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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年8月6日

光子ビームで反Kメソンを含む原子核の観測に初成功

中性子星の謎などに迫る新たな観測

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
核物質や中性子星の内部構造といった物質の起源に迫る理解の進展に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学工学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
コンプトン散乱/原子核/高エネルギー/陽子/J-PARC/SPring-8/加速器/素粒子/中性子/内部構造/放射光/宇宙線/検出器/重水素/中性子星/持続可能/紫外線/持続可能な開発/レーザー/量子ビーム
2026-8-5●自然科学系核物理研究センター教授石川 貴嗣

発表のポイント

反Kメソン」と呼ばれる特殊な粒子が「糊」となって陽子や中性子を強く結びつけた原子核を、光子ビームを使った実験で初めて観測した
反Kメソン原子核の運動量分布を参照することでほかの現象との判別が可能になった
高密度核物質中性子星の内部構造といった物質の起源に迫る理解の進展に期待

発表概要

大阪大学核物理研究センターの小早川亮特任研究員、石川貴嗣教授、京都産業大学理学部の新山雅之教授、東北大学先端量子ビーム科学研究センターの大西宏明教授、韓国・高麗大学校のJung Keun Ahn教授、岐阜大学教育学部の住濱水季教授、中国近代物理研究所の村松憲仁教授、理化学研究所仁科加速器科学研究センターのYue Ma専任研究員、京都大学理学研究科の冨田夏希准教授、台湾中央研究院のWen-Chen Chang教授、カナダ・サスカチュワン大学のChary Rangacharyulu教授らの国際共同研究グループ 「LEPS2/Solenoidコラボレーション」は、図1のような通常とは異なる「糊」が陽子と中性子を結びつけた原子核を、光子ビームを使った実験において、世界で初めて観測することに成功しました。具体的には反Kメソンと呼ばれる粒子が陽子や中性子を強く結びつけた状態です。
実験は、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8レーザー電子光実験施設LEPS2における大型ソレノイド分光装置を使った初めての成果です。LEPS2は大阪大学核物理研究センターと東北大学先端量子ビーム科学研究センターが共同で運用しています。
身の回りの物質を構成する原子の中心には陽子と中性子からなる原子核があります。湯川秀樹博士によりπメソン (π中間子)という粒子が、陽子や中性子を糊のように結びつけていることがわかりました。陽子や中性子、そしてπメソンは、物質の最小構成要素である素粒子のクォークの中でuクォークとdクォーク、およびこれらの反クォークでできています。クォークには他にも種類があり、クォークが集まってできる粒子をハドロンと呼んでいます。ハドロンには3つのクォークからなるバリオン、クォークと反クォークからなるメソンの2種類があります。しかし非常に密度の高い中性子星の内部などでは、陽子や中性子がもたないsクォークを含む特殊な原子核(ハイパー核)が存在すると考えられておりますが、sクォークを含む反Kメソンが糊として働くような原子核(反Kメソン原子核)が存在するかは謎でした。
今回、LEPS2/Solenoidコラボレーションでは、光子ビームを使って重陽子から反Kメソン原子核を生成・観測することに成功しました。sクォークを含まない光子・重陽子衝突からの生成に初めて成功したことにより、反Kメソンが原子核を作り上げる糊としてしっかり働いていることが明らかにされました。これまで茨城県那珂郡東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)における反Kメソンビームの実験で候補となる存在が見つかっていますが、全く異なる反応(ビーム)で同じ状態が見つかった、すなわち反Kメソン原子核状態が存在する可能性が高まった、ということを意味します。また生成された反Kメソン原子核の運動量分布から、通常の原子核である重陽子に比べ、二つの核子がより引き寄せられた状態である可能性が強く示唆されました。このことは、未だよくわかっていない高密度の核物質や中性子星の内部構造を理解するために極めて重要な情報をもたらし、進展が期待されます。
本研究成果は、国際的な物理専門誌「Physics Letters B」に、7月9日(木)に公開されました。



図1. 反Kメソンが入り込み、糊のように陽子や中性子(合わせて核子)を強く結びつける原子核。

研究の背景

私たちの身の回りにあるものは、すべて原子でできています。その原子の中心には「原子核」があり、原子核は陽子と中性子からできています。この陽子や中性子は、さらに「クォーク」という、これ以上分けられない一番小さな粒からできています。クォークが集まってできる粒子を「ハドロン」と呼びます。ハドロンには2種類あり、クォーク3つでできる「バリオン」(陽子や中性子はこの仲間)と、クォークと反クォークでできる「メソン」です。こうしてクォークからハドロンができることが、物質が作られていく最初のステップです。実は、私たちの身の回りにある物質の質量の98〜99%は、このステップで生まれています。
普通の原子核では、陽子や中性子はπメソンをキャッチボールのようにやり取りすることで、互いに引き合っています。このやり取りが、原子核をまとめる「糊」のような役割を果たしています。陽子や中性子、πメソンはuクォーク、dクォーク、およびこれらの反クォークからできているため、原子核の中でπメソンは露わに現れません。これとは別に、sクォークを含む反Kメソンという特殊な粒子も、陽子や中性子を強く引きつけることが分かっていました。sクォークは一般的な物質の中には含まれませんが、宇宙線の中にはsクォークを含む粒子が観測されることがあり、中性子星のような非常に密度が高い物質の中にもあると考えられています。またsクォークを含む粒子を人工的につくることもできます。
反Kメソンは、πメソンのようにやり取りされるのではなく、原子核の中に実際の粒子として入り込み、周りの陽子や中性子を直接引きつけると考えられています。つまり、原子核の中に反Kメソンそのものがとどまることで、ずっとコンパクトな原子核ができる、と考えられます。そのため、「反Kメソンを原子核内に抱え込んだ、通常よりずっと小さくまとまった原子核があるのではないか」と長年考えられてきましたが、実験結果の解釈がはっきりせず、本当にあるのかは分かっていませんでした。
そんな中、J-PARCのE15実験で、反Kメソンをビームとして原子核に照射する実験が行われ、反Kメソンを含む原子核の候補が報告されました。この新種の原子核の存在や性質を明らかにするため、他のビーム、とくにsクォークを含まないビームを用いた実験での確認が待たれていました。

研究の内容

LEPS2/Solenoidコラボレーションでは、光子・重陽子衝突実験で、反Kメソンを含む原子核を生成・観測することに世界で初めて成功しました。
この実験では、紫外線レーザーを大型放射光施設SPring-8の電子蓄積リングに入射し、レーザーと8 GeVの高エネルギー電子のコンプトン散乱で得られる1.3~2.4 GeVの高エネルギーガンマ線を光子ビームとして使用しています。このような光子ビームをレーザー電子光と呼んでいます。レーザー電子光は蓄積リング棟とは別のLEPS2実験棟まで導き、このレーザー電子光を液体重水素標的に照射しました。光子・重陽子衝突では様々な反応が起こりますが、本実験では、図2の磁気スペクトロメータSolenoidを使って、主に荷電粒子の運動量とエネルギーを測定することで反応を同定しています。反Kメソン原子核の観測では、中性Kメソン、Λバリオン、陽子の三つのハドロンを同時に生成する反応を調べました。



図2. 大型ソレノイド分光装置Solenoid。ソレノイド電磁石の中心に、液体重水素標的を配置し、荷電粒子に対して飛跡検出器と飛行時間検出器を使って、どのような粒子がどのような運動量とエネルギーを持って放出されたかを測定します。模式図では、大きさを表すため人を書き込んでいます。
反Kメソン原子核は、崩壊してΛバリオンと陽子になると期待されます。そこで、Λバリオンと陽子の不変質量を調べることで、反Kメソン原子核の生成を調べました。Λバリオンと陽子の不変質量を示した図3では、Λバリオンと陽子が最終的に生成されていても、反Kメソン原子核が形成されていない背景事象がたくさん存在します。Λバリオンと陽子がもつ運動量分布を参照することで反Kメソン原子核が確かに存在することを確かめました。sクォークを含まない光子・重陽子衝突での生成に初めて成功したことにより、反Kメソンが原子核を作り上げる糊として機能していることがわかりました。



図3. Λバリオンと陽子の不変質量分布。反Kメソンを糊とする原子核が崩壊してΛバリオンと陽子が発生した信号事象とこれらが独立に生成された背景事象は、Λバリオンと陽子がもつ運動量を使って弁別しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果とJ-PARCのE15実験での成果を合わせて、反Kメソンを糊とする原子核の存在が確実なものとなりました。また反Kメソン原子核の運動量分布から、通常の原子核である重陽子よりも、はるかに二つの核子が引き寄せられた状態であることがわかりました。そのため未だよく理解されていない高密度である核物質や中性子星の内部構造に対して極めて重要な情報をもたらします。

特記事項

本研究成果は、国際的な物理専門誌「Physics Letters B」に、7月9日に公開されました。
タイトル:“Evidence for aK^NN quasi-bound state in therd→K⁰Λpreaction”
著者名: R. Kobayakawa, J.K. Ahn, S. Ajimura, W.-C. Chang, M.-L. Chu, S. Daté, T. Gogami, T.A. Hashimoto, T. Hotta, T. Ishikawa, H. Katsuragawa, H. Kohri, Y. Ma, M. Miyabe, K. Mizutani, N. Muramatsu, T. Nakano, T. H. Nam, M. Niiyama, Y. Nozawa, Y. Ohashi, H. Ohkuma, H. Ohnishi, T. Ohta, C. Rangacharyulu, S.Y. Ryu, Y. Sada, H. Shimizu, M. Sumihama, S. Suzuki, S. Tanaka, A.O. Tokiyasu, N. Tomida, K. Watanabe, T. Yorita, C. Yoshida, and M. Yosoi (LEPS2/Solenoid Collaboration)
DOI:https://doi.org/10.1016/j.physletb.2026.140719
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(15H00839, 16K13806, 17H02892, 18H05402, 20H01933, 21H00114, 21H01110, 21H01115, 21H04986, 22H00124, 433 23H01201, 24H00232)、韓国研究財団(NRF)の助成事業 (2020R1A3B2079993)、台湾(中華民国)国家科学及技術委員会の助成事業の助成を受けて推進しました。

参考URL

レーザー電子光実験グループ
https://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/Divisions/np1-b/

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