縄文人ゲノムから見えてきた氷期を生きた東ユーラシア狩猟採集民の寒冷適応
古代DNAから探る後期旧石器時代の進化的遺産 芸術工学研究院 西村貴孝 准教授
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
最終氷期/日本列島/データ解析/寒冷適応/環境適応/旧石器時代/古代DNA/自然選択/縄文時代/ユーラシア/熱産生/ゲノム情報/脂肪組織/ゲノム解析/褐色脂肪組織/褐色脂肪/ゲノム/遺伝子/脂質/脂質代謝
2026.08.18
研究成果Humanities & Social SciencesLife & Health
発表のポイント
新規の25個体を含む42個体の縄文人ゲノムを統合解析し、縄文人の祖先が約2.7万〜1.9万年前に大陸東ユーラシア集団から分岐した、後期旧石器時代東ユーラシア系統に由来することを示しました。ゲノム情報にもとづく「自然選択スキャン」によって、FTOやAPOA5などの遺伝子領域に寒冷環境への適応に関わる痕跡を見出しました。
縄文人ゲノムは、日本列島人の成り立ちを知る手がかりであると同時に、氷期を生き延びた東ユーラシアの人々の進化と適応を読み解く貴重な記録であることを示しました。

旧石器時代日本列島人の集団史と寒冷環境適応
発表概要
東京大学 大学院理学系研究科の渡部裕介特任助教、脇山由基氏、太田博樹教授、東京都立大学 人文科学研究科の山田康弘教授、出穂雅実准教授、九州大学 大学院芸術工学研究院の西村貴孝准教授らの国際共同研究グループは、縄文人(注1)ゲノムを用いて、東ユーラシアの後期旧石器時代(注2)狩猟採集民の形成史と寒冷環境への適応の痕跡を明らかにしました。本研究では、新たに私たちが抽出・シークエンシングした25個体と既出の17個体の縄文人42個体の古代ゲノムを統合し、大型計算機をもちいたデータ解析(注3)をおこないました。その結果、縄文人の祖先集団は、大陸の東ユーラシア集団から約2.7万〜1.9万年前に分岐した系統に由来することが示されました。この時期は、考古学的には後期旧石器時代にあたり、ちょうど最終氷期のもっとも寒い時期とほぼ重なっています。
私たちは、全ゲノムを対象とした自然選択スキャンにより、褐色脂肪組織での熱産生、脂質代謝、寒冷感覚などに関わる複数の遺伝子領域に、寒冷環境への適応と整合的な痕跡を見出しました。特にAPOA5遺伝子領域では、最終氷期に相当する時期に変異の頻度が急速に上昇した可能性が示されました。本研究により、縄文人ゲノムは日本列島人の成り立ちを知る手がかりであるばかりか、氷期を生きた東ユーラシアの人々の進化と適応を読み解く貴重な記録でもあることが示されました。本成果は、古代ゲノムから過去の環境適応を復元する新たな枠組みを提示するものです。
用語解説
(注1)縄文人約1万6千年前から日本列島に定住し、世界最古級の土器文化をもちながら1万年以上にわたって狩猟採集生活を営んだ、先史ヒト集団。「縄文人」という語が指す人びとは、1万年を超える長い時間幅と日本列島各地にわたる広い空間的広がりを含んでおり、縄文時代の人びとや文化は、地域や時期によってさまざまであった。本研究では、考古学的に縄文時代に属する遺跡から出土した人骨に由来する古代ゲノムを対象として、「縄文人」という語を資料上・研究上の呼称として用いている。
(注2)後期旧石器時代
旧石器時代のうち、現生人類(ホモ・サピエンス)が世界各地へ拡散し、多様な石器技術を発達させた時代を指す。本研究では、とくに日本列島に最初のホモ・サピエンスが到達した約3万8千年前から約1万5000年前までの時期を指す。この時代の内部にも時期区分があり、本研究ではその中ごろから後半にかけて、縄文人の祖先集団が大陸の東ユーラシア人集団から分岐したと推定した。
(注3)古代ゲノム解析
遺跡から出土した人骨などに残るDNAを抽出し、過去の人々の遺伝的特徴や集団の歴史を調べる研究手法。古代DNAは分解や汚染の影響を受けやすいため、専用の実験施設(クリーンルーム)が必要である。
論文情報
雑誌名:Science Advances題 名:Jomon genomics reveal cold adaptation in Upper Paleolithic hunter-gatherers of eastern Eurasia
(8月13日付掲載)
著者名:Yusuke Watanabe, Yoshiki Wakiyama, Daisuke Waku, Guido Valverde, Akio Tanino, Mizuki Hayashi, Izumi Naka, Yuka Nakamura, Tsubasa Suzuki, Kae Koganebuchi, Takashi Gakuhari, Takafumi Katsumura, Motoyuki Ogawa, Atsushi Toyoda, Pornlada Nuchnoi, Suwanna Chaorattanakawee, Hathairad Hananantachai, Jintana Patarapotikul, Soichiro Mizushima, Tomohito Nagaoka, Kazuaki Hirata, Minoru Yoneda, Midori Motoi, Hideo Toyoshima, Takafumi Maeda, Takayuki Nishimura, Tadayuki Masuyama, Yasuhiro Yamada, Ryuzaburo Takahashi, Masami Izuho, Jun Ohashi, NCBN Controls WGS Consortium, Hiroki Oota
DOI:10.1126/sciadv.aea7469
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