光反応で有機半導体の“作り分け”に成功
~次世代デバイス応用に向け、高い性能が見込まれる材料を開発~
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
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2026年7月29日
工学研究科
プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 上永 誠人氏(博士前期課程2年)、大垣 拓也特任助教、松井 康哲准教授、池田 浩教授発表概要
炭素を主成分とする有機半導体※1は軽くて柔らかいため、折り曲げられるディスプレイやウェアラブル端末など次世代エレクトロニクスを支える材料として注目されています。本研究グループは、光反応※2を利用し、硫黄と窒素を含む新しい有機半導体DNT※3を合成しました。また、光の照射条件を変えるだけで、屈曲型のb-DNTと直線型のl-DNTという骨格の異なる2種類の分子を作り分けることに成功しました。さらに、結晶の構造解析と理論計算から、直線型のl-DNTは電気の通り道となる分子の重なりが大きく、正孔※4の運びやすさを示す移動度が代表的な有機半導体材料に理論上同程度であることを明らかにしました。
本研究成果は、7月12日に国際学術誌「Chemistry– A European Journal」にオンライン掲載されました。

図1 光反応で有機半導体を作り分けるイメージ
発表のポイント
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光反応を利用し、硫黄と窒素を含む新しい有機半導体DNTを合成した。また、光の照射条件を変えるだけで、屈曲型のb-DNTと直線型のl-DNTという骨格の異なる2種類の分子を作り分けることに成功した。
光反応の途中で生じる反応中間体をレーザーで観測し、理論計算と組み合わせることで、作り分けが起きるメカニズムを解明。
結晶構造の解析と理論計算から、直線型のl-DNTは正孔の運びやすさが0 cm2 V–1 s–1と予測され、実用材料に匹敵する高い性能が期待される。
<研究者のコメント>
光を利用した化学反応で、有機半導体となりうる材料を精密に作り分けることができました。今後はデバイスへの応用に向けて研究を進めたいと考えています。

上永 誠人氏

大垣 拓也特任助教

松井 康哲准教授

池田 浩教授
研究の背景
有機半導体を高性能化する鍵は、電気の担い手である正孔が分子から分子へと素早く移動できるように、分子同士を隙間なく規則正しく積み重ねることです。分子が積み重なった部分は、電気の通り道のような役割を果たします。本研究グループはこれまで、光を照射することで分子の骨格を組み上げる光反応を使い、硫黄を含むさまざまな有機半導体を開発してきました。また近年では、機械学習を活用した分子設計により、硫黄と窒素の間にはたらく分子同士の引力(S•••N相互作用)が、分子を密に積み重ねるのに有効であることを見いだしていました。
研究の内容
本研究では、設計指針をさらに発展させ、硫黄と窒素の両方を含むチアゾールという骨格を組み込んだ、新しい有機半導体の開発を目指しました。あらかじめ合成した鎖状の原料分子に紫外光(365ナノメートル(nm))を照射することで、分子内の炭素同士が新たに結合して環をつくる光反応を進行させ、屈曲型のb-DNTと直線型のl-DNT(図1)を約8:2の比率で得ました。さらに、光エネルギーを受け取って原料分子に受け渡す増感剤を加えて可視光(400 nm)を照射すると、屈曲型のb-DNTだけを選択的に合成できました。これは、光の照射の仕方により、生成物を作り分けられることを示します。この作り分けが起きる仕組みを調べるため、反応の途中にごく短い時間だけ現れる反応中間体を、レーザーを使った分光法のレーザーフラッシュフォトリシス※5で観測し、理論計算と組み合わせて反応メカニズムを解明しました。さらに、得られた2種類の分子の結晶構造をX線で解析したところ、どちらも分子が少しずつずれた状態で積み重なっており、狙いどおり硫黄–硫黄、硫黄–窒素間の引力が分子を密に結びつけていることが分かりました(図2)。特に直線型のl-DNTでは分子の重なりが大きく、理論計算により、正孔の移動度は4.0 cm2 V–1 s–1と、屈曲型b-DNT(0.86 cm2 V–1 s–1)の約5倍に達すると予測されました。

図2b-DNTおよびl-DNTの結晶構造
期待される効果・今後の展開
本研究は、光反応というクリーンな合成法と、チアゾールを導入するという分子設計を組み合わせることで、高性能な有機半導体候補を生み出せることを示しました。今後は、分子に側鎖(アルキル鎖)を導入して結晶中の分子の並び方を調整し、有機電界効果トランジスタ※6への応用を目指します。軽くて柔らかい有機半導体の開発が進めば、折り曲げられるディスプレイや身に着けられるセンサーなど、次世代エレクトロニクスの実現に貢献すると期待されます。資金情報
本研究は、科学研究費助成事業(科研費)、コニカミノルタ科学技術振興財団、戸部眞紀財団、服部報公会、熱・電気エネルギー技術財団、カシオ科学振興財団、有機合成化学協会、フジクラ財団、前川報恩会、大阪公立大学戦略的研究支援事業、松籟科学技術振興財団、東京応化科学技術振興財団、ヨウ素学会からの支援を受けて実施しました。用語解説
※1有機半導体:有機物からなる半導体。正孔を流すp型と電子を流すn型に大別される。シリコンなどの無機半導体と異なり、溶媒を用いた溶液プロセスにより素子作製が可能。※2光反応:物質に光を照射することで進行する化学反応。熱や金属触媒に頼らない環境負荷の小さい合成法として注目されている。
※3 DNT:ジチエノナフトチアゾール(Dithienonaphthothiazole)の略称。縮環位置の違いにより、屈曲型のb-DNTと直線型のl-DNTなどがある。硫黄と窒素を含み、次世代エレクトロニクス材料としての応用が期待される新しい有機半導体材料の一つ。
※4正孔:半導体の中で電気を運ぶ担い手のひとつ。電子が抜けた穴が正電荷をもった粒子のようにふるまう。
※5レーザーフラッシュフォトリシス:ごく短いレーザーパルスを試料に照射し、その直後の光の吸収の変化を追跡する測定法。短い時間だけ存在する反応中間体を直接観測できる。
※6有機電界効果トランジスタ:有機半導体を使ったトランジスタ(電気信号のスイッチや増幅を行う素子)。軽量・柔軟で、塗布や印刷による低コスト製造が可能なことから、フレキシブルエレクトロニクスの基盤素子として研究されている。
掲載誌情報
【発表雑誌】Chemistry – A European Journal【論文名】p-Type Organic Semiconductors With an Annulated Thiazole: Photochemical Synthesis and Theoretically High Hole Mobility Predicted From Crystal Structure
【著者】Masato Uenaga, Takuya Ogaki, Yasunori Matsui, Hiroshi Ikeda
【掲載URL】https://doi.org/10.1002/chem.71361
問い合わせ先
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科教授 池田 浩(いけだ ひろし)
TEL:072-254-9289
E-mail:hiroshi_ikeda[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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