昆虫の「鼻」を乾燥から守る保水ゲル電極を開発
~触角センサを7時間安定記録、匂い追跡ドローンのセンサ長寿命化に前進~
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 匂い追跡ドローンのセンサ長寿命化に向けた基盤技術として、災害現場での要救助者探索、ガス漏れ検知、環境モニタリングへの応用に期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
産学連携/環境モニタリング/ゲル化/高分子/ハイドロゲル/めっき/インピーダンス/モニタリング/ロボット/ロボティクス/移動ロボット/高分子材料/長寿命化/電気化学/導電性/医工学/カイコ/ドローン/寿命
2026年07月16日
研究・産学連携
発表のポイント
昆虫の触角を用いたバイオハイブリッド型匂いセンサの弱点であった、乾燥や接触ずれによる信号劣化を抑える保水ゲル電極を開発。カイコガ触角を用いたEAGセンサで、切り出しから7時間後も初期値の92%以上を維持。従来の金属電極では4時間以降に初期値の50%を下回ったのに対し、長時間安定した信号記録を実現。
電気化学インピーダンス測定により、ハイドロゲルによる保水構造が、電極と導電性ゲル間の初期電気的結合を保ち、時間経過に伴うインピーダンス変動を抑えることを示した。
小型ドローンに搭載した状態でも匂いに対するEAG信号を取得し、EAG信号をトリガーとしてドローンが前進する簡易的な閉ループ動作を実証。
匂い追跡ドローンのセンサ長寿命化に向けた基盤技術として、災害現場での要救助者探索、ガス漏れ検知、環境モニタリングへの応用に期待。
発表概要
信州大学学術研究院繊維学系の照月大悟准教授(繊維学部機械・ロボット学科/生命駆動型共創ロボティクス研究拠点(注1)、信州大学Rising Star教員(注2))、千葉大学大学院工学研究院の中田敏是准教授らの研究グループは、昆虫の触角を匂いセンサとして長時間安定に利用するため、触角と電極の接触部の乾燥や接触ずれを抑えるハイドロゲル電極(以下、保水ゲル電極)を開発しました。研究の全体像を図1に示します。本研究は、信州大学大学院総合理工学研究科生命医工学専攻の大森玲奈さん、同大学繊維学部機械・ロボット学科の近藤希栄さんらが中心となり、同大学工学部の影島洋介准教授(信州大学Rising Star教員)と共同で実施したものです。
図1本研究の概要図:カイコガの触角を切り出して保水ゲル電極に接続することで、切り出しから7時間後もEAG応答振幅を初期値の92%以上に維持した。さらに、小型ドローンに搭載した状態でも匂いに対するEAG信号を取得し、EAG信号に基づく前進動作を実証した。
昆虫の触角は、匂い物質に対して高感度かつ高速に応答する優れたバイオセンサです。しかし、切り出した触角をドローンなどの移動ロボットに搭載して用いる場合、時間とともに触角端部や導電性ゲルが乾燥し、電気的な接触が不安定になることが課題でした。
今回開発した保水ゲル電極は、食品用ゲル化剤から作製した保水ゲル(ハイドロゲル(注3))、導電性ゲル、金めっき電極、3Dプリントフレームから構成されます。電気的接続は導電性ゲルと金めっき電極が担い、保水ゲルは触角端部と導電性ゲルの接触部を湿潤状態に保つ支持構造として働きます。この構造により、乾燥や接触ずれによる信号劣化が抑えられ、カイコガ触角を用いたEAGセンサ(注4)の信号は、室内・室温条件下で切り出しから7時間後も初期値の92%以上を維持しました。
さらに、このEAGセンサを小型ドローンに搭載し、ホバリング中にも匂いに対するEAG信号を取得できること、またEAG信号をトリガーとして前進動作を行えることを実証しました。研究グループはこれまで、昆虫触角を用いた匂い追跡ドローン(注5)の探索性能向上に取り組んできました。前回の研究が匂い追跡ドローンの「探索性能」を高めた成果であるのに対し、今回の成果は、その実用化を支える触角センサの「安定利用時間」を延ばす基盤技術です。将来的には、災害現場での要救助者探索、ガス漏れ検知、環境モニタリングなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、化学・ガスセンサ分野の主要国際学術誌 Sensors and Actuators B: Chemical に、令和8年7月2日に公開されました。
用語解説
注1)生命駆動型共創ロボティクス研究拠点:生物と機械の深い融合を基盤とする独創的な境界領域研究により、生命とともに創り出す新しいロボティクスの世界を開拓することを目指した研究拠点であり、照月准教授が拠点長を務めています。(HP:https://www.shinshu-u.ac.jp/institution/bideros/)注2)信州大学Rising Star教員:独創性と国際的な発信力を兼ね備えた次世代の研究リーダーを育成することを目的に創設された信州大学の独自制度。
注3)ハイドロゲル:大量の水を含む柔らかい高分子材料です。本研究では、食品用ゲル化剤を用いて作製したハイドロゲルを、触角端部と導電性ゲルの接触部を湿潤状態に保ち、支持する材料として利用しました。
注4)EAGセンサ:昆虫の触角は、匂いを受容すると電気的な応答を示します。触角の両端に電極を接続し、この電圧変化を計測する手法を触角電図法(Electroantennogram; EAG)と呼びます。本研究では、EAGに基づいて匂いを検出するセンサをEAGセンサと呼びます。
注5)匂い追跡ドローン:照月准教授が開発を進めている、昆虫触角をセンサに利用した、空気中の匂い検出とその発生源を探索するためのドローン。
プレスリリース本文はこちら
千葉大学 研究