液晶の物理学で解き明かす、哺乳類の胚が組織パターンを獲得するしくみ
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】

Research June 30, 2026
概要
―境界が導く細胞の並び方―
私たち生物のからだは、個々の細胞が動ける柔軟性を持ちながらも、細胞同士が向きを揃えることで、複雑な組織の形を作り、高度な機能を獲得しています。これは、テレビの画面などに使われる液晶と似た性質で、液晶は液体のように流動性を持ちながらも、分子が一定の向きに揃う秩序を示します。近年、こうした物理学的な考え方を生物学に応用し、様々な生命現象を解き明かす試みが行われています。哺乳類の発生において、将来のからだのもととなるエピブラスト1は、着床前後の時期に劇的な変化を遂げます。マウスでは、極性を持たない細胞の塊から、それぞれの細胞が伸長しながら放射状に整列し、カップ状の三次元組織を形成します。しかし、このエピブラストのパターン形成過程で、どのようにして細胞が三次元的な配向秩序を獲得するかは、実験的な観察の困難さもあり理解が進んでいませんでした。

Ichikawa T. et al., (2026) Nature Physics. & Guruciaga P.C. et al., (2026) Nature Materialsより一部改変。
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)市川 尚文 特定助教(同、大学院医学研究科助教)、Steffen Plunder研究員らの研究グループは、等の研究グループは、欧州分子生物学研究所(EMBL)のPamela Guruciaga研究員、Anna Erzberger主任研究者らとともに、マウスの着床前後の胚をモデルに、三次元組織内の細胞配向に関する研究を行いました。独自の三次元胚培養法を含むマウス胚の生物学的解析と液晶物理学の理論とを組み合わせることによって、エピブラストを取り囲む組織の境界が、内部の細胞の整列を導き、組織構造の変化と細胞分化に関するシグナル経路を活性化することを明らかにしました。これまで分子レベルで研究されてきたエピブラストの発生に、物理学的視点を取り入れることで、その三次元的なパターン形成を説明することが可能となりました。 本研究成果は、2つの相補的な論文として、2026年4月1日に「Nature Physics」に、6月30日に「Nature Materials」に、それぞれ掲載されました。
用語解説
エピブラスト(胚盤葉上層):哺乳類の胚盤胞に出現する多能性の細胞集団。着床期の胚において、次第に多能性を失い、のちに三胚葉(外・中・内胚葉)へと分化し、将来のからだのもととなる。↩︎書誌情報
Ichikawa, T., Guruciaga, P. C., Hu, S., Plunder, S., Makino, M., Hamaji, M., Stokkermans, A., Yoshida, S., Hiiragi, T., & Erzberger, A. (2026). Boundary-guided cell alignment drives mouse epiblast maturation.Nature Physics.https://doi.org/10.1038/s41567-026-03176-9Guruciaga, P. C., Ichikawa, T., Plunder, S., Hiiragi, T., & Erzberger, A. (2026). Boundary geometry controls a topological defect transition that determines lumen nucleation in embryonic development.Nature Materials.https://doi.org/10.1038/s41563-026-02594-7
京都大学 研究