心不全を悪化させる骨髄の異変を発見
-免疫を制御する“守り手”細胞の喪失が炎症を引き起こし、心不全を進行させる仕組みを解明-
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 骨髄を標的とした新たな心不全治療・診断法の可能性を示しました。特に、“守り手”細胞の脂肪化を防ぐノッチシグナルが有望な治療標的として期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
産学連携/診断法/病原体/心不全 Heart Failure/ストローマ細胞/ノッチシグナル/治療標的/増殖因子/脂肪細胞/心機能/心臓/白血球/骨髄/成長因子/造血幹細胞/ノッチ/ファージ/マクロファージ/幹細胞/血液/血小板/細胞増殖/赤血球/免疫細胞/ストレス/生理学/線維化/造血
2026年08月26日
研究・産学連携
研究のポイント
○ 骨髄の中に、心臓を傷つける炎症性免疫細胞の過剰な産生を防ぐ“守り手”細胞(HBEGF産生MSC)が存在することを発見しました。○ 心不全では“守り手”細胞が脂肪細胞へと変化して減少し、炎症性免疫細胞が増えることで心機能が悪化する仕組みを明らかにしました。ヒトの心不全患者では骨髄脂肪が健常者の約10倍に増加していました。
○ 骨髄を標的とした新たな心不全治療・診断法の可能性を示しました。特に、“守り手”細胞の脂肪化を防ぐノッチシグナルが有望な治療標的として期待されます。

図1 心不全で骨髄の“守り手”細胞が脂肪細胞へと変化する仕組みと新たな治療標的(模式図)。
発表概要
心不全は心臓の機能が低下する病気ですが、その悪化を左右する要因として、血液をつくる「骨髄」の脂肪化が関わることが明らかになりました。東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院 難治疾患研究所 統合生理学分野の藤生克仁教授は、千葉大学 大学院医学研究院 疾患システム医学の眞鍋一郎教授、東京大学 医学部附属病院 循環器内科の後藤耕策特任臨床医(研究当時)、東京都医学総合研究所 臨床医科学研究分野の中山幸輝プロジェクトリーダー、大阪大学、国際医療福祉大学との共同研究により、骨髄内に存在する一部の間葉系ストローマ細胞(MSC、用語1)が、血液のもととなる造血幹細胞(用語2)から「心臓を傷つける炎症性免疫細胞」が過剰に産生されるのを抑える“守り手”として働くことを発見しました。この“守り手”細胞は、細胞増殖因子であるHBEGF(ヘパリン結合性EGF様増殖因子、用語3)を産生するMSCの一群です。
さらに、心不全ではこの“守り手”細胞が脂肪細胞へと変化して減少し、その結果、造血幹細胞が炎症性マクロファージ(用語4)を産生しやすくなる仕組みを明らかにしました。
研究グループはこれまでに、心臓マクロファージが心臓を保護すること[参考文献1]や、心不全によるストレスが、心臓マクロファージの起源である骨髄の造血幹細胞に“記憶”として刻まれ、心不全の再発や多臓器障害(多病)を引き起こすこと[参考文献2]を報告してきました。本研究は、その“記憶”の形成を防ぐ細胞と、その細胞が失われる仕組みを初めて明らかにしたものです。
また、この“記憶”の痕跡をヒトではCT検査によって評価できることを示し、年齢・性別を一致させた比較において、心不全患者の骨髄脂肪量が健常者の約10倍に増加していることを明らかにしました。
本研究成果は、8月26日付(現地時間)の国際学術誌「Nature Communications」に掲載されます。
論文情報
掲載誌:Nature Communications論文タイトル:Altered Bone Marrow Niche Forms Central Innate Immune Memory Driving Cardiac Dysfunction in Heart Failure
著者:Kohsaku Goto, Yukiteru Nakayama, ほか, Ichiro Manabe*, Katsuhito Fujiu*(*責任著者)
DOI:10.1038/s41467-026-76178-z
【用語説明】
1)間葉系ストローマ細胞(MSC):骨髄内で造血幹細胞を支える細胞。本研究で見いだした“守り手”細胞は、このMSCのうちHBEGFを産生する一群である。
2)造血幹細胞:骨髄に存在し、赤血球、白血球、血小板など、あらゆる血液細胞のもとになる細胞。
3)HBEGF(ヘパリン結合性EGF様増殖因子):細胞の成長や分化を促すタンパク質(成長因子)の一種。本研究では、“守り手”細胞が産生し、造血幹細胞の機能維持に重要な役割を果たす。
4)マクロファージ:体内に侵入した病原体や不要な細胞を取り除く免疫細胞の一種。心臓を保護する働きを持つ一方、炎症性の性質が強まると、組織の線維化や機能低下を引き起こす。
【参考文献】
・Fujiu K, et al. A heart–brain–kidney network controls adaptation to cardiac stress through tissue macrophage activation. Nature Medicine 23, 611–622 (2017).
・Nakayama Y, Fujiu K, et al. Heart failure promotes multimorbidity through innate immune memory. Science Immunology 9, eade3814 (2024).
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千葉大学 研究