“音のピンセット”により生体分子の液滴を 操作・計測する新手法を確立
マイクロスケールの液滴に全く触れずに硬さを計測する新技術
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 超音波を使った生体分子液滴の計測技術は、生命・疾患と分子液滴のかかわりの一端を明らかにすることに寄与する可能性があり、今後さらなる進展にも期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
2026-8-25●工学系工学研究科准教授中島 吉太郎発表のポイント
生体分子が形成するマイクロメートルサイズの柔らかい液滴(生体分子液滴)を超音波により非接触で操作し、その運動の様子から液滴の硬さを計測する新手法を確立触れて硬さを測ることが難しかった生体分子液滴について、音響ピンセット技術を用いて触れずに硬さを測る方法を開発し、液滴の中の分子がどのような状態にあるのかを知るための重要な手がかりを得ることが可能に
超音波を使った生体分子液滴の計測技術は、生命・疾患と分子液滴のかかわりの一端を明らかにすることに寄与する可能性があり、今後さらなる進展にも期待
発表概要
大阪大学大学院工学研究科 中島吉太郎准教授らの研究グループは、イギリス・ケンブリッジ大学の研究グループと共同で“音のピンセット”技術で生体分子液滴に全く触れずに操作できることを示し、運動の様子からその硬さを完全非接触で推定する手法を世界で初めて確立しました。生体分子液滴は、マイクロメートルスケール(髪の毛の太さの10分の1程度)の大きさを持つとても柔らかい液滴です。この液滴の硬さや粘りは、内部に含まれる生体分子に関する重要な情報を持っています。従来の計測手法は、対象に触れる必要がありますが、液滴は小さく壊れやすいため、従来の方法で硬さなどを計測することは困難でした。
今回、研究グループは、超音波を用いた“音のピンセット”によって、非接触で分子液滴をつまみ、マイクロ空間で捕まえることに成功しました(図1)。また、捕まえられた液滴の“揺れ”を理論的に解析することにより、液滴に全く触れずにその硬さを計測する手法を提案し、その妥当性を実証しました。これにより、生体分子液滴を代表とする小さく柔らかい材料の物性解明が期待されます。
本研究成果は、米国物理学会誌「PRX Life」に、8月17日(月)(日本時間)に公開されました。

図1. 上:”音のピンセット”により分子の液滴が集められる様子。下:音のピンセットにより規則的に配列された分子液滴
研究の背景
柔らかい物質を研究するソフトマター物理学では、コロイドと呼ばれる小さな粒子1個の性質を調べることが重要な課題です。近年、この課題は、生体分子液滴の発見によってさらに注目されています。生体分子液滴は、相分離によって細胞内にできる膜を持たない小さな液滴状の構造で、大きさは100nm~5μmほどです。蛋白質や核酸からできており、細胞の働きや病気との関わりが明らかになりつつあります。そのため、液滴の硬さや粘りなどの性質を調べることが働きを理解するために重要ですが、液滴は非常に小さく柔らかいため、触れると壊れやすく、従来の測定方法では詳しく調べることが困難でした。研究の内容
研究グループは、音響ピンセットという超音波を利用した技術を用いて、生体分子液滴の性質を触れずに測定する方法を開発しました。音響ピンセットは、超音波がつくる力を利用して、小さな粒子や液滴を空中や液体中で動かす技術です。研究グループは、携帯電話などにも使われる音波の技術を応用した小型デバイス(図2)を作製し、その音波によって生体分子液滴を壊さずに操作できることを世界で初めて実証しました(図1)。
さらに、研究グループは、音響ピンセットで生体分子液滴を捕捉し、そのわずかな揺れを顕微鏡で観察しました。液滴は目に見えないほど小さく揺れていますが、その揺れ方は液滴の硬さによって変わることを理論と実験の両方から明らかにしました(図3)。つまり、液滴に直接触れなくても、揺れを調べるだけで硬さを測定できることを示したのです。この方法を用いて、核酸(RNA)からできた生体分子液滴は周囲の環境に応じて硬さが変化することも明らかにしました。この研究により、生体分子液滴の性質を壊さずに調べられる新しい計測技術が実現しました。

図2. 研究に使用された音の小型デバイスの模式図(左)と実際の顕微鏡画像(右)。狭い空間に発生する”超音波の波紋”を制御することにより、計測が実現する。

図3. 左:音により液滴(緑の球)が捕まえられる様子。音の力を受けながら熱エネルギーで位置が微妙に揺れる。この運動はブラウン運動と呼ばれる。
右:全く同じ“音の場”の中で粒子の硬さに伴い、揺れの様子が変化することを示したシミュレーション結果。硬い液滴と柔らかい液滴を比べると、柔らかい液滴の方が、音から受ける力が小さく、結果として揺れが大きくなる。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究で開発した手法により、生体分子液滴の硬さや変化を壊さずに調べられるようになりました。今後、この技術を使うことで、生体分子液滴が細胞の中で果たしている役割や、アルツハイマー病やALSなどの病気との関係がさらに明らかになることが期待されます。超音波と物理を組み合わせて、これまでできなかった液滴の性質を調べ、未来の医療につながる可能性を秘めています。特記事項
本研究成果は、2026年8月17日(月)(日本時間)に米国物理学会誌「PRX Life」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“Mechanical profiling of biopolymer condensates through acoustic trapping”
著者名:Kichitaro Nakajima, Tomas Sneideris, Nadia A. Erkamp, Lydia L. Good, Yuri Hideshima, Hirotsugu Ogi, and Tuomas P.J. Knowles
DOI:https://doi.org/10.1103/kl9v-5ywv
なお、本研究は、日本学術振興会・科学研究費助成事業(25K00016, 24KK0104)の一環として行われました。
参考URL
中島吉太郎 准教授研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8b0c58cc4ce4c303.html
研究室HPhttp://www-qm.prec.eng.osaka-u.ac.jp/pmwiki/pmwiki.php
SDGsの目標

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