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東北大学 研究Discovery Saga
2026年8月21日

血液を「隠れ蓑」に使うナノ粒子で、最も治療困難な乳がんに挑む

― 光熱療法・免疫抑制解除・自然免疫活性化の三位一体戦略 ―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
正所性4T1乳がんモデルマウスを用いた検証では、全治療群において原発腫瘍の完全消退を達成し、実験的肺転移モデルでは転移巣結節数を90%以上減少させ、中央生存期間70日超という顕著な成果
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
物質科学/近赤外/近赤外線/赤外線/材料科学/レーザー照射/光熱変換/生体適合性/持続可能/持続可能な開発/金属ナノ粒子/コーティング/センサー/ナノ粒子/レーザー/液体金属/超音波/アゴニスト/IRF/FoxP3/PD-1/PD-L1/インターフェロン/マウスモデル/悪性度/動物モデル/微小環境/分子標的療法/免疫逃避/免疫抑制/インジウム/分子標的/腫瘍微小環境/成長因子/HER2/T細胞/エストロゲン/エストロゲン受容体/がん細胞/がん治療/シグナル分子/プロゲステロン/マウス/リン脂質/炎症性サイトカイン/血液/自然免疫/受容体/樹状細胞/制御性T細胞/赤血球/転写因子/免疫チェックポイント/免疫チェックポイント阻害薬/免疫応答/免疫細胞/臨床試験/がん患者/サイトカイン/化学療法/抗体/脂質/乳がん
2026年8月21日 11:00

研究者情報

〇多元物質科学研究所 教授 都英次郎
研究室ウェブサイト

発表のポイント

液体金属(注1)をコアに持つナノ粒子を、血液成分を「隠れ蓑」にして免疫細胞による排除を回避し、腫瘍への薬物集積量を約5倍に向上させました。
がんの免疫逃避の主因である制御性T細胞(Treg)(注2)を腫瘍内から選択的に除去し、「がんの免疫ブレーキ」を解除することに成功しました。
近赤外線レーザー照射により腫瘍を加熱・破壊すると同時に、内包したSTINGアゴニスト(注3)を腫瘍内で放出し、自然免疫を強力に活性化させることで、原発巣の完全消失と肺転移の劇的な抑制を同時に達成しました。
マウスモデルの実験において、難治性の三種陰性乳がん(TNBC)(注4)の原発腫瘍を100%完全消退させ、肺転移を90%以上抑制し、観察期間70日を超える長期生存を実現しました。

発表概要

三種陰性乳がん(TNBC)は、最も悪性度の高い乳がんサブタイプであり、診断から5年以内に遠隔転移を起こすリスクが他の乳がんの約3倍に達します。免疫チェックポイント阻害薬(注5)が一部の患者には有効ですが、その恩恵を受ける患者は20%未満にとどまり、腫瘍内に蓄積した制御性T細胞(Treg)による強力な免疫抑制が主因として挙げられています。
東北大学 多元物質科学研究所の都 英次郎 教授(北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 客員教授)の研究グループは、液体金属ナノ粒子を全血バイオミメティックコーティング(注6)で包み、制御性T細胞を標的とする抗体と免疫賦活物質STINGアゴニストを搭載した多機能ナノプラットフォーム「B-LM-DMX-αCD25」を開発しました(図1)。
正所性4T1乳がんモデル(注7)マウスを用いた検証では、全治療群において原発腫瘍の完全消退を達成し、実験的肺転移モデルでは転移巣結節数を90%以上減少させ、中央生存期間70日超という顕著な成果を示しました。
本研究成果は、材料科学・医学分野の国際的権威ある学術誌Advanced Scienceに、2026年8月11日付けでオンライン掲載されました。



図1. 本研究の概念(B-LM-DMX-αCD25の設計と三位一体の治療メカニズム)

用語解説

注1. 液体金属:ガリウム・インジウムなどの金属を配合した常温付近で液体状態を示す合金。生体適合性が高く、近赤外線を吸収して効率よく熱エネルギーへ変換する性質(光熱変換効率 >50%)を持ち、がん治療への応用が期待されている次世代光熱変換材料。(Liquid Metal, LM)
注2. 制御性T細胞(Treg): 免疫応答を抑制する方向に働くT細胞の一種。がんの腫瘍微小環境において免疫逃避の主役を担い、FOXP3を特徴的な転写因子として発現する。腫瘍内のTreg密度が高いほど予後が悪化することが乳がん患者での臨床データで示されている。
注3. STINGアゴニスト、cGAS-STING-TBK1-IRF3シグナル経路: STING(Stimulator of Interferon Genes)は自然免疫の中核を担う細胞内センサーであり、活性化されるとインターフェロンβをはじめとする炎症性サイトカインの産生を促し、樹状細胞の成熟や細胞傷害性T細胞の誘導を引き起こす。STINGアゴニストはこの経路を人工的に活性化する化合物で、本研究ではDMX(5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸)を使用。
注4. 三種陰性乳がん(TNBC): エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)のいずれも発現しない乳がんのサブタイプ。乳がん全体の約15〜20%を占め、分子標的療法が適用できないため化学療法への依存度が高く、早期再発・遠隔転移リスクが最も高い悪性度の高いがん。
注5. 免疫チェックポイント阻害薬: がん細胞が免疫細胞の攻撃を回避するために利用するシグナル経路(チェックポイント)を遮断する薬剤。PD-1/PD-L1やCTLA-4を標的とする抗体薬が代表例。TNBCでは腫瘍微小環境の免疫抑制が強く、単独での奏効率は20%未満にとどまる。
注6. 全血バイオミメティックコーティング:(血液擬似化被覆) ナノ粒子を患者・動物の全血と混合し、超音波処理によって血液成分(タンパク質、リン脂質、CD47などの免疫回避シグナル分子)をナノ粒子表面に直接吸着させる手法。赤血球膜の精製・再構築を必要とせず、天然の血液タンパク質コロナを保持したまま「自己」として認識させることができる。
注7. 正所性4T1乳がんモデル: マウスの乳腺脂肪体に4T1腫瘍細胞を移植した、ヒトTNBCの臨床像を高度に再現する動物モデル。急速な腫瘍増殖と自然発生的な肺転移を示すため、TNBCの前臨床試験のゴールドスタンダードとして広く用いられる。

論文情報

タイトル:Blood Cell-Camouflaged Liquid Metal Nanoconjugates Orchestrate Treg Depletion and STING-Amplified Photothermal Immunity for Metastatic Triple-Negative Breast Cancer Therapy
著者:Nina Sang, Eijiro Miyako*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 都 英次郎
掲載誌:Advanced Science
DOI:10.1002/advs.77069

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 都 英次郎(みやこ えいじろう)
TEL: 022-217-6597
Email: eijiro.miyako.e2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)






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