細胞内の"油"が分子の並び方を制御する新原理を発見
~脂肪滴が関与する疾患の理解と治療に向けて~
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 中性脂質が超分子集合の経路を制御する機能性媒体として働くことを示すものであり、生体内脂質環境で機能する分子集合システムの設計や、細胞内脂肪滴の機能の制御を標的とした分子技術につながることが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
持続可能社会/物質科学/核形成/共役分子/芳香環/アミド/エステル/自己集合/分子集合体/単分子膜/持続可能/ナノ構造/ポリマー/環境問題/生体内/機能性/光イメージング/超分子/アミノ酸/リン脂質/蛍光イメージング/分子集合/コレステロール/脂質

化学
2026.07.07
研究のポイント
・中性脂質「トリオレイン」中で、発光性π共役分子注1)が繊維状の超分子ポリマー注2)を形成し、その構造を蛍光イメージングにより可視化した。・トリオレイン(TO)が、従来の低極性有機溶媒とは異なり、分子の自発的な核形成や繊維同士の凝集を抑制し、超分子重合の精密制御に有用であることを見出した。
・この性質を利用し、異なる発光色の超分子ポリマーを段階的に伸長させることで、マルチブロックナノ構造の構築に成功した。
名古屋大学大学院理学研究科・学際統合物質科学研究機構(IRCCS※)の大城 宗一郎 准教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)・IRCCSの山口 茂弘 教授らの研究グループは、脂肪滴注3)の主要構成脂質であるトリアシルグリセロール(TAG)に着目し、その代表例であるトリオレイン(TO)中で、超分子ポリマーの形成過程を精密に制御できることを明らかにしました。
超分子ポリマーは、分子が水素結合やπ共役骨格間の非共有結合性相互作用を介して自発的に形成される分子集合体です。細胞内で超分子ポリマーを形成させ、細胞機能を制御する研究がこれまでなされてきましたが、脂肪滴のような中性脂質に富む環境で自己集合をどのように制御できるかは十分に理解されていませんでした。
今回、研究グループは、アミノ酸由来のジアミド部位を持つ発光性π共役分子を用いることで、TO中での自己集合挙動を明らかにしました。TOは、一般的な低極性有機溶媒と同程度の低極性にもかかわらず、自発的な核形成や超分子ポリマー同士の凝集を抑制することを見出しました。この効果により、種(シード)となる集合体を加えると、分子を望みの経路に沿って成長させるシード重合注4)が可能であり、緑色発光分子と青色発光分子を段階的に伸長させたマルチブロック超分子ポリマーの構築にも成功しました。
本成果は、中性脂質が超分子集合の経路を制御する機能性媒体として働くことを示すものであり、生体内脂質環境で機能する分子集合システムの設計や、細胞内脂肪滴の機能の制御を標的とした分子技術につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月6日18時(日本時間)に米国化学会誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
用語解説
注1)発光性π共役分子:二重結合や芳香環が連なったπ共役構造をもち、光を吸収して発光する分子。
注2)超分子ポリマー:
非共有結合性相互作用を介して分子が一次元方向に連なって形成される集合体。
注3)脂肪滴:
トリアシルグリセロール(TAG)やコレステロールエステルなどの中性脂肪がリン脂質の単分子膜で囲まれた構造体。
注4)シード重合:
種(シード)の添加により超分子ポリマー化を開始することができる手法。
論文情報
雑誌名:Nature Communications論文タイトル:Programmable Construction of Supramolecular Polymers Achieved in Neutral Lipid Environments
著者:Miku Naruse, Natsumi Fukaya, Yoshiki Imai, Soichiro Ogi,* Masayasu Taki, Shigehiro Yamaguchi*(*は責任著者)
DOI: 10.1038/s41467-026-74683-9
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-74683-9
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
※【IRCCSについて】(http://irccs.nagoya-u.ac.jp)
学際統合物質科学研究機構(IRCCS)は、名古屋大学、北海道大学触媒科学研究所、京都大学化学研究所附属元素科学国際研究センター、九州大学先導物質化学研究所の4大学がコアとなり、単なる研究所連携を越えた組織として、2022年に名古屋大学に設置されました。物質創製化学分野の融合フロンティアの開拓に挑むとともに、国際・異分野・地域・産学官の連携を強力に進める場を構築することにより、当該分野の世界的トップ拠点の形成を目指しています。触媒、バイオ機能、マテリアルを中心とした新分野創出の潮流を生むとともに、持続可能社会の進歩に貢献する科学研究を展開することを目的としています。
研究代表者
トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・学際統合物質科学研究機構(IRCCS)・大学院理学研究科 山口 茂弘 教授,大城 宗一郎 准教授https://orgreact.chem.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学 研究