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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年7月10日

健診で高血圧を指摘されたら、どうしますか?

特定健診解析による高血圧患者の動向調査

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
多変量解析/決定木/農地/健康診断/コホート/レセプト/血圧/高血圧/脂質/脂質異常症/生活習慣病
2026-7-9
●生命科学・医学系医学系研究科寄附講座教授中神 啓徳

発表のポイント

特定健診受診者のデータを用いて、高血圧患者の未治療者における血圧コントロールの実態と、その達成に関わる要因を明らかにすることを目的に動向調査を実施。
健診で高血圧を指摘された人の約58%が、次回健診受診時に血圧140/90mmHg未満を達成。
降圧目標を達成した人の特性を分析した結果、高齢(70歳以上)、血圧重症度(中等度、重度)、居住エリア(農地・工業地域で医療機関が少ない)、前回の健康診断でも高血圧を指摘されている、生活習慣の改善意欲なし等の項目が達成率を下げる要因であることが明らかに。
生活指導での効率的な指導による降圧達成率の向上への貢献に期待。

発表概要

大阪大学大学院医学系研究科の中神啓徳 寄附講座教授(健康発達医学)、小原僚一 さん(大学院生、老年・総合内科学)、山本浩一 教授(老年・総合内科学)、神戸薬科大学の田中佐智子教授、ノバルティス ファーマ株式会社らの研究グループは、特定健診受診者で高血圧を指摘された患者を対象に、未治療者における血圧コントロールの実態と、その達成に関わる要因を明らかにすることを目的とした後ろ向きコホート研究を行いました。
神奈川県平塚市在住の特定健診受診者で、2016年5月1日から2023年3月31日までに2回以上健診を受診し、健診で収縮期血圧≧140mmHg、かつ/または拡張期血圧≧90mmHgを認め、6カ月以上高血圧治療を受けていない5428人のデータを解析しました。
その中の約58%が次回健診受診時に降圧目標血圧140/90mmHg未満を達成していましたが、130/80mmHg未満を達成したのは、約18%だけでした。降圧目標を達成した人の特性を分析した結果、達成率が悪い要因となったのは、高齢(70歳以上)、血圧重症度(中等度、重度)、居住エリア(農地・工業地域で医療機関が少ない)、前回の健康診断でも高血圧を指摘されている、生活習慣の改善意欲の向上なし等の項目でした。
また、血圧140/90mmHg未満の降圧目標達成者の中で、降圧薬で治療した人は1515人、降圧薬を処方されなかった人は1656人でした。降圧薬使用の有無別のこの2つの集団における特性を視覚的に明らかにするために、決定木解析を行いました。
どちらの集団においても達成率向上に寄与した最も強い要因は過去の高血圧の指摘無し、次に強い要因は健診時の血圧重症度(軽度)でした。第3要因はそれぞれの集団によって異なり、降圧薬なしで降圧した軽度高血圧の集団ではγGTPが低下している人の達成率が高く、降圧薬を用いて降圧した群では年齢が強く影響していました。
本研究成果は、生活指導での効率的な指導による降圧達成率の向上に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2025年4月4日に「Hypertension Research Volume 48 Issue」へ、 2026年1月16日に「Journal of Cardiology」に掲載されました。


研究の背景

高血圧患者は全国で4300万人と推定されていますが、その中で降圧治療を実施し正常血圧の人は1200万人(27%)に留まっており、1250万人(29%)は降圧治療でもコントロール不良、340万人(11%)は高血圧を認識しても未治療、1400万人(33%)は高血圧を認識していないという現状です。
これは他の先進国と比較しても非常に低く、我が国の課題の一つとなっています。我が国では健診が多く実施されており、血圧測定で高血圧が指摘されているにも関わらず、なぜコントロール不良の高血圧患者が多いのかを調べるために、今回の研究を実施しました。

研究の内容

研究では、神奈川県平塚市在住の40歳から74歳の特定健診受診者を対象としました。2016年5月1日から2023年3月31日までに特定健診を受診し、2回以上の健診記録がある人(16184人)で、健診時に収縮期血圧≧140mmHg、かつ/または拡張期血圧≧90mmHgを認め、6カ月以上高血圧治療を受けていない5428人のデータを解析しました。高血圧などの生活習慣病治療の有無を調べるために、レセプトデータ、国民健康保険被保険者台帳データも併せて確認しました。
降圧目標血圧140/90mmHg未満を達成した人は3171人(58.4%)でしたが、130/80mmHg未満を達成したのは980人(18.1%)でした。過去の同様の研究では、血圧140/90mmHgを達成できているのは40%程度と報告されていますので、それに比較すると良い結果ですが、日本高血圧学会で 定める正常血圧130/80mmHgを達成できているのは18%とかなり低いことが明らかとなりました。
降圧目標140/90mmHg未満を達成した人の特性を多変量解析で分析した結果、達成率が悪い要因となったのは、高齢(70歳以上)、血圧重症度(中等度、重度)、居住エリア(農地・工業地域で医療機関が少ない)、前回の健康診断でも高血圧を指摘されている、生活習慣の改善意欲なし、脂質異常症の新規発症なしの項目でした。
【降圧薬治療の有無に分けての解析】
健診で高血圧を指摘された5428人の中で、次回の健診までに降圧薬を処方されたのは2468人、降圧薬を処方されなかった人は2960人でした。そして、血圧140/90mmHg未満の降圧目標を達成したのは、それぞれ1515人(61.4%)および1656人(55.9%)でした。この2つの集団の特性を視覚的に明らかにするために、年齢、性別、居住エリア、血圧重症度、BMI(body mass index)、腹囲、脂質(LDL-C、中性脂肪)、γGTP、生活習慣改善意欲、飲酒量、前回受診時の高血圧の有無の項目を抽出し、目標達成に対する寄与度を決定木解析で検証しました。
どちらの集団においても達成率向上に寄与した最も強い要因は過去の高血圧の指摘無し、次に強い要因は健診時の血圧重症度(軽度)でした。第3要因はそれぞれの集団によって異なり、降圧薬なしで降圧した軽度高血圧の集団ではγGTPが低下している人の達成率が高く、中等度および重度高血圧の集団では健診時の中性脂肪値が低い人の達成率が高い傾向がありました。一方、降圧薬を用いて降圧した群では年齢が強く影響していました。


本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

特定健診で生活習慣病を指摘された場合には保健指導が行われますが、公共団体で実行する保健指導で対象者全員に充分な指導を行うためにはリソースが十分でなく、効率的な生活習慣指導を行う必要があります。本研究で得られたような降圧効果が得られやすい集団の特性分析を活かし、より効率的な生活指導を期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年4月4日「Hypertension Research Volume 48 Issue」および2026年1月16日「Journal of Cardiology」(オンライン)に掲載されました。
「Hypertension Research Volume 48 Issue」
タイトル:“Modifiable factors to achieve target blood pressure in hypertensive participants.”
著者名:Sachiko Tanaka-Mizuno¹, Fumiko Nakatsu², Shunsuke Eguchi², Kazuma Iekushi², Hironori Nakagami³
所属:¹神戸薬科大学、²ノバルティス ファーマ株式会社、³大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座
DOI:https://doi.org/10.1038/s41440-025-02134-x
「Journal of Cardiology」
タイトル:“A greater reduction in γ-GTP was associated with achieving BP <140/90 mmHg without antihypertensive medication among individuals who newly developed Grade I hypertension”
著者名:Ryoichi Ohara1, Fumiko Nakatsu2, Kazuma Iekushi2, Sachiko Tanaka-Mizuno3, Hironori Nakagami⁴, Koichi Yamamoto1
所属:¹大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学講座、 ²ノバルティス ファーマ株式会社、³神戸薬科大学、4大阪大学医学系研究科健康発達医学寄附講座
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jjcc.2026.01.002

参考URL

中神啓徳教授 研究者総覧
https://researchmap.jp/hironorinakagami