既存薬「プロブコール」が放射線防護剤となる可能性
~放射線被ばくマウスの生存率向上を確認~
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 将来的には、放射線事故や放射線を扱う現場で働く人の防護などへの応用が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
放射線防護/原子力災害/原子力/消化管/幹細胞移植/骨髄細胞/中枢神経/微小環境/放射線照射/臨床応用/感染症対策/骨髄/細胞移植/造血幹細胞/がん治療/マウス/活性酸素/幹細胞/血液/抗酸化/抗酸化作用/再生医療/脾臓/コレステロール/ストレス/感染症/細菌/酸化ストレス/脂質/脂質異常症/造血/造血幹細胞移植/放射線/臨床研究
研究のポイント
脂質異常症(高コレステロール)の治療薬として使用されていたプロブコール※1に、致死量の放射線による障害を軽減する可能性があることを発見しました。放射線を浴びる前にプロブコールを投与したマウスでは、生存率が向上しました。
プロブコールは放射線によって生じる活性酸素※2を抑え、骨髄の細胞を守ることで効果を発揮すると考えられます。
将来的には、放射線事故や放射線を扱う現場で働く人の防護などへの応用が期待されます。
発表概要
広島大学原爆放射線医科学研究所の東幸仁教授らの研究グループは、抗酸化作用※3をもつ既存薬プロブコールが、致死量の放射線を浴びたマウスの生存率を高めることを明らかにしました。放射線を浴びると体内で大量の活性酸素が発生し、DNAや骨髄の細胞が傷つきます。本研究では、放射線を浴びる前にプロブコールを投与したマウスでは、この傷害が抑えられ、血液をつくる骨髄の細胞が多く保たれました。また、脾臓で血液をつくる働きも活発になり、生存率が改善しました。プロブコールを投与しなかったグループ(対照群)では30日以内にすべてのマウスが死亡した一方、放射線を浴びる前にプロブコールを投与したグループでは約40%のマウスが30日後も生存しました。
一方、放射線を浴びた後に投与した場合には、生存率の改善は確認できませんでした。このことから、プロブコールは放射線障害を治療する薬というよりも、放射線を浴びる前に体を守る「放射線防護剤※4」として役立つ可能性が示されました。
この研究成果は、国際学術誌「Radiation Research」に6月22日に掲載されました。
背景
放射線は、がん治療をはじめとする医療分野や工業・研究分野において広く利用されています。一方で、原子力災害や放射線事故、あるいは放射性物質を用いたテロなどによる高線量被ばくは、重篤な健康障害を引き起こし、ときに致死的な転帰をもたらします。急性高線量被ばくでは、被ばく線量に応じて骨髄死、消化管死、中枢神経死などが生じることが知られており、特に全身被ばくによる骨髄障害は、急性放射線症候群の主要な病態の一つです。
全身照射による高線量被ばくでは、造血幹細胞や骨髄微小環境が著しく障害され、重度の汎血球減少、感染症、出血傾向を経て死に至ります。
現在、重度放射線障害に対する治療法は、輸血や感染症対策などの支持療法が中心であり、造血幹細胞移植も適応やドナー確保の問題から広範な適用は困難です。
そのため、安全かつ有効な放射線防護剤の開発が求められています。
研究成果の内容
マウスに致死量の8Gy(グレイ)の放射線照射し、プロブコール投与群として、照射前4日間連日経口投与する前投与群と、照射4時間後から4日間投与する後投与群を設定しました。プロブコール前投与群では、対照群と比較して有意な生存率の改善が認められました。一方、後投与群では、対照群との差は認めませんでした。全群で8Gyの放射線照射により、重度の汎血球減少を呈しました。照射群間で、末梢血球数に有意差は認めませんでした。対照群では、骨髄細胞の著しい減少と低形成が観察されたのに対し、プロブコール前投与群では、骨髄細胞が有意に保持されていました。一方、通常、血液を作っている骨髄以外の造血作用(髄外造血)は、放射線照射によって低下しましたが、プロブコール前投与群では対照群と比較して有意に高値でした。酸化ストレスのマーカーである8-OHdGは、対照群において照射後に約1.8倍の有意な増加を認めましたが、プロブコール前投与群において有意な増加を認めませんでした。
今後の展開
プロブコールは、長年にわたり臨床使用され安全性が確立されている薬剤であることから、将来的には、放射線業務従事者や放射線事故時の防護戦略に応用できる可能性があります。現在、残念ながら、安全かつ有効な放射線防護剤がない中、既存薬の再活用による新たな放射線防護剤開発の可能性を示すものであり、今後のさらなる前臨床研究および臨床応用に向けた検討が期待されます。
論文情報
掲載誌:Radiation Research論文タイトル:Antioxidant probucol reduces mortality in mice exposed to lethal doses of ionizing radiation.
著者:Tanigawa S, Higashi Y, et al.
DOI:10.1667/RADE-26-00251.1
本研究は、J-PEAKS(Grant Number JPJS00420230011)の助成を受けたものです。

用語解説
※1プロブコール脂質異常症(高コレステロール)の治療薬として使われてきた薬です。体内で細胞を傷つける「活性酸素」の働きを抑える強い抗酸化作用があることでも知られています。
※2活性酸素
体内で発生する反応性の高い酸素です。通常は細菌などを攻撃する働きがありますが、増えすぎるとDNAや細胞を傷つけます。放射線を浴びると活性酸素が大量に発生し、体の組織にダメージを与えます。
※3抗酸化作用
活性酸素を減らしたり、その働きを弱めたりして、細胞やDNAが傷つくのを防ぐ働きです。
※4放射線防護剤
放射線を浴びる前に使用し、放射線による体へのダメージを軽減する薬のこと。放射線を浴びた後に障害を治療する薬とは異なります。
報道発表資料(410.45 KB)
論文掲載ジャーナル (Radiation Research)
広島大学研究者ガイドブック (東 幸仁 教授)
問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】原爆放射線医科学研究所 再生医療研究開発分野 教授 東 幸仁
Tel:082-257-5831 FAX:082-257-5831
E-mail:yhigashi*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
掲載日 : 2026年07月08日
広島大学 研究