[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

東北大学 研究Discovery Saga
2026年8月21日

ヒトiPS細胞由来の網膜神経節細胞シートの作製技術を開発

―緑内障による視神経障害に対する新たな細胞移植戦略に道筋―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
一度失われた網膜神経節細胞は自然再生しないため、ヒトiPS細胞由来網膜神経節細胞を移植する細胞補充療法が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学工学総合生物農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
視覚情報/自然再生/ファイバー/エレクトロスピニング/生体適合性/持続可能/持続可能な開発/ナノファイバー/ナノメートル/神経活動/生体内/病原性/iPS細胞/眼科学/網膜神経節細胞/緑内障/臨床応用/神経再生/細胞シート/細胞移植/インテグリン/再生医療/細胞外マトリックス/受容体/神経回路/神経細胞/電気生理学/膜電位/網膜/薬理学/ヒトiPS細胞/生理学/動物実験
2026年8月21日 11:00

研究者情報

〇大学院医学系研究科 教授 中澤徹
ウェブサイト

発表のポイント

緑内障で失われる網膜神経節細胞(RGC)(注1)の再生において、従来の注射による細胞移植法は生着率が極めて低いという課題がありました。本研究では、ポリカプロラクトン(PCL)(注2)ナノファイバーを活用した移植用細胞シートの構築技術を開発しました。
ナノファイバー上でのRGCの生存を制御するメカニズムを解明し、インテグリンβ1(注3)/FAKシグナル経路を薬理学的に活性化することでRGCの生存率を大幅に向上させ、神経突起の伸長の促進に成功しました。
動物由来成分を含まない(ゼノフリー)(注4)環境下で、ナノファイバーの配向(注5)に沿った神経突起を有するRGCシートの構築と、脱分極刺激(注6)に対する正常な電気生理学的応答を実証し、将来の視神経再生治療に向けた細胞シート移植の基盤技術を確立しました。

発表概要

緑内障は、目から脳へと視覚情報を伝える網膜神経節細胞(RGC)が段階的に消失し、視力障害や失明に至る疾患です。一度失われたRGCは自然再生しないため、ヒトiPS細胞由来RGCを移植する細胞補充療法が期待されています。しかし、動物実験において、細胞懸濁液を注射する移植法では細胞の生着率が著しく低く、構造的・機能的な神経回路の再構築が困難でした。
東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野の中澤 徹 教授、菅野 聖世 研究員らによる研究グループは、生体適合性に優れたポリカプロラクトン(PCL)のナノファイバー配向膜を足場材料として用いた移植用RGCシートの構築技術を開発しました。また、ナノファイバー上でのRGCの生存を制御するメカニズムを解明し、インテグリンβ1シグナルを活性化することで生存率を大幅に向上させ、ナノファイバーの方向に沿った神経突起の伸長を促進することに成功しました。さらに、臨床応用を見据えた動物由来成分非含有(ゼノフリー)条件下でも、電気生理学的に正常に応答する配向RGCシートの作製・実証に成功しました。本研究は、緑内障をはじめとする視神経障害に対する新たな再生医療技術・機能的視神経再生治療の実現に向けた重要な基盤となります。
本成果は、国際学術誌「ACS Biomaterials Science & Engineering」に掲載されました。



図1. 配向PCLナノファイバーによるiPS細胞由来RGCの神経突起の伸長方向制御 配向したPCLナノファイバー、ランダムな方向性のPCLナノファイバー、および市販の培養プレート上で培養したiPS細胞由来RGCの様子。細胞足場であるPCLナノファイバーの方向性によってRGCの神経突起の伸長方向を制御可能であることが実証された。

用語解説

注1. 網膜神経節細胞(Retinal Ganglion Cell, RGC):網膜から受け取った光視覚情報を脳へ伝える唯一の出力神経細胞。緑内障ではRGCの脱落により視野障害が進行する。
注2. ポリカプロラクトン(Poly-ε-caprolactone, PCL):生体内で自然に分解・吸収される生体適合性材料の一つ。医療用足場材料として広く研究・使用されている。
注3. インテグリンβ1:細胞表面に存在し、細胞外マトリックスの受容体として足場接着や機械的刺激、細胞生存シグナル伝達などを媒介する受容体タンパク質。
注4. ゼノフリー:ヒト以外の動物由来成分を排除した培養条件のこと。感染リスクの排除や病原性の低下のため、ヒトへの細胞移植の安全性向上に必須とされる。
注5. 配向ナノファイバー:静電紡糸法(エレクトロスピニング)などを用いて、ナノメートルサイズの繊維が一方向に揃うように作製した細胞足場。
注6. 脱分極刺激:神経細胞の膜電位を変化させて、神経活動を引き起こす刺激。作製したRGCが外部からの刺激に対して正常に応答し、神経としての機能を保持しているかを評価するために用いられる。

論文情報

タイトル:Construction of highly viable, excitable, aligned human induced pluripotent stem cell derived retinal ganglion cell sheets on poly-ε-caprolactone nanofibers by targeting integrin β1-mediated adhesion pathways
著者:Seiya Kanno, Masayuki Yamashita, Kota Sato, Toru Nakazawa*
菅野 聖世、山下 勝幸、佐藤 孝太、中澤 徹*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野
教授 中澤 徹(なかざわ とおる)
掲載誌:ACS Biomaterials Science & Engineering (American Chemical Society)
DOI:10.1021/acsbiomaterials.6c00694

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・眼科学分野
教授 中澤 徹(なかざわ とおる)
TEL: 022-717-7294
Email: toru.nakazawa.e1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)






東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています