生命の起源/反射スペクトル/放射光/放射光X線/スペクトル/小惑星/惑星/ケイ素/XANES/回折格子/水環境/単結晶/電子状態/マグネシウム/マグネタイト/酸化物/粘土鉱物/有機物/層構造/ナトリウム/水素ガス/アミノ酸/核酸塩基
2026年10月19日 10:00

研究者情報

〇大学院理学研究科地学専攻 助教 松本恵
大学院理学研究科地学専攻 教授 中村智樹
研究室ウェブサイト

発表のポイント

C型小惑星リュウグウでは、塩素(Cl)はナトリウム(Na)と結びついた"塩"(NaCl)としてではなく、その殆どが粘土鉱物への吸着態として存在する。
こうした吸着反応を考慮した化学平衡計算から、リュウグウ母天体中の水環境は強塩基性・強還元的であると推定され、これはアミノ酸や核酸塩基などの生体物質合成に有利な条件である。
塩が少ないことは、水の消失過程が液体の水の蒸発ではなく、氷の昇華であることを示唆し、その結果、水はC型小惑星に多く保持され、それが地球などに供給されたと考えられる。

発表概要

東京大学大学院理学系研究科の河合敬宏大学院生(研究当時)、高橋嘉夫教授、金沢大学の福士圭介教授らによる研究グループは、放射光X線(注1)を利用したX線吸収端近傍構造(XANES)(注2)を用いてC型小惑星(注3)リュウグウ中の元素の化学種を分析しました。その結果、リュウグウ母天体中に存在した液体の水の中で、NaやClの殆どはNaClのような塩ではなく、粘土鉱物(注4)への吸着態として存在することを発見しました。さらにこれを考慮した化学平衡計算から、リュウグウ母天体中の水質変成は、強塩基性・強還元的条件で進行したことを示しました。こうした水環境は、アミノ酸や核酸塩基などの生体有機物の非生物的合成に有利な環境です。またリュウグウの水環境は水素ガスに富むと示唆され、リュウグウが母天体表面の氷の下で変成を受け、リュウグウからの水の消失は主に氷の昇華によることを示唆しています(図1)。この成果は、C型小惑星の進化や、初期地球への水の供給過程の解明に貢献することが期待されます。



リュウグウ試料研磨片の反射電子像と透過電子像
(Po: ピロータイト; Do: ドロマイト; Mag: マグネタイト; Phys: 層状ケイ酸塩)

用語解説

(注1) 放射光X線
放射光X線とは、実験室で使うような通常のX線源とは異なり、光速に近い速度まで加速させた電子が、磁石によって進行方向を曲げられる際に放出される、非常に明るいX線のことである。回折格子や単結晶を用いた分光と組み合わせることで、様々なエネルギーにおいて、そのエネルギーだけを取り出したX線(単色X線)を利用することができる。
(注2) X線吸収端近傍構造(XANES)
X線吸収端近傍構造(XANES)とは、試料に当てるX線のエネルギーを変化させた際の、X線の吸収率を表したスペクトルのことである。XANESの形状は各元素の周りの電子状態を反映するため、目的試料と標準試料のスペクトルを比較することで、その元素がどのような化学種(例えば価数)で存在しているかを明らかにすることができる。
(注3) C型小惑星
「C型小惑星」とは、地球から見える反射スペクトルに基づく小惑星の分類のひとつである。他の小惑星よりも、炭素などの有機物に富むという性質を持ち、生命の起源に関わるとして重視されている。
(注4) 粘土鉱物
粘土鉱物とは、ケイ素の酸化物を主成分とする層構造を持つ鉱物で、一般に層状ケイ酸塩とも呼ばれる。リュウグウの主成分は、サポナイトとリザーダイトと呼ばれる、マグネシウムも多く含む粘土鉱物である。

論文情報

タイトル:Reconstructing the aqueous environment of the Ryugu parent body through the speciation of multiple elements
著者: Takahiro Kawai, Keisuke Fukushi, Tomohiro Ohno, Hiroki Suga, Masayuki Uesugi, Ayu Takemoto, Akiko Yamaguchi, Takaaki Itai, Yuta Ijichi, Shohei Yamashita, Yasuhiro Niwa, Ryoichi Nakada, Mizuho Koike, Hideto Yoshida, Masaki Oura, Megumi Matsumoto, Tomohiro Usui, Yoko Kebukawa, Takazo Shibuya, Shogo Tachibana, Yasuhito Sekine, Tomoki Nakamura, and Yoshio Takahashi
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-78348-5

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科地学専攻
助教 松本 恵(まつもと めぐみ)
Email: m_matsumoto*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院理学研究科地学専攻
教授 中村 智樹(なかむら ともき)
Email:tomoki.nakamura.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)