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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年7月3日

柔らかく受け流して壊れにくい高分子材料を開発

分子が「動く・切れる・絡み合う」ことで、強い力から材料を守る新設計

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
従来型のポリウレタンエラストマーと比べて靭性が約5倍に向上。柔らかく壊れにくい材料として、製品の長寿命化や信頼性向上への貢献に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学化学総合理工工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
ウェアラブル/内部構造/分子構造/エラストマー/赤外分光/ロタキサン/高分子/赤外分光法/フレキシブル/持続可能/分光測定/持続可能な開発/じん性/フーリエ変換/フレキシブルデバイス/高分子材料/長寿命化/粘弾性/ポリウレタン/寿命/構造変化/分子設計
2026-7-1●自然科学系理学研究科助教小林 裕一郎

発表のポイント

自らの分子構造を変えながら外部からの力を受け流す、新しい高靭性エラストマーを開発。
力が加わると、分子が「動く」「一部が切れる」「鎖どうしが絡み合う」という3つの変化が順番に起こり、材料の破壊を抑えることを解明。
従来型のポリウレタンエラストマーと比べて靭性が約5倍に向上。柔らかく壊れにくい材料として、製品の長寿命化や信頼性向上への貢献に期待。

発表概要

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻の大学院生の李雪さん(博士後期課程)、Xiao Chunlin特任研究員(常勤)、井筒治棋さん(博士後期課程)、浦川理准教授、井上正志教授(現大阪大学名誉教授)、小林裕一郎助教、山口浩靖教授らの研究チームは、強い力を受けても壊れにくい高靭性エラストマーの開発に成功しました。
エラストマーは、タイヤやゴム製品、柔軟な電子材料など、私たちの身の回りのさまざまな製品に使われているゴム状の高分子材料です。柔らかくよく伸びる一方で、強い力が加わると損傷や破壊につながりやすく、柔らかさと壊れにくさを両立することが大きな課題でした。
今回、研究グループは、分子が自らの形やつながり方を変えながら力を受け流す材料を設計しました。具体的には、力を受けたときに、まず分子が動いて力を逃がし、さらに強い力が加わると分子の一部が切れて衝撃を吸収し、最後に切れた後の高分子鎖が絡み合うことで材料全体の構造を保つ仕組みを1つの材料に組み込みました。その結果、従来型のポリウレタンエラストマーと比べて靭性が約5倍に向上し、柔らかさと壊れにくさを両立する材料を実現しました。高分子材料の靭性を向上させることで、製品の長寿命化、機械的損傷による故障の低減、材料廃棄や交換頻度の削減につながることが期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、7月1日(水)18時(日本時間)に公開されました。



図1. 力が加わると、分子が「すべる」「切れる」「絡み合う」と順番に働き、材料が壊れにくくなる仕組み

研究の背景

エラストマーはゴムのような優れた伸縮性と柔軟性を持つ高分子材料の総称で、タイヤ、ゴム製品、フレキシブルデバイス、ウェアラブル電子機器などに広く使われています。よく伸び、形を変えやすいことが大きな特徴ですが、一方で、強い力や繰り返しの変形を受けると、損傷や破壊が起こる場合があります。このような材料を壊れにくくするためには、外部から加わる力を材料内部でうまく逃がすことが重要です。
これまでにも、分子が動く仕組みや、力によって一部の結合が切れる仕組みなどを利用して、材料の壊れにくさを高める研究が行われてきました。しかし、多くの場合、1つの仕組みだけに頼るものか、複数の仕組みを組み込んでもそれらを順序よく働かせることは難しいという課題がありました。そこで研究グループは、材料が受ける力の大きさに応じて、異なる分子レベルの変化が段階的に起こる材料を設計しました。これにより、弱い力から強い力まで、材料が状況に応じて力を受け流し続けることを実現しました。

研究の内容

研究グループは、新たに設計したロタキサン型分子架橋剤をポリウレタンエラストマーに導入しました(図2a)。ロタキサンとは、輪の形をした分子が軸状の分子に通された構造で、輪が軸に沿って動くことができるという特徴を持ちます。本研究で開発した材料では、力が加わると、まずロタキサン構造の輪が軸に沿って動きます(図1)。この分子の動きにより、外部から加わった力の一部が吸収されます。さらに大きな力が加わると、あらかじめ分子内に組み込んでおいた力に応答する部分が切れます。この切断は材料の破壊ではなく、強い力を逃がすための犠牲的な変化として働きます。加えて、切れた後に生じた高分子鎖は、互いに絡み合うことで材料全体の構造を保ちます。つまり、この材料は、力を受けたときに単に壊れるのではなく、内部構造を変えながら力を受け流し、壊れにくさを保つことができます。
この仕組みを明らかにするため、研究グループは、試料に異なる大きさの変形を加えながら、分子構造の変化を詳しく解析しました。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)により、弱い変形では分子の切断は起こらず、主にロタキサン構造の動きによって力が逃がされることが分かりました(図2c)。一方、大きな変形を加えると、力に応答する部分が切断されたことを示す信号が観測されました。さらに、動的粘弾性測定(DMA)により、切断後に生じた高分子鎖が互いに絡み合い、材料の構造維持に寄与していることを確認しました。
これらの結果から、本材料では、分子の動き、分子の切断、高分子鎖の絡み合いという3つの変化が順番に働き、材料の高い靭性を生み出していることが明らかになりました(図2d)。開発したエラストマーは、従来型のポリウレタンエラストマーと比較して靭性が約5倍に向上し、優れた耐破壊性を示しました(図2b)。



図2. (a) 開発した高靭性エラストマーの分子構造。(b) 従来型材料と比較した靭性の向上。(c) 力を受けた際の分子構造変化を示す赤外分光測定。(d) 切断後の高分子鎖の絡み合いによる構造維持

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、柔らかい材料を壊れにくくするための新しい分子設計指針を示すものです。材料が力を受けたときに、自らの内部構造を変えながら力を受け流すという考え方は、今後の高分子材料開発において重要な設計戦略になると期待されます。
また、このような高靭性エラストマーは、タイヤ、ゴム製品、フレキシブルデバイス、ウェアラブル電子機器など、繰り返し変形や衝撃を受ける材料への応用が期待されます。製品の長寿命化や故障の低減につながることで、材料の廃棄や交換頻度の削減にも貢献する可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2026年7月1日(水)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Toughening Elastomer via Sequentially Activated Multi-Pathway Energy Dissipation”
著者名:Xue Li, Chunlin Xiao, Haruki Izutsu, Osamu Urakawa, Tadashi Inoue, Yuichiro Kobayashi, Hiroyasu Yamaguchi
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-74148-z
なお、本研究は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(JPMJSP2138)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR2474)、JSPS 科研費 挑戦的萌芽(JP22K19066、 JP24K21673)、基盤B(JP23K23413、JP24K01539)、公益財団法人 旭硝子財団、公益財団法人 徳山科学技術振興財団の一環として実施され、大阪大学理学研究科技術部分析器測定室の協力を得て行われました。

参考URL

山口浩靖教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/7df0c1f12e0cfbc6.html
小林裕一郎助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e66684f95979c53c.html
井上正志名誉教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/1b89f9d2a2b34abe.html
浦川理准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/6fbc581dfecb41ac.html

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