肺炎球菌の新たな薬剤排出機構を発見
薬剤排出ポンプFoeABの機能と立体構造を解
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 抗菌薬の排出を担う輸送タンパク質の機能と立体構造を分子レベルで解明 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
高エネルギー/加速器/電子顕微鏡/発酵/リン酸/病原性/クライオ電子顕微鏡/機能解析/大腸/ABCトランスポーター/ATP/ヌクレオシド/抗菌薬/細菌感染/創薬/大腸菌/立体構造/感染症/公衆衛生/細菌/薬剤耐性/緑膿菌
2026-9-3●生命科学・医学系特任准教授(常勤)田口 厚志発表のポイント
肺炎球菌が抗菌薬ホスホマイシンを細胞外へ排出する新たな仕組みを発見抗菌薬の排出を担う輸送タンパク質の機能と立体構造を分子レベルで解明
薬剤耐性メカニズムの理解を深め、耐性菌に対する抗菌戦略開発への応用に期待
発表概要
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)の田口厚志特任准教授(常勤)と同産業科学研究所の西野邦彦教授の研究グループは、同生命機能研究科の藤田純三特任助教(常勤)(研究当時)、難波啓一特任教授(常勤)、同薬学研究科の髙谷大輔講師、福澤薫教授、原田和生准教授(研究当時、現:工学研究科教授)、高エネルギー加速器研究機構の田辺幹雄准教授、守屋俊夫特任准教授との共同研究により、抗菌薬を細胞外に排出する新たな薬剤排出ポンプを肺炎球菌から発見し、その輸送機能と立体構造を明らかにしました。肺炎球菌は、肺炎や髄膜炎などを引き起こす病原細菌として知られており、抗菌薬に対する耐性化が世界的な課題となっています。薬剤排出ポンプは、細菌が薬剤耐性を獲得する主要な仕組みの一つであり、細胞内に入った抗菌薬を細胞外に排出することで、その効果を低下させます。しかし、肺炎球菌における薬剤排出ポンプの役割や仕組みについては、未解明な点が多く残されていました。
本研究では、肺炎球菌が持つ薬剤排出ポンプを網羅的に解析し、これまで機能が分かっていなかったABCトランスポーターが抗菌薬ホスホマイシンの排出に関与することを突き止め、FoeABと命名しました。さらに、FoeABの輸送機能と立体構造を詳細に解析することで、FoeABが抗菌薬を細胞外へ輸送する仕組みの一端を分子レベルで明らかにしました。これにより、肺炎球菌やその類縁菌における薬剤排出機構の理解が進み、薬剤耐性が生じるメカニズムの解明につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)オンライン版に8月28日(金)(米国時間)に掲載されました。

図1. 薬剤排出ポンプFoeABによる抗菌薬ホスホマイシン輸送の概念図
FoeABは、内向型構造で細胞内のホスホマイシンを取り込み、外向型構造へ移行することで細胞外へ排出する。
研究の背景
細菌感染症の治療には抗菌薬が用いられていますが、近年抗菌薬が効かない病原細菌の蔓延が公衆衛生上の課題となっています。こうした薬剤耐性菌は、さまざまな耐性機構を獲得することで抗菌薬の作用を回避しています。その代表的な仕組みの一つとして、細胞内に入った抗菌薬を細胞外に排出する薬剤排出ポンプが知られており、これまで大腸菌や緑膿菌などを中心に研究が進められてきました。肺炎球菌は、肺炎や髄膜炎の主要な原因菌の一つであり、その薬剤耐性機構を明らかにすることは、感染症の治療や薬剤耐性菌への対策を考える上で重要です。しかし、肺炎球菌が持つ薬剤排出ポンプの多くは輸送する分子の正体が明らかになっておらず、薬剤耐性への関与についても十分な研究が進んでいませんでした。そこで本研究では、肺炎球菌に存在する薬剤排出ポンプを一つずつ調べ、それぞれが抗菌薬の排出に関与するかを検証しました。
研究の内容
研究グループは、肺炎球菌のABCトランスポーターFoeABを過剰に産生させると、抗菌薬ホスホマイシンに対する耐性が高まることを発見しました。そこで、詳細な機能解析に適した肺炎球菌の類縁菌であるサーモフィラス菌由来のFoeABを精製し、人工膜に組み込んで解析したところ、FoeABがATPなどのヌクレオシド三リン酸を分解して得られるエネルギーを利用し、ホスホマイシンを直接輸送することがわかりました。さらに、FoeABが細胞内に存在するホスホマイシンを取り込むことができる内向型と、細胞外へ放出することができる外向型の立体構造を、クライオ電子顕微鏡を用いてそれぞれ捉えることに成功しました。これらの構造を比較することで、薬剤の取り込みや放出に重要な部位を特定し、FoeABによるホスホマイシン輸送を可能とする分子基盤を解明しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
臨床的に重要な病原細菌である肺炎球菌は、病原性や薬剤耐性などさまざまな角度から研究が進められてきましたが、薬剤排出ポンプに着目した研究は限られていました。今回の研究では、こうした薬剤排出ポンプに焦点を当てることで、ホスホマイシンを排出する新たな薬剤排出ポンプを発見しました。ホスホマイシンを排出する薬剤排出ポンプは他の細菌でもこれまで報告されておらず、今回の研究成果は細菌が持つ薬剤排出機構の多様性を示すものです。今後、薬剤排出ポンプの機能や仕組みをさらに明らかにすることで、薬剤耐性が生じるメカニズムの理解が深まり、薬剤排出機構を考慮した新たな創薬戦略の構築につながることが期待されます。特記事項
本研究成果は、2026年8月28日(金)(米国時間)に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)のオンライン版に掲載されました。タイトル:“Structural insights into fosfomycin efflux by a streptococcal ABC transporter”
著者名:Atsushi Taguchi*, Junso Fujita, Mikio Tanabe, Daisuke Takaya, Kazuo Harada, Toshio Moriya, Kaori Fukuzawa, Keiichi Namba, and Kunihiko Nishino* (*共同責任著者)
DOI:https://doi.org/10.1073/pnas.2535933123
本研究は、日本財団、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業、JSPS二国間交流事業、日本医療研究開発機構生命科学・創薬研究支援基盤事業(AMED BINDS)、文部科学省物質・デバイス領域共同研究拠点、日本電子YOKOGUSHI協働研究所、武田科学振興財団、発酵研究所、野田産業科学研究所などの支援を受けて行われました。
参考URL
田口厚志特任准教授(常勤)https://www.cider.osaka-u.ac.jp/researchers/atsushi-taguchi/
西野邦彦教授
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/organization/thi/thi06.html
大阪大学 研究