\“敵対関係”が人物相関図の要/ ドラマ視聴で形成される人間関係の脳内表象を解明
複雑な社会関係を理解する脳の仕組みが明らかに
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 物語理解、社会的認知、エンタテインメント、AIによる人間関係理解への応用に期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
2026-7-6●自然科学系情報科学研究科教授中野 珠実発表のポイント
ドラマ視聴を通じて自然に学習した登場人物同士の人間関係が、視聴後の脳活動パターンに反映されることを発見従来のソーシャルネットワーク研究は「誰と誰がつながっているか」や「つながりの数」に注目してきたが、友好・敵対という関係の質に着目し、ドラマ視聴の前後で脳活動を比較することで、物語を通して獲得した人間関係の脳内表象を調べることが可能に
複雑な人間関係の理解には、友好関係だけでなく敵対関係が重要であることを示し、物語理解、社会的認知、エンタテインメント、AIによる人間関係理解への応用に期待
発表概要
大阪大学大学院情報科学研究科の中野珠実教授(マルチメディア工学)らの研究グループは、ドラマ視聴を通じて獲得した登場人物同士の社会関係が、敵対関係を軸に脳活動パターンに反映されることを世界で初めて明らかにしました。人間関係は、単に「つながっている/いない」だけでなく、友好・信頼・協力といった肯定的な関係と、競争・対立・敵対といった否定的な関係が複雑に入り組んでいます。しかし、これまでの脳科学研究では、ソーシャルネットワークの大きさや中心性など、つながりの有無や数に注目した研究が中心で、敵対・友好という関係の質が脳内でどのように表されるかは十分にわかっていませんでした。
本研究では、大学生21名に米国の人気テレビドラマ「SUITS」6話を視聴してもらい、その前後でfMRI計測を行いました。視聴前後の脳活動を比較することで、登場人物の顔の見た目や第一印象ではなく、ドラマ視聴によって形成された人間関係の表象を取り出すことを目指しました。その結果、敵対的な関係性が、内側前頭前野や下頭頂葉周辺の脳活動パターンに強く反映されることが示されました。
これにより、複雑な人間関係の理解には、友好関係だけでなく敵対関係が重要であることを示し、物語理解、社会的認知、エンタテインメント、AIによる人間関係理解への応用に期待がされます。
本研究成果は、英国科学誌「Communication Psychology」(オンライン)に、2026年7月6日(月)18時(日本時間)に公開されました。

図1. 敵対関係を表象している脳領域
研究の背景
人は集団の中で生きるために、個人の特徴だけでなく「誰と誰がどのような関係にあるか」を理解する必要があります。学校、職場、物語の登場人物、SNS上の人間関係など、私たちは日常的に複雑な人間関係の構造を読み取っています。これまでのソーシャルネットワークに関する脳科学研究では、友人の数、ネットワーク上での中心性、誰と誰がつながっているかといった構造に注目した研究が多く行われてきました。一方で、実際の人間関係は単なるつながりの有無ではなく、友好、信頼、協力、競争、対立、敵対といった感情的な意味を伴います。
とくに敵対関係は、集団内の力関係や行動の予測に大きく影響します。例えば、物語の人物相関図では「誰が味方か」だけでなく「誰が敵か」が、展開を理解する重要な手がかりになります。しかし、このような敵対・友好という関係の質が、脳内でどのように表象されるかは十分に明らかではありませんでした。
研究の内容
研究グループでは、友情、ライバル関係、恋愛、利害対立が入り組んだテレビドラマを用いて、人が自然な物語体験を通じて形成する人間関係の脳内表象を調べました。参加者はドラマを視聴する前と視聴した後の2回、fMRI装置の中で主要登場人物8名の顔画像を見ました。ドラマ視聴後、参加者には全ての登場人物ペアについて、関係の強さと、友好的か敵対的かを評価してもらいました。その評価に基づいて、登場人物同士の関係性を数値化した「人物相関図」のモデルを作成しました。さらに、視聴前後の脳活動パターンを比較し、どの脳領域の活動パターンがこの人物相関図と対応するかを、表象類似性解析(RSA)により調べました。
その結果、ドラマ視聴後には、敵対的な関係性が左前部縁上回を含む下頭頂葉周辺、および内側前頭前野の脳活動パターンに反映されることがわかりました。一方、友好的な関係性については、同じ基準で有意な領域は確認されませんでした。また、登場人物の顔に対する活動は視聴後に楔前部で増加し、各登場人物に関する物語上のエピソード記憶の想起が強まった可能性が示されました。
これらの結果は、私たちが物語を理解する際に、登場人物同士の関係を多次元的な「社会的地図」として構築しており、その中でも敵対関係が重要な手がかりとして働く可能性を示しています。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、人間が複雑な社会関係をどのように理解し、脳内に整理しているのかを明らかにする基礎的知見です。特に、従来の研究で重視されてきた「友人関係」や「つながりの数」だけでなく、敵対関係が社会的理解の重要な軸であることを示した点に意義があります。この成果は、物語理解、対人認知、集団内の関係性理解の研究に貢献します。また、ドラマ・映画・小説などのエンタテインメント作品において、人がどのように登場人物の関係性に引き込まれるのかを理解する手がかりにもなります。
特記事項
本研究成果は、2026年7月6日(月)18時(日本時間)に英国科学誌「Communication Psychology」(オンライン)に掲載されました。タイトル:“Antagonism Shapes Social Maps in the Human Brain”
著者名:Isato Chikazawa, Ryo Ishibashi, and Tamami Nakano
DOI:https://doi.org/10.1038/s44271-026-00491-y
なお、本研究は、日本学術振興会科学研究推進費の学術変革(A)ならびに基盤(B)研究の一環として行われ、大阪大学・脳情報通信研究センター(CiNet)の中野珠実教授と大学院生の近澤勇聡が、国立情報研究推進機構・CiNetの石橋遼研究員の協力を得て行いました。
参考URL
中野珠実教授 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/df4f965dccaac1df.html
SDGsの目標

大阪大学 研究