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東京大学 研究Discovery Saga
2026年7月2日

なぜ超低角断層で超巨大地震が起きるのか

沈み込み帯のプレート境界と応力場の関係

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域環境学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
先端技術/地球科学/海洋/確率論/数理科学/プレート境界/応力場/火山観測/巨大地震/広帯域/地震学/沈み込み/沈み込み帯/南海トラフ/惑星/惑星科学/地震リスク/地震断層/モニタリング/リスク評価/階層構造/自由表面/大地震/物理モデル/層構造

DATE2026.07.02#Press Releases

発表のポイント

沈み込み帯での超巨大地震の発生の謎を解明した。
プレート境界形状と応力変化により、超低角断層で地震が巨大化しやすいことを説明した。
より正確な超巨大地震発生リスク評価のための科学的根拠を提供した。



発表概要

東京大学大学院理学系研究科の井出 哲 教授と、国立研究開発法人海洋研究開発機構 情報地球科学研究部門 数理科学・先端技術研究開発センター 古市 幹人 グループリーダー・上席研究員、同地震火山研究部門 地球モニタリングセンター 佐藤大祐 研究員による研究グループは、これまで見逃されていた超巨大地震の発生要件を明らかにしました。
本研究では世界の沈み込み帯で発生する地震について、その断層の傾斜角と地震の巨大化確率との相関を明らかにし、また地震の巨大化は断層の向きと応力場の整合性で変化することを明らかにしました。さらに沈み込み帯での応力場の周期的な変化が、選択的に超低角断層で超巨大地震を発生させることを単純なモデルで説明しました。これは、従来「最大規模の地震」の推定に重きを置いていた巨大地震発生リスク評価に、新たな視点を提供するものです。同時に日常的な応力場のモニタリングから、地震発生確率を評価するための科学的根拠も提供し、今後のより正確な確率的地震予測手法開発につながります。

発表内容

これまで多くの巨大地震が沈み込み帯プレート境界で発生してきました。なかでも断層面の角度が20度以下の超低角断層では、マグニチュード(M)9クラスの超巨大地震が起きます(図1)。その理由として、断層面が低角だとより広い面積で地震の破壊が起きるからだと説明されてきました。しかし、広い面積は超巨大地震の必要条件でしかありません。断層が一度にすべて破壊する必然性はなく、実際に多くのプレート境界では、広い断層面の一部分で大地震が発生します。むしろ力学的考察から、地表(自由表面)近傍では超低角断層にすべりを引き起こす力(応力)はかかりにくいといえます。超低角断層での超巨大地震発生は、地震学における謎の一つとされてきました。
一方最近の研究の発展により、大地震も小地震も、同じような微小な破壊から始まり、連鎖的に巨大化することが明らかになりました。もし超低角断層で、特に地震が巨大化しやすいのであれば、広い面積にわたって超巨大地震が発生することが説明できます。現実として超低角断層で地震は巨大化しやすいのでしょうか?もしそうであれば、なぜでしょうか?



図1:世界の沈み込み帯で発生する地震の傾斜角の違い。代表的な3つの超巨大地震の情報、右上に傾斜角の定義も記す。



図2:(左)傾斜角(色は右図参照)で区分した地震の規模別累積発生率。この傾きが緩やか(b値小)だと地震は巨大化しやすい。(右)傾斜角ごとのb値の大きさ。水平バーは推定区間、鉛直バーは標準誤差を表す。
地震の巨大化確率は、Gutenberg-Richterの法則(GR則)のb値(注1)を用いて評価できます。本研究グループでは、全世界標準地震カタログGlobal CMTを用いて、沈み込み帯の逆断層地震(注2)を抽出し、その断層面の傾斜角度ごとにb値を計算しました。その結果、GR則で良く近似できる直線的な分布が得られ、b値が傾斜角度によって大きく異なることが明らかになりました(図2)。具体的にはM5の地震がM9まで巨大化する確率は、b値が0.65の傾斜10度の断層では、b値が1.1の傾斜40度の断層より60倍以上高いことを意味します。つまり超低角断層では、広大な断層をすべて一度に破壊し、超巨大地震が起きやすいのです。
しかし、超低角断層に力がかかりにくいという問題は残ります。本研究グループでは、国内外の様々な応力カタログと断層面カタログを用いて網羅的な分析を進め、応力の方向と断層方向の組み合わせによっては、地震が巨大化しやすくなることを実証し、超低角断層では特に地震が巨大化しうることを簡単なモデルで示しました(図3)。



図3:沈み込み帯の応力の方向の変化と傾斜角による地震の巨大化しやすさ。A:応力が小さいとき、その向きは40度くらい。危険な断層はない。B:応力がたまると方向が回転し、超低角断層の地震が巨大化しやすくなる。C:一般的な沈み込み帯のイメージだと、最も巨大化しやすいのは30度くらい。Bの時点で巨大地震が発生しAに戻るので、決してCにはならない。
巨大地震のリスク評価は全世界的な問題であり、既往研究は膨大です。しかしほとんどの研究は地域ごとの「最大規模の地震」の統計的評価にとどまっており、物理的な根拠に基づく確率的な評価は、十分に成熟しているとはいえませんでした。今回の発見は、近年発展してきた確率的に巨大化する地震の物理モデルで巨大地震の発生確率変化を説明するもので、全世界的な巨大地震リスク評価の方法論を一変させる可能性があります。また国内でも南海トラフや北海道・東北沖の巨大地震の確率評価に新しい判断基準を与えることになります。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
井出 哲(教授)
海洋研究開発機構
 情報地球科学研究部門数理科学・先端技術研究開発センター
古市 幹人(グループリーダー・上席研究員)
 地震火山研究部門 地球モニタリングセンター
佐藤 大祐(研究員)

論文情報

雑誌名 Science Advances
論文タイト Ultra-Low-Angle Faults Produce Giant Earthquakes
著者 Satoshi Ide, Mikito Furuichi, and Daisuke Sato
DOI 10.1126/sciadv.aee3921

 

研究助成

本研究は、科研費「数値岩石箱実験による構造発達から地震発生までの統一的理解(課題番号:24H00279)」、「Slow-to-Fast地震学(課題番号:21H05200)」、「震源の階層的固有性と広帯域性に基づく確率論的地震発生論の構築(課題番号:21H04505)」、「3次元階層構造と応力場による確率論的地震発生論の展開(課題番号:26H02081)」、「地震萌芽シグナルから展開する確率論的地震学(課題番号:25K22037)」、災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の推進について(第3次)の支援により実施されました。

用語解説

注1 Gutenberg-Richterの法則(GR則)のb値
小さな地震はたくさん発生するが、超巨大地震はわずかです。結果として、地震のMと累積頻度の関係は指数分布となります。この分布はGutenberg-Richterの法則(GR則)として古くから知られていますが、現在の知見から地震巨大化の法則として再認識できます。Mと累積頻度の関係は、片対数グラフで直線となり、その傾きをb値と呼びます。GR則のb値は、地震の巨大化を支配するパラメーターです。
注2 逆断層地震
断層の上側が、下側に対して乗り上げるように動く断層で発生する地震。沈み込み帯で良く観察されます。今回はすべりの角度が60度から120度(純粋な逆断層から左右30度の範囲)のもので、深さ30kmまでの比較的浅い地震を対象としました。