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東京大学 研究Discovery Saga
2026年10月13日

西太平洋マリアナトラフの海底拡大史の全貌を解明

―630万年に及ぶ海盆スケールの復元に成功―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
典型的な背弧拡大であるマリアナトラフの形成史が明確になったことで、背弧海盆に囲まれた日本列島の成り立ちの理解に貢献することが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学生物学
【Sagaキーワード】
海洋/対称性/非対称性/テクトニクス/プレートテクトニクス/マグマ/マントル/沖縄トラフ/海洋地殻/玄武岩/磁気異常/重力異常/大陸地殻/地殻変動/地磁気/中央海嶺/沈み込み/沈み込み帯/日本列島/背弧海盆/磁場/西太平洋

2026年10月7日
東京大学
神戸大学



要約版PDF

発表のポイント

◆30年以上の観測データを統合し、マリアナトラフにおける過去630万年間の海底拡大史を海盆スケールで復元しました。
◆ベクトル磁場解析等により、拡大初期の厚い地殻形成や拡大方向の変化や非対称性、非剛体的運動など,拡大史の全貌を世界で初めて解明しました。
◆典型的な背弧拡大であるマリアナトラフの形成史が明確になったことで、背弧海盆に囲まれた日本列島の成り立ちの理解に貢献することが期待されます。



マリアナトラフの海底拡大過程

発表概要

東京大学大気海洋研究所の小野誠太郎大学院生(研究当時)、沖野郷子教授、山崎俊嗣東京大学名誉教授、神戸大学の島伸和客員教授らの研究グループは、西太平洋マリアナトラフの形成史を解明しました。 マリアナトラフはグアム島西方に広がる背弧海盆で、現在も海底拡大が続いています。研究グループは、30年以上にわたる観測で得られた詳細な地形、地磁気異常、重力異常データを解析し、630万年前から現在に至る海盆全体の形成史を精密に復元することに成功しました。 これまで赤道付近における地磁気解析の難しさから海盆全体の把握は困難でしたが、磁場をベクトル量として捉える手法等により克服しました。背弧海盆における海底拡大の開始から進化までを海盆スケールで復元した例は世界的にも稀であり、日本周辺を含む西太平洋の海底の成り立ちや、背弧拡大メカニズムの理解を大きく進展させる成果です。



図1:マリアナトラフの地球物理データの解析結果。(左) 海底地形。現在の拡大軸は複数のセグメントに分かれており、海盆中央より東にずれています。(中) 地磁気異常分布に基づく海底年代の同定結果。認定できた最も古い地磁気異常年代は630万年前。(右) 重力異常から推定した地殻の厚さ。

発表内容

日本周辺を含む西太平洋の沈み込み帯には、海溝に沿って「背弧海盆」と呼ばれる盆地状の海底が広がっています。プレートの沈み込みに伴い地殻が引っ張られると、地殻が引きちぎられてマントルが上昇し、新たな海底を生み出す「背弧拡大」が起こります。背弧拡大は数百万〜千数百万年で終了するのが一般的ですが、なぜ拡大が始まり、どのように終わるのかという根本的な謎は未解明のままでした。
小笠原諸島の南に位置するマリアナトラフは、現在も拡大が続く典型的な背弧海盆です。これまで個別の地域的研究はありましたが、海盆全体の拡大プロセスの全貌は分かっていませんでした。
【研究の成果】本研究では、1990年代以降に行われた日本船による32回の航海と米国船による11回の航海データを統合解析しました。赤道付近の東西拡大では地磁気の変化(全磁力異常)が小さく解析が難航しますが、磁場を「ベクトル量」として計測・解析する手法を用いることでこの問題を克服しました。
解析の結果、以下の事実が明らかになりました:
•  拡大初期のメカニズムと変遷:約630万〜400万年前の初期段階では、海嶺軸が島弧の近くに位置したことで沈み込むプレート由来の流体がマグマ生成を促進し、通常より厚い海洋地殻(注1)が形成された。また初期の拡大方向は北東—南西方向であったが、400万〜300万年前に海溝に直交する方向へと変化した。
•  拡大速度と非対称性:拡大速度は年25〜45mmで、南部ほど速く、東西で非対称な発達を示した。
•  非剛体的な挙動:海溝に沿った南北方向の伸張も確認され、背弧拡大過程においてプレートが必ずしも硬い一枚岩(剛体)(注2)としてふるまわないことが示された。
【今後の展望・社会的意義】日本海や四国海盆は拡大を終えた背弧海盆であり、沖縄トラフや伊豆諸島周辺はまさに背弧海盆が形成されつつある地域です。日米の長年の観測データを集大成し、背弧拡大の始まりから現在に至るプロセスが解明されたことは、私たちが暮らす日本列島の成り立ちや地殻変動の過去・現在・未来を理解する上で極めて重要な足がかりとなります。

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院理学系研究科/大気海洋研究所
小野 誠太郎 大学院修士課程(研究当時)
 現:産業技術総合研究所 研究員
東京大学 大気海洋研究所
沖野 郷子 教授
山崎 俊嗣 東京大学名誉教授
神戸大学 海洋底探査センター
島 伸和 客員教授
日本海洋事業株式会社
岩本 久則

論文情報

雑誌名:Journal of Geophysical Research – Solid Earth
題 名:Tectonic evolution of the Mariana Trough
著者名:Seitaro Ono, Kyoko Okino, Nobukazu Seama, Toshitsugu Yamazaki, Hisanori Iwamoto
DOI: 10.1029/2026JB034591
URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2026JB034591

研究助成

本研究は、科研費基盤研究(B)課題番号:23K22590)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)海洋地殻:中央海嶺や背弧海盆において、地下のマントル物質が上昇し、圧力が下がることによって溶けて玄武岩質マグマとなり、そのマグマが海底や海底直下の浅いところで冷えて再び固結することでできます。世界中でどこでも概ね厚さが6km程度で、大陸地殻よりはるかに薄いことが知られています。
(注2)剛体:外から力を加えても変形しない理想的な物体。プレートテクトニクスの枠組みでは、プレートを剛体として扱いますが、もちろん自然界に全く変形しない理想的な物体はなく、実際にはプレートも「剛体的でない」振る舞いをします。

問い合わせ先

東京大学大気海洋研究所
教授 沖野 郷子(おきの きょうこ)
E-mail:okino◎aori.u-tokyo.ac.jp※アドレスの「◎」は「@」に変換してください