\針を使わず、mRNAを内耳へ/ 内耳疾患治療に向けた 低侵襲メッセンジャーRNA(mRNA) 送達技術を開発
ジェット噴射型デバイスによる鼓室内投与の有用性を実証
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 難聴などの内耳疾患を対象とするメッセンジャーRNA(mRNA)医薬の新たな送達技術への応用に期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
2026-9-14●生命科学・医学系感染症総合教育研究拠点感染症(CiDER)教授位髙啓史発表のポイント
針を使わないジェット噴射型デバイスにより、鼓膜を介して薬剤を鼓室内へ低侵襲に投与する新たな方法を開発従来の注射針による投与と同等の薬剤送達効果を維持しながら、鼓膜の損傷を小さく抑え、より早く治癒することを確認
投与後も聴覚機能がほぼ維持され、繰り返し投与にも適した低侵襲な投与法となる可能性を示した
将来、難聴などの内耳疾患を対象とするメッセンジャーRNA(mRNA)医薬の新たな送達技術への応用に期待
発表概要
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)臨床生命工学チーム(東京科学大学核酸・ペプチド創薬治療研究センター兼任)の位髙啓史教授、寺井湧貴さん(博士課程)、東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の鴨頭輝助教、佐原利人医師(医学系研究科医学博士課程)、東京逓信病院の山岨達也病院長(東京大学名誉教授)、株式会社ダイセルの長谷川崇志研究員、団野篤史研究員らによる研究グループは、新しい創薬モダリティとして注目を集めるmRNA医薬を用いた内耳疾患治療薬のアプローチとして、針を使用しないジェット噴射型デバイスにより、鼓膜を介して薬剤を鼓室内へ低侵襲に投与する新たな方法を開発しました。従来の針を用いた鼓室内投与では、鼓膜の損傷や疼痛、聴力への影響などが問題で、mRNA医薬など繰り返し投与が必要となる新しい治療法の実用化を考えるうえでは、内耳への薬剤送達をより安全かつ低侵襲に行う技術の開発が求められています。
研究グループは、ジェット噴射型薬剤投与術に着目し、封入したmRNAの送達性能と安全性を検証しました。その結果、中耳および内耳において従来法と同等のタンパク質発現が得られ、さらに、鼓膜に生じる穿孔は有意に小さく、より早期に自然閉鎖することが明らかになりました。
本研究成果により、鼓膜の損傷を抑え、内耳へより低侵襲に薬剤を届けられるデバイスの開発が期待されます。
本研究成果は、国際科学誌「Otology & Neurotology」に、2026年8月31日(月)(米国東部時間)に公開されました。

図. (左)ジェット噴射型デバイスを用いた鼓室内投与(右上)デバイスの外観(右下)投与後の鼓膜写真・鼓膜穿孔の大きさ
研究の背景
内耳は、聴覚や平衡感覚を担う重要な器官である一方、頭蓋骨の深部に位置し、薬剤の投与が難しい部位です。従来、突発性難聴をはじめとする一部の内耳疾患では、薬剤を内耳へ局所的に届ける方法として、鼓膜を細い注射針で穿刺し、中耳腔へ薬剤を投与する『鼓室内投与』が臨床で行われています。中耳腔に投与された薬剤は、蝸牛の入口に位置する正円窓膜などを介して内耳へ移行することが期待されます。しかし、従来の針を用いた鼓室内投与では、鼓膜の損傷や疼痛、聴力への影響などが問題となり得ます。特に、mRNA医薬など繰り返し投与が必要となる新しい治療法の実用化を考えるうえでは、内耳への薬剤送達をより安全かつ低侵襲に行う技術の開発が求められています。
研究の内容
研究グループは、内耳疾患に対する新たな治療法の実現を目指し、mRNA医薬の研究開発を進めています。本研究では、薬剤を微細な孔から高速で噴射するジェット噴射型デバイスを用いて、鼓膜を介してモルモットの鼓室(中耳)内へ脂質ナノ粒子(LNP)に封入したmRNAを投与し、その送達性能と安全性を従来の注射針による投与法と比較しました。その結果、新たなデバイスを用いた場合でも、中耳および内耳において従来法と同等のタンパク質発現が得られる一方、鼓膜に生じる穿孔は有意に小さく、より早期に自然閉鎖することが明らかになりました。さらに、従来の注射針による投与では聴性脳幹反応(ABR)の閾値上昇が認められたのに対し、新たなデバイスでは有意な悪化は認められませんでした。これらの結果から、本手法は、薬剤の送達性能を維持しながら、鼓膜への損傷と聴覚機能への影響を低減できる、低侵襲な鼓室内薬物投与法となる可能性が示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、内耳への薬物送達に伴う侵襲性を低減しながら、従来法と同等の薬剤送達効果を得られる可能性を示したものです。特に、mRNA医薬のように複数回の投与が必要となる可能性のある治療では、投与のたびに生じる鼓膜への負担や聴覚機能への影響をできる限り抑えることが重要です。本技術は、既存の鼓室内薬物療法の低侵襲化に加え、mRNA医薬など新しい治療モダリティを内耳へ繰り返し届けるための基盤技術となることが期待されます。これまで有効な治療法が限られてきた内耳疾患に対し、新たな治療選択肢を拓くことにつながる成果です。
特記事項
本研究成果は、2026年8月31日(月)(米国東部時間)に国際科学誌「Otology & Neurotology」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“A Needle-Free Jet Injection System for Safe and Effective Intratympanic Delivery”
著者名:Yuki Terai, Toshihito Sahara, Takashi Hasegawa, Atsushi Danno, Teru Kamogashira, Tatsuya Yamasoba, Keiji Itaka
DOI:10.1097/MAO.0000000000005051
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)COI-NEXTなどの支援のもとで行われました。
また、本研究は「日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクト」の一環として実施されました。
CiDERでは、感染症研究を基盤として、そこで培われた技術や知見を、さまざまな疾患領域や社会課題へ展開する研究も推進しています。今後も最先端の研究をもとに総合知を創出し、「いのち」と「くらし」を守る持続可能な未来社会の実現に取り組んでまいります。
本研究は株式会社ダイセルから試作デバイスの提供を受け実施しました。
参考URL
位髙啓史教授https://www.cider.osaka-u.ac.jp/researchers/keiji-itaka/
SDGsの目標

大阪大学 研究