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自然科学研究機構 研究Discovery Saga
2026年10月7日

星の最終進化始まりの姿を捉える

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学化学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
核融合/干渉計/Ia型超新星/スペクトル/銀河/恒星/新星/星形成/星形成領域/赤外線/太陽/太陽系/超新星/天文学/電波干渉計/電波望遠鏡/望遠鏡/連星/連星系/惑星/ケイ素/マイクロ/マイクロ波/装置開発/メタノール/寿命
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プレスリリース release

発表概要

鹿児島大学理工学研究科附属天の川銀河研究センターの今井 裕 教授(本務所属:鹿児島大学総合教育機構共通教育センター)はじめ甘田 渓 国立天文台研究支援員(元鹿児島大学理工学研究科大学院生)及びルセロ・ウスカンガ教授(メキシコ グアナファト大学)らメキシコ・スペイン・オランダ・スェーデンの研究者から成る国際共同研究チームは、さそり座にある赤外線で明るい星 IRAS(アイラス)16552-3050から噴き出る極めて多量かつ高速の双極ガス流の根本を成す構造を明らかにしました。この天体は二つの星が互いに回り合う連星系であると推定されており、この観測結果は、2つの星同士がいよいよ合体する段階に入ったことを示します。これは、観測上大変稀な段階を捉えていることを示すものであり、連星系が最終的にどの様な進化をたどるのか(新星やIa型超新星になる?)を探る上で、その初期段階の状況を明らかにするものです。この研究成果は、日本天文学会欧文研究報告誌(以降「出版論文」と呼ぶ)にて2026年5月に報告されました。



図1. 赤外線星IRAS 16552-3050付近の想像図(Credit: 木下真一郎/鹿児島大学)
詳細な説明
太陽の様に核融合反応を起こして自ら光る恒星(以下単純に「星」と呼ぶ)は、その大多数が星間ガス雲から2つ以上同時に生まれることが知られています注1。これら2重星(連星)系・3重星系などは、一旦重力的に安定すると、星系として存在する期間の大部分において、お互いの星の周りを公転し続けます。やがて、これら星々の寿命が近づき、急速に膨らむ様な進化段階に入ると、先に寿命を迎えた星がその外層にあるガスを吹き飛ばした後に芯だけが残ります。さらにもう1つの星も寿命を迎えて膨張すると、公転軌道の半径が十分小さくなった(太陽—地球間の距離かそれ以下)星系では、先に進化して芯だけとなった星さえも飲み込む状況が生まれます。ここで、1つ目の星の膨張時とは異なり、コンパクトになった1つ目の星の表面へは、2つ目の膨張した星から勢い良く物質が降り注ぎ、高速回転したその様な物質の一部が双方向に勢い良く高速で噴き出ることが予想されます。この高速物質流(ジェット)について、いつから出現し、どれくらいの期間持続し、その間どの程度の物質をどの様に星間空間へと撒き散らすのか、その結果これらを含む星系はどんな末路をたどるのか注3、という点が研究上解明するべき点となっています。
 研究チームは、上記の様なジェットに注目し、そこから放射される宇宙メーザー注2の研究に取り組んできました。この様なジェットのうち、水メーザーが存在するものを「宇宙の噴水」と呼びます。この様な天体は、天の川銀河にある数1000億個とも想定される星々のうち、わずか20天体程度しか存在が確認されていません。このことから、長いもので100億年に及ぶ星の寿命のうちわずか100年程度「宇宙の噴水」として存在する事がうかがえます。今井教授らは、大集光力を持つ野辺山45m電波望遠鏡に水と一酸化ケイ素メーザーの電波輝線を同時に効率良く観測できる準光学系を開発し注4、宇宙の噴水に対しメーザー源監視観測を行いました。監視を開始して間も無く(2021年2月)、赤外線星 IRAS 16552-3050にて、水だけでなく一酸化ケイ素のメーザーが新たに出現していることを発見しました(関連記事[1][2])。図2では、その1年後以降に観測された一酸化ケイ素メーザーのスペクトルを示しています。



図2. 野辺山45m電波望遠鏡で取得された 赤外線星IRAS 16552-3050からの一酸化ケイ素メーザー放射のスペクトル(出版論文Fig. 1改変)。
  メーザーのスペクトルだけでは、メーザー源がこの星系のどこでどの様に生じているのか分かりません。そこでウスカンガ教授らと連携し、南の空にあるこの星系を電波撮像が可能な豪州にある電波干渉計注5ATCAを用いて観測しました。その結果、以前から存在が確認されてきた水メーザー(そのスペクトルを図3に示す)の分布のほぼ中央に一酸化ケイ素メーザーの分布域が存在することが判明しました(図4)。図4から、外側に広がって見える水メーザーの領域はジェットの形状を示し、一酸化ケイ素メーザーの領域はジェットを取り巻く様にその根本付近にて低速で広がるガス流の存在を示している事がうかがえます。その様子は記事冒頭の想像図(図1)で示されていますが、図中央で最も明るく光る点がこのジェットを吹き出す連星系を(小さ過ぎて2つの星に分解して見えない)、その周囲で白く光る点状光源がこの一酸化ケイ素メーザースポットを表します。



図3. Australia Telescope Compact Array(ATCA)で取得された 赤外線星IRAS 16552-3050からの水メーザー放射のスペクトル(出版論文Fig. 5改変)。
 水や一酸化ケイ素メーザーを励起する物理条件などを含めて考察すると、この星系では次の様な進化が進んでいると推察されました。この星系を覆い一酸化ケイ素メーザーを励起させる星周物質縁は今から300年以上前から発達し、今から20年ほど前から急速発達してきた双極ジェットとこの星周物質縁の物質が衝突する様になり、一酸化ケイ素メーザーの励起が始まった模様です。また、野辺山45m鏡による継続観測では、このメーザーが見られる期間は3年以内に限定されていました。このことから、一酸化ケイ素メーザーを励起する様な勢いを持ったジェットは断続的なものであることがうかがえます。
 今回新たになったIRAS 16552-3050に付随する一酸化ケイ素メーザーの放射分布と時間変化については、今後10—20年以内に再び同様なものが観測されるはずです。その時に、この星系が本当に想定されている様な連星系なのか(この天体の距離は27000光年のため連星系中の星を分解撮像できない)、連星軌道周期やそれぞれの星の素性(質量や進化段階など)が判明し、この星系の進化経路が解明されるはずです。こうして、新星や超新星(特にIaと呼ばれるタイプ)にならなければ推定材料が得られなかった連星系の進化に対し、「宇宙の噴水」天体の観測を通しそうなる前の段階における手がかりを得る事が期待されます。



図4: ATCA撮像で観測された赤外線星IRAS 16552-3050周囲で光る水及び一酸化ケイ素メーザースポット群の分布(出版論文Fig. 5改変)。
研究体制
ウスカンガ ルセロ (メキシコ グアナファト大学)
今井 裕(鹿児島大学)
甘田 渓(国立天文台)
ゴメス ホセ フランシスコ, サントトーマス パブロ
(スペイン アンダルシア天体物理研究所)
グレイ マルコルム, アサノック キティヤーネ(タイ国立天文学研究所)
マッコーシー ティーグ,  オロス ガボール(欧州超長基線電波干渉法研究所)
タフォヤ ダニエル(スェーデン シャルマース工科大学)

出版雑誌論文情報
Uscanga, Lucero; Imai, Hiroshi; Amada, Kei, et al.
“Mapping the SiO masers in IRAS 16552-3050”
Publications of the Astronomical Society of Japan, Volume 78, Issue 3, p.1154—1162
出版日: 2026年5月1日
謝辞
この研究は、日本学術振興会 (JSPS) の科学研究費(KAKENHI)(課題番号16H02167, 21H00047) 及び外国人招へい研究者事業(課題番号JPSJBP120239936)から一部助成を頂き行われました。
関連記事:
[1] 甘田 渓, 他,「星の最終進化始まりの合図を発見」
鹿児島大学理工学研究科附属天の川銀河研究センターニュース, No.1, p.3—4
(2021年10月1日)
[2]「星の最終進化始まりの合図を発見」(日本天文学会及び鹿児島大学記者会見)
(2021年9月14日)
https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/2021/09/post-1823.html
注釈・用語説明
注1 私たち人類が住む太陽系は、たまたま太陽だけが圧倒的に大きい質量を持ち、木星や地球など小質量を持つ多くの惑星や小天体が太陽と共に誕生したと考えられています。
注2 メーザー(maser=microwave amplification by stimulated emission of radiation)は一般に、指向性が極めて高く極端に増幅された強力なマイクロ波放射を指す。星間空間においては、水(H2O)をはじめ一酸化珪(ケイ)素(SiO)、水酸基(OH)、メタノール(CH3OH)等の分子を含むガス雲から、マイクロ波にとどまらず波長1 mm—1m の範囲で多数のメーザー輝線が観測されている。特殊ではあるが物理条件が揃えば、長大な増幅経路が天然でも形成され、多くの星形成領域や終末星周囲物質縁などで見られる。
注3 これら星系の一部は、コンパクトな星がやがて自重を支えきれずに収縮し、核融合反応が暴走した結果最後に大爆発を起こしてIa型超新星として輝く事が想定されています。
注4 この準光学系は、今井が代表を務める装置開発事業HINOTORI(火の鳥, Hybrid Integration Project in Nobeyama, Triple-band Oriented) (NRO News No. 137, 139)にて開発され、2026年2月より一般研究ユーザーに公開されました。
注5 複数の電波望遠鏡を同時に用いて同じ天体を追尾・観測するシステム。南米チリで運用中のALMA(Atacama Large Millmeter-submillimeter Array)もこの種のシステムの1つです。