[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

大阪大学 研究Discovery Saga
2026年8月27日

\次世代量子技術に繋がる新理論!/ 無数の候補から有望な「光る欠陥」を高速探索

量子コンピュータや量子暗号通信向けの材料開発を加速

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
紫外から可視、さらには通信波長帯まで網羅する広範な色中心の高速探索が可能となり、次世代量子技術の材料開発が劇的に加速すると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学化学総合理工工学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
光物性/量子コンピュータ/量子暗号/量子通信/数値計算/ケイ素/量子ビット/NVセンター/バンドギャップ/フォノン/単一光子/単一光子源/窒化物半導体/持続可能/ボトルネック/持続可能な開発/窒化物/電子状態/SiC/シミュレーション/センサー/結晶欠陥/酸化物/第一原理/第一原理計算/半導体/スクリーニング
2026-8-25●工学系工学研究科准教授小林 拓真

発表のポイント

次世代量子技術に有望な、特有の光を放つ結晶欠陥「色中心(いろちゅうしん)」の高速・高精度予測手法を確立
色中心の高精度な探索には膨大な時間を要することが課題となっていたが、本研究独自の理論式・近似を導入することで、従来の計算時間の壁を打ち破る高速な理論予測が可能に
紫外から可視通信波長帯まで広範囲にわたる高速探索が可能となることで、幅広い量子技術材料の開発加速に期待

発表概要

大阪大学大学院工学研究科の岩本蒼典さん(博士後期課程)、原征大助教、渡部平司教授、小林拓真准教授らの研究グループは、材料を選ばない、高輝度色中心の高速・高精度予測手法を確立しました。
量子センサーや量子暗号通信などの次世代量子技術の開発において、色中心は「室温動作・集積可能」な極めて有望なシステムです。しかし、数ある材料候補の中から優れた発光特性を持つ色中心を効率的に見つけ出す手法は確立されておらず、実用化への大きなボトルネックとなっていました。
特にこれまでの理論予測では、結晶の格子振動(フォノン)による複雑な光損失の評価に膨大な計算時間を要し、多くの材料を網羅的に探索することが実質的に困難という大きな課題がありました。
今回、研究グループは、フォノンによる複雑な光損失をシンプルな理論式で記述するとともに、効果的な近似を導入することで、従来の計算時間の壁を打ち破る高速な理論予測手法を確立しました。これにより、紫外から可視、さらには通信波長帯まで網羅する広範な色中心の高速探索が可能となり、次世代量子技術の材料開発が劇的に加速すると期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「npj Computational Materials」に、8月25日(火)18時(日本時間)に公開されました。



図. 色中心の発光過程(ΓZPL)と光損失過程(ΓNR)を説明する模式図

研究の背景

結晶中の色中心は、量子ビット単一光子源として機能し、室温動作かつ集積化が可能な次世代量子技術の基盤として期待されています。現在はダイヤモンドNVセンターが主流ですが、量子通信や量子コンピュータといった多様なアプリケーションへの実装には、用途に応じた最適な発光特性を持つ新たな色中心の開拓が不可欠であり、さまざまな波長域で高効率な発光を示す色中心の開発競争が世界中で激化しています。このような膨大な候補材料から有望な色中心を効率的に見出すには、従来の実験主導の探索には限界があり、第一原理計算などを活用した大規模な理論予測が不可欠です。しかし、従来の理論予測手法では、フォノンに起因する複雑な光損失(発光効率の低下)を正確に評価することが困難であり、これが予測精度の低下や計算時間の著しい増大を招く大きなボトルネックとなっていました。

研究の内容

小林准教授らの研究グループでは、対象となるホスト材料を選ばない、汎用的(はんようてき)な色中心の高速・高精度理論予測手法を確立しました。本手法では、従来のシミュレーションの最大の課題であったフォノンによる光損失効果を、複雑な数値計算を必要としないシンプルな理論式へと落とし込むことに成功しました。さらに、従来は多大な計算コストがかかっていた原子の動きに伴う電子状態変化の計算(摂動計算)に対し、効果的な近似手法を導入することで計算プロセスを劇的に簡略化して、現実的な時間内での高精度な色中心の発光効率予測を可能にしました。
実際に本アプローチを用いて、炭化ケイ素(SiC)中の約300種類に及ぶ候補欠陥のスクリーニングを実施したところ、すでに実験で実証されている色中心が本手法の予測範囲にたしかに含まれることが確認されました。さらに、同研究グループが2023年に新規に提案した「SiC OV中心」が極めて有望な色中心であることもあらためて確かめられました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果の最大の意義は、ホスト材料の制限を取り払ったことで、あらゆる材料を対象とした色中心探索が可能になった点にあります。これにより、従来のダイヤモンドやSiCといった代表的な材料に留まらず、優れた光物性が期待される窒化物半導体や、超ワイドバンドギャップを持つ酸化物材料など、未知の広範な材料系へと色中心の探索領域を飛躍的に拡大させることができ、新たな量子科学のフロンティアを切り開くプラットフォームとなります。
本手法を通じて、優れた量子特性を持つ新たな色中心の発見・開発が飛躍的に加速することで、冷却装置を必要としない「室温動作」かつ大規模な「集積化」が可能な次世代の量子センサー、量子暗号通信、そして量子コンピュータといった高度量子インフラの社会実装へ向けた道が切り開かれるものと期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年8月25日(火)18時(日本時間)に「npj Computational Materials」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Unified first-principles framework for predicting radiative and non-radiative processes in color centers”
著者名: S. Iwamoto, M. Hara, H. Watanabe, and T. Kobayashi
DOI:https://doi.org/10.1038/s41524-026-02267-8
なお、本研究は、JSPS科研費JP25K01263、JP25K24649、JST戦略的創造研究推進事業CREST JPMJCR25I2、および同事業 さきがけ JPMJPR22B5の助成を受けて行われました。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 物理学系専攻 精密工学コース 先進デバイス工学領域
http://www-ade.prec.eng.osaka-u.ac.jp/
小林拓真 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5a9b0b4063dae614.html
原征大 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0eba4fd5573f5ffa.html
渡部平司 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5eaba14b0f47fb11.html

SDGsの目標