エナンチオ分割で高発光性ラセミ金-銀クラスターを円偏光発光体へ(江原グループら)
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 配位子、クラスター、デバイスの設計をさらに最適化することで、先端フォトニクス、ディスプレイ、情報セキュリティ技術への展開が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
最適化/情報セキュリティ/対称性/非対称性/スペクトル/エナンチオマー/円二色性/コレステリック液晶/円偏光発光/キラリティー/キラル/ディスプレイ/ホスフィン/液晶/金属クラスター/不斉合成/トレードオフ/円偏光/質量分析/カルボン酸/銀イオン/前駆体/DFT/フォトニクス/ボトムアップ/複合化/単結晶/ポリマー/メタン/単結晶X線構造解析/X線構造解析/リン酸/スルホン酸/配位子
2026/09/29
研究成果
発表のポイント
・ 円偏光を発するキラル金属クラスターでは、フォトルミネッセンス効率と発光非対称性の間にトレードオフが生じやすい。本研究では、高発光性のラセミな炭素中心型金(I)-銀(I)クラスターを、キラルドナー配位子によるエナンチオ分割によって高輝度CPL発光体へ変換できるかを検証した。・ キラルなカルボキシラート、リン酸、スルホナート配位子を用いて、3組のエナンチオ純粋なクラスターを単離した。リン酸保護型のペアはPLQY 0.92/0.93、|glum| 0.008を示し、検討したクラスターの中で最良の組み合わせを達成した。
・ リン酸保護型クラスターとコレステリック液晶デバイスを組み合わせることで、|glum|は1.25まで増幅され、クラスター薄膜単独の150倍超となった。さらに、偏光に応じた情報暗号化を実証した。
・ 本成果は、キラル酸素ドナー配位子を用いたエナンチオ分割が、高輝度CPL活性金属クラスターを設計するための簡便な戦略であることを示し、フォトニクス、ディスプレイ、情報セキュリティ技術への応用可能性を示している。
研究チームは、高発光性でありながらラセミな炭素中心型金(I)-銀(I)クラスターにキラル酸素ドナー配位子を作用させることで、強いフォトルミネッセンスを保ったまま円偏光を発する能力を持つ鏡像体(エナンチオマー)へと分離できることを示しました。リン酸保護型のエナンチオマーペアは、検討したクラスターの中で最大の発光非対称因子(|glum| = 0.008)と0.92/0.93のフォトルミネッセンス量子収率を同時に達成し、さらにこのクラスターをコレステリック液晶との複合デバイスに組み込むことで、デバイスレベルの|glum|は1.25まで向上しました。
円偏光発光(CPL)は、電場ベクトルが一定の向きに回転する光を発する現象で、光学応用で注目されています。しかし、その材料には、吸収した光子のうち再放出される割合を表す高いフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)と、発光がどの程度強く円偏光しているかを表す大きな発光非対称因子(|glum|)という、両立が難しい2つの特性が求められます。キラル金属クラスターは候補材料の一つですが、従来のボトムアップ型不斉合成では、これら2つの特性を同時に実現することが困難でした。これまでに、ほぼ100%に近いPLQY(最大0.92)を示すラセミな炭素中心型Au6Ag6およびAu6Ag5クラスターが得られていましたが、ラセミ体であるためCPLは示しませんでした。そこで本研究では、合成段階からキラリティーを導入するのではなく、キラル酸素ドナー配位子を用いてラセミ混合物を2つの鏡像体に分離するエナンチオ分割によって、強い発光を維持しながら十分な|glum|を得られるかを検証しました。
研究チームは、金-ホスフィン前駆体に銀イオンと、キラルまたはアキラルなカルボン酸、ホスフィン酸、リン酸、スルホン酸を組み合わせて炭素中心型Au6Ag6およびAu6Ag5クラスターを合成しました。得られたエナンチオ純粋なクラスターを、単結晶X線構造解析、質量分析、NMR、溶液・固体状態でのフォトルミネッセンス、円二色性(CD)、CPL分光法で評価し、TD-DFT計算による解析も行いました。さらに、CPL信号の増幅可能性を検証するため、クラスターを添加したポリマー薄膜とコレステリック液晶を組み合わせたデバイスを作製しました。
ジクロロメタン溶液中では、リン酸保護型クラスター対(R/S-5)が3種の配位子系の中で最も高いPLQY(0.92/0.93)と|glum|(0.008)を示しました。これに対し、カルボキシラート保護型(R/S-3)はPLQY 0.37/0.36、|glum| 0.003、スルホナート保護型(R/S-7)はPLQY 0.21/0.21、|glum| 0.002でした。測定した減衰速度定数から、完全に保護されたAu6Ag6クラスターの放射速度はAu6Ag5クラスターより高く、非放射速度はカルボキシラート、ホスフィナート、リン酸配位子の順に低下し、観測されたPLQYの傾向と整合することが分かりました。3組すべてのエナンチオマーについて、固体状態の|glum|(0.002-0.003)は溶液中またはポリマー(PMMA)薄膜中より明確に低く、周囲の環境が円偏光度に大きく影響することが示されました。CDスペクトルでは、溶液中および薄膜中でR体とS体が鏡像関係の信号を示し、配位子からクラスターへのキラリティー移行が確認されました。一方、固体状態のCD信号は弱く、とくにスルホナート型で顕著でした。DFT計算では、R-7のHOMO-LUMOギャップ(3.33 eV)がR-3(3.71 eV)およびR-5(3.88 eV)より小さく、これは最高被占分子軌道のエネルギー上昇に起因するとされました。さらにTD-DFT計算では、R-5の強いCPLは、配位子ではなくキラル金属コアに局在した大きな旋光強度を持つ低エネルギー電子遷移に由来すると解釈されました。リン酸保護型クラスターをコレステリック液晶と組み合わせた複合デバイスでは、|glum|が1.25に達しました。同じデバイス構造でアキラルクラスター類縁体は0.89であり、クラスター薄膜単独と比べると150倍超の値です。
以上の結果から、高発光性Au-Agクラスターのエナンチオ分割は、高輝度CPL活性発光体を得るための簡便な手法であることが示されました。とりわけリン酸保護型のペアは、酸素ドナー配位子が発光効率とキラル光学応答を調整する実用的な設計要素となることを示しています。コレステリック液晶との複合化により、デバイスレベルでCPLがさらに増幅され、偏光に応じて異なる情報パターンを表示できることも実証しました。今後、配位子、クラスター、デバイスの設計をさらに最適化することで、先端フォトニクス、ディスプレイ、情報セキュリティ技術への展開が期待されます。
論文情報
著者:Wen-Ting Liu, Pei Zhao, Zi-Ang Nan, Wen-Jing Hu, Jia-Jing Lan, Qiao-Hua Wei, Zhen Lei, Masahiro Ehara, Quan-Ming Wang掲載誌:Advanced Optical Materials
論文タイトル:"Enantioresolution of Well-Defined Au-Ag Clusters With Near-Unity Phosphorescent Quantum Yields for Brilliant Circularly Polarized Luminescence"
DOI:10.1002/adom.71553
研究サポート
National Natural Science Foundation of China22371044, 22531004, 92361301
JSPS科研費 学術変革領域研究 (A)
JP22H05133
JSPS科研費 若手研究
JP24K17663
自然科学研究機構岡崎共通研究施設・計算科学研究センター
25-IMS-C224
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