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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年7月10日

太陽光で酸化剤を必要量だけ生成

製薬・化学工場の危険物在庫リスクを低減

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
工場における危険物在庫リスクの低減、作業者の安全確保、プラントの防災レベル向上に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学化学総合理工工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
人工知能(AI)/災害リスク/速度論/太陽/環境調和/太陽光/グリーンケミストリー/前駆体/デジタル化/持続可能/省エネ/安全管理/光照射/持続可能な開発/発光ダイオード(LED)/反応速度/環境負荷低減/環境負荷/酸化物/省エネルギー/二酸化炭素/反応速度論/アルデヒド/イミン/ラット/官能基/抗生物質/有機合成/抗がん剤
2026-7-7
●自然科学系産業科学研究所教授滝澤 忍

発表のポイント

医薬品製造に有用なDavis試薬の合成において、爆発リスクのある酸化剤を準備・保管することなく、太陽光と酸素を利用して必要量だけ“その場で”生成する手法を開発
生成した過酸化物が蓄積することなく即座に消費されることを実証
工場における危険物在庫リスクの低減、作業者の安全確保、プラントの防災レベル向上に期待

発表概要

大阪大学産業科学研究所の滝澤忍教授、Mohamed S. H. Salem特任助教(常勤)、Muthu Karuppasamy招へい研究員(日本学術振興会外国人特別研究員)らの研究グループは、爆発性のある強力な酸化剤「meta-クロロ過安息香酸(mCPBA)」を、光と酸素を利用して必要量だけその場で合成し、反応液中に蓄積させることなく直ちに消費することで、医薬原料の製造に有用なDavis試薬を安全かつ持続可能に製造する新規連続変換プロセスの開発に成功しました(図1)。
本手法は、従来の大量合成において不可避であった「危険な過酸化物の大量・大過剰の使用および保管」という安全上の重大な課題を根本から解決するものです。さらに、自然太陽光をエネルギー源として利用できるため、大幅な省エネルギー化と環境負荷低減を実現しました。
本研究成果は、英国王立化学会が発行するサステナブル化学のトップジャーナル 『Green Chemistry』(オンライン)に、2026年6月18日(現地時間)に公開されました。



図1. 光・酸素で駆動する環境調和型Davis試薬合成プラットフォーム:mCPBAを必要な量だけその場で生成・消費する安全なオンデマンド反応を実現

研究の背景

「Davis試薬」は、抗がん剤や抗生物質をはじめとする高度な医薬品分子の製造において、その薬効を左右する重要な官能基を精密かつ任意に導入可能な試薬として知られています。本試薬を大きなスケールで大量に合成する際、従来の製造法では、原料に対して過酸化物(mCPBAなど)を大過剰(化学量論量を大きく上回る量)使用する必要がありました。しかし、mCPBAは熱や衝撃に対し高い爆発性を有する潜在的危険物質です。この危険物質を大量に輸送し、倉庫に保管、さらには反応釜へ一挙に投入する合成プロセスは、重大なプロセス災害リスクを伴います。そのため、厳格な安全管理が必要となり、スケールアップ合成の大きな障壁となっていました。

研究の内容

研究グループは、「危険な過酸化物を目的反応の進行度に応じて必要な分だけその場で生成し即座に消費すれば系内の危険物蓄積量はゼロになる」という革新的なアプローチ(オンデマンド生成型逐次変換システム)を着想しました。具体的には、安価で入手容易な原料であるアルデヒドに対し、室温下で「空気中の酸素」と「光(太陽光またはLED光)」を作用させることで、反応系内にてmCPBAを穏和な条件下で生成、同一系内に共存するイミン(Davis試薬の前駆体)と即座に反応させる一連の光駆動型ワンポット(逐次)合成法を開発しました。
詳細な反応速度論解析を実施した結果、mCPBAの生成速度よりも、イミンと反応して消費されるmCPBAの速度の方が十分に速いことが証明されました。これにより、反応プロセス全体を通じて、爆発リスクを伴う過酸が系内に一切蓄積しない「安全な反応経路」の確立を科学的に実証しました。本システムを用いることで、安全かつ高収率でDavis試薬を製造することに成功しました。



図2. イメージアート。光照射すると酸素とアルデヒドからmCPBAがオンデマンドで生成され、危険な過酸として蓄積することなく、直ちにイミンの酸化に利用されてDavis試薬が生成する様子を表現しています(画像は生成AIにより作成)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、持続可能な化学モノづくりを提唱する「グリーンケミストリー」の概念を具現化するものです。 製薬・化学工場における「危険物在庫リスク」を最小限(実質ゼロ)に抑えることができるため、作業者の安全確保とプラントの防災レベルが飛躍的に向上します。また、従来の加熱プロセスとは異なり、室温かつ「自然太陽光」を主要エネルギー源として利用できるため、製造プロセスにおける消費電力および二酸化炭素排出量も削減可能です。安全と持続可能を両立した、次世代の精密有機合成プラットフォームとしての社会実装が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年6月18日(木)に、英国王立化学会誌 『Green Chemistry』(オンライン)に掲載されました。
タイトル:"Kinetically guided on-demand mCPBA generation enables safe and sustainable light-driven synthesis of Davis reagents"
著者名: Muthu Karuppasamy, Mohamed S. H. Salem, Kwangkyun Jang, Mitsuhiro Arisawa, Masayuki Kirihara and Shinobu Takizawa
DOI:10.1039/d6gc02210c
なお、本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業「革新反応研究」、および文部科学省科学研究費助成事業「学術変革研究A:デジタル化による高度精密有機合成の新展開」の一環として行われました。

参考URL

滝澤忍 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/992a83c2c3217e47.html

SDGsの目標