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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年7月1日

巨大磁気嵐発達のカギは圧倒的な割合の地球起源重イオン

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学数物系科学化学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
環境変動/高エネルギー/磁気嵐/太陽フレア/地球磁気圏/超高エネルギー/放射線帯/陽子/エネルギースペクトル/オーロラ/ノイズ/ヘリウム/磁気圏/磁場変動/地球磁場/地磁気/内部磁気圏/スペクトル/宇宙科学/衛星/衛星観測/恒星/磁場/太陽/太陽風/地球型惑星/惑星/分子イオン/質量分析/空間構造/計測技術/地球環境/人工衛星/粒子追跡/日常生活/放射線

あらせ衛星が磁場変動の主役を直接観測

2026-6-27●自然科学系理学研究科准教授横田 勝一郎

発表のポイント

連続した大型太陽フレアによって20年ぶりに引き起こされた2024年5月の巨大磁気嵐の磁場変動を担うリングカレントのイオンの直接観測にジオスペース探査衛星「あらせ」が成功。
主要なイオンの供給源である太陽風の密度が高かったにも関わらず、巨大磁気嵐の磁場変動を引き起こすリングカレントのイオンは地球起源イオン、特に重イオンが圧倒的割合(およそ85%)。
巨大磁気嵐のエネルギー源は太陽風であるが、その磁場変動は加速された地球起源イオンが大部分を担っていることを観測的に実証。

発表概要

名古屋大学宇宙地球環境研究所の北村 成寿 特任助教らの国際研究グループは、ジオスペース探査衛星「あらせ」の地球近傍の宇宙空間の観測データと、太陽風の同時観測データを解析し、2024年5月に発生した巨大磁気嵐時のリングカレントを担うイオンの大部分が地球起源の重イオンであることを示し、そのイオンの分布の時間変化、空間構造の同定に成功しました。
磁気嵐時のリングカレントは高エネルギーイオンが主に担っていることが知られ、このイオンの組成やエネルギーなどの特性の理解は磁気嵐の発達の理解に決定的な要素です。リングカレントのイオンは太陽風起源と地球起源のものの混合であることが知られていました。今回の巨大磁気嵐の駆動源の太陽風は高密度で、太陽風起源イオンもある程度寄与する可能性も予想されました。しかし、観測されたイオンは地球起源イオン、特に重イオンが圧倒的で太陽風起源イオンの寄与は極めてわずかでした。これは、地球大気からのイオン供給、加速過程が巨大磁気嵐の発達に圧倒的に重要であることを示しています。さらに、リングカレントのイオンの高圧部では磁場強度が40%も減少しており、背景磁場の大きな変形を通じて、高エネルギーの電子の消失への大きな影響も期待されます。本研究結果は、核となる重要過程の同定を通じて、発生頻度の低い巨大磁気嵐時の地球周辺の宇宙環境変動の理解、予測に貢献する貴重な事例です。
本成果は、2026年6月27日午前3時付で米国総合国際学術雑誌 『Science Advances』 に掲載されました。

研究の背景と内容

磁気圏と磁気嵐
地球周囲の宇宙空間には地球起源の磁場が大きく影響し、その勢力範囲は磁気圏と呼ばれています。磁気圏には太陽風や地球起源のさまざまなエネルギーの荷電粒子(プラズマ)が存在しています。この磁気圏において最大の宇宙天気擾乱(じょうらん)現象が磁気嵐と呼ばれる現象です。太陽フレアに伴って生じた、強い磁場を伴う高密度や高速度の太陽風の到来により、磁気圏のプラズマ環境が激変し磁気嵐となることがあります(図1)。巨大な磁気嵐時には、日本の緯度でも観測可能な低緯度オーロラの発生や人工衛星の障害、測位信号の精度低下、通信障害などが起き、最悪の場合には停電まで生じた事例もあります。このため、(巨大)磁気嵐の理解は日常生活への影響、人類の宇宙利用等の観点から磁気圏の宇宙天気研究の最重要課題です。



図1. 磁気嵐時のリングカレントを観測するジオスペース探査衛星「あらせ」のイメージ。(Credit: ERG Science Team)
これまでの磁気嵐の研究
磁気嵐は、中低緯度地域での地上における磁場の水平成分の減少量によってその大きさが評価されます。その指数の一つとしてSYM-H指数が使用され、大きく負になる(図2)ことが磁気嵐の発達を示します。地上磁場の観測によって19世紀から磁気嵐の研究が行われてきていましたが、その中低緯度の磁場変動の主要因となる電流は地球の上空(地球半径6378 kmの数倍)の領域に発達するため、直接観測には人工衛星(科学衛星)の実現を待つ必要がありました。1970年ごろに、エネルギーの高いイオンの集団が運ぶリングカレントと呼ばれる電流系が北向きの地球磁場と逆向きの磁場を生じて一部を打ち消し、その磁場減少を引き起こしていることが徐々に明らかにされました。磁気嵐の発達過程を理解するうえで、どこから来たイオンが電流を運んでいるかは核となる課題です。



図2. 2024年5月の巨大磁気嵐時のSYM-H指数と太陽風密度、速度、惑星間空間磁場の南北成分の変動。横軸の日付はそれぞれ世界時0時の目盛り下に示してある。観測1と2の時間帯を枠で示している。強い南向き惑星間空間磁場(南北成分が負)を伴う高密度、やや高速の太陽風の到来によって、SYM-H指数が大きく負(=中低緯度で磁場が減少)になった。
当初はリングカレントイオンは太陽風起源の水素イオンが主成分と考えられていましたが、太陽風には含まれず地球大気を起源とする一価の酸素イオンなどの重イオンもそれに寄与していることが明らかにされてきています。磁気嵐時に一価の酸素イオンのエネルギー密度が増加し、50%を超え最大の寄与成分になった例が数例あったということまでは報告されており、酸素イオンの寄与の重要性は確立されつつあります。最近では水素イオンですら地球起源の成分がかなり含まれると明らかにされてきており、地球起源イオンの重要性について注目度が増してきています。しかし、リングカレントのイオンが持つエネルギーが計測技術的に難しいエネルギー帯に対応し、地球周囲に存在する高エネルギー電子の影響で観測時のノイズが増加して信号がノイズに埋もれやすいなどの問題もあり、イオンを質量(≒イオン種)ごとに区別して精度良く観測できた過去の衛星はわずかでした。このため、中程度までの磁気嵐は観測的理解が進んできているのに対して、発生自体が稀な大型の磁気嵐時のリングカレントイオンの観測は希少で、巨大磁気嵐中でリングカレントのイオン観測と同時に磁気圏外で太陽風データが観測されている例は皆無でした。このため、太陽風が高密度な状態で駆動されるタイプの巨大磁気嵐(図2)のリングカレントについて以下の二つの可能性が提案されていました。
● 地球起源イオンと同時に太陽風起源イオンも大きく寄与する
● 地球起源イオンが圧倒的割合になり、太陽風起源イオンはほとんど寄与しない
ジオスペース探査衛星「あらせ」のリングカレントイオン観測
ジオスペース探査衛星「あらせ」(以降あらせ衛星)は、2016年12月20日に打ち上げられ、地球近傍の高度約350 kmに近地点を持ち、遠地点は地球半径の約6倍(高度としては地球半径の約5倍)、周期約9時間の楕円軌道(図3)で、内部磁気圏の低緯度の電磁場とプラズマの総合観測を続けています。静止軌道(高度は地球半径の5.6倍)より内側は衛星によるその場観測が比較的希少な領域で、現在、地球半径の約4倍より地球近傍でリングカレントのエネルギー帯のイオン組成を観測できる衛星はあらせ衛星のみです。そのため、この後に詳しく述べるリングカレントイオンの中心領域の観測データは、この巨大磁気嵐についてあらせ衛星のものが唯一無二でした。この楕円軌道は磁気嵐時のリングカレントイオンの集団を横断し、動径方向の分布を理解するのに適した軌道です。イオンの観測器として、低エネルギーイオン質量分析器(Low-Energy Particle Experiments - Ion Mass Analyzer, LEP-i)と中間エネルギーイオン質量分析器(Medium-Energy Particle Experiments - Ion Mass Analyzer, MEP-i)という2台を搭載し、特にMEP-iはリングカレントイオンのエネルギー帯のイオン観測に特化した新たなデザインの計測器で、質の高いデータの取得に成功しました。



図3. あらせ衛星の軌道を磁力線に沿って磁気赤道に投影した模式図。衛星の軌道は楕円軌道だが変形して見えるのは磁力線に沿って投影していることによる衛星の磁気緯度の変化の影響である。磁場を基準にするので、地磁気を基準にする座標系での地方時(磁気地方時)を示している。地球を北から見ていて12時が太陽方向。
2024年5月の巨大磁気嵐とあらせ衛星の観測
太陽面で起きた多数の大型フレアの影響が重なって地球に到達し、2024年5月10日から11日にかけて磁気嵐が大きく発達しました。SYM-H指数は最小値−518 nT(ナノテスラ)(図2)を記録し、1981年以降で2番目の規模の巨大磁気嵐となりました。近い規模の磁気嵐としても20年ぶりです。この大きく負なSYM-H指数は、リングカレントが非常に強く発達したことを示しています。磁気嵐の発達時には、リングカレントはそのリングという名称からは程遠く、地球周囲で非対称に発達(図1)し、夜側から夕方側の上空でより顕著にみられることが報告されていました。あらせ衛星は、磁気嵐の開始直後(観測1)とピーク直後(観測2)に夕方側のリングカレント領域を外側から内側へ横断(図3)し、衛星位置での電磁場やプラズマ(特にイオン組成とエネルギースペクトル)の観測データの取得に成功しました。
今回、リングカレントイオンのその場での直接観測と太陽風の観測の同時観測が成立しました。これはSYM-H指数が−250 nTを下回る大きな磁気嵐では初めてのことでした。この同時観測により太陽風が高密度な状態であった(図2)にもかかわらず、巨大磁気嵐のリングカレントは地球起源イオン(特に重イオン)が圧倒的(図4)になっていた(=太陽風起源のイオンはほとんど電流に寄与しない)ということが実証されました。軌道に沿って継続的に地球起源イオンが圧倒的割合を占め続けていました。リングカレント領域でここまで広範に地球起源イオンが圧倒的割合になったのは初めてです。巨大磁気嵐では、「太陽風から来るエネルギーが最終的に地球大気から流出した(主に)重イオンを加速してリングカレントを作る」という過程が磁気嵐の発達に圧倒的に重要な過程であることを示しています。加えて、地球に近い領域(地心距離で地球半径の2倍付近)では地球起源の二価の酸素イオンも増加し、水素イオンと同程度かそれ以上までエネルギー密度に寄与するという、今まで知られていなかった状況(図4)が検出されました。



図4. 夕方側でのリングカレントのイオン分布と磁場強度変動。(上から、磁気嵐開始直後のイオンのエネルギー密度分布、磁気嵐ピーク付近のエネルギー密度分布、磁気嵐ピーク付近のエネルギー密度分布のイオン種ごとの占める割合、観測された磁場強度とIGRFモデル磁場強度との比)
磁気嵐のピーク付近で、地球半径の2.5から3倍(表面からの高度では1.5から2倍)を中心に特に一価の酸素イオン(O⁺)が激増し、圧倒的割合を占めた。地球に近い領域では二価の酸素イオン(O⁺⁺)も増加し、水素イオン(H⁺=陽子)より寄与が大きくなる領域が見つかった。分子イオンも観測され、ヘリウムイオン(He⁺、He⁺⁺)の寄与割合は微小であった。

イオンのエネルギー密度が最も高くなる領域は、赤道面において地球半径の2.5-3倍の地心距離(高度では地球半径の1.5-2倍)付近に位置(図4、5)していました。また、そのすぐ外側、地球半径の3倍(高度では2倍)程度の領域で、地球の固有磁場(IGRFモデル)に対して40%もの大きな磁場減少(図4)を観測しました。地球からより離れた、磁場の弱い領域では磁場は大幅に変動することが知られていましたが、地球に近い空間でのここまで大きな割合の磁場減少は過去に報告がありませんでした。磁場強度の減少は高圧のイオンとその電流によって磁場が押しのけられて弱まっていること(図5)を示しています。磁場が弱まると、イオンだけでなく放射線帯の高エネルギー電子の輸送にも影響を与えます。そのため、かなり地球に近い領域から放射線帯の高エネルギー電子が磁気圏外に流出し、高エネルギー電子が磁気圏内から消失するのに寄与する可能性があることを示しています。実際に、あらせ衛星の超高エネルギー電子分析器(Extremely High-Energy Electron Experiment, XEP)によって磁場減少領域から外側の放射線帯電子の減少が観測されており、この磁場変動の影響の重要性について、今後の定量的な研究が期待されます。



図5. 夕方側磁気圏の模式図。(上:磁気嵐前、下:磁気嵐ピーク時刻付近でのリングカレントのイオン分布) (Credit: ERG Science Team)
まとめ
巨大磁気嵐のリングカレントを担っていたイオンは圧倒的に地球起源重イオン(大部分はO⁺で次いでO⁺⁺, 分子イオン)で、高密度太陽風から侵入することが予想された水素イオンの寄与はわずかでした。これは、巨大磁気嵐の発達過程の理解には、太陽風から来たエネルギーによって地球大気起源の重イオンが流出し、リングカレントイオンのエネルギーまで加速される過程が決定的に重要であることを示しています。また、強力なリングカレントが地球の近くに発達して背景磁場を大きく弱め、宇宙天気の観点から重要な高エネルギー電子の量の変動にも影響を与える可能性を提案しました。このような発生頻度の低い巨大磁気嵐イベントに遭遇し観測に成功したことは、あらせ衛星が長期にわたって観測を継続してきたからこその成果です。

成果の意義

巨大磁気嵐の発達について物理的理解を深めることで、未だ直接観測が実現されていない、人類社会の生活にも大きく影響する可能性がある歴史的規模の超巨大磁気嵐の理解へつなげる観測面での第一歩となります。また、重イオンによるリングカレントの発達が特に地球近傍の高エネルギー電子の消失に影響する可能性を提示し、磁気嵐時の高エネルギー電子関連の宇宙環境、宇宙利用の理解を進める面でも意義のある成果です。
本研究によって、地球起源重イオンの流出と加速過程が磁気嵐時の発達の理解に極めて重要であることが提示されましたが、重イオンの大気からの流出メカニズムの詳細、流出位置、量、エネルギーをコントロールする要素(太陽風条件など)の理解が大きな課題です。現在、提案準備が行われている将来電磁気圏複数衛星探査計画FACTORSでは、まさにこの重イオンの流出の物理過程の解明が主要な目的の一つとなっており、次世代のジオスペース探査によって、磁気嵐の物理プロセスのさらなる解明を日本が主導していくことが期待されます。

論文情報

雑誌名: Science Advances
論文タイトル: Extreme dominance of Earth-origin heavy ions in the intense ring current near the Earth during the May 2024 super geomagnetic storm
著者:
北村 成寿 名古屋大学 宇宙地球環境研究所特任助教
山本 和弘 名古屋大学 宇宙地球環境研究所特任助教
横田 勝一郎 大阪大学大学院 理学研究科准教授
笠原 慧 東京大学大学院 理学系研究科准教授
松岡 彩子 京都大学 大学院理学研究科教授
浅村 和史 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所准教授
海老原 祐輔 京都大学 生存圏研究所教授
Kistler Lynn M. 米国ニューハンプシャー大学教授
名古屋大学 宇宙地球環境研究所(研究時、クロスアポイントメント)
桂華 邦裕 東京大学大学院 理学系研究科助教
新堀 淳樹 名古屋大学 宇宙地球環境研究所特任助教
堀 智昭 名古屋大学 宇宙地球環境研究所特任准教授
三好 由純 名古屋大学 宇宙地球環境研究所教授
家田 章正 名古屋大学 宇宙地球環境研究所助教
Jun Chae-Woo 名古屋大学 宇宙地球環境研究所特任助教
寺本 万里子 九州工業大学 大学院工学研究院准教授
能勢 正仁 名古屋市立大学 大学院データサイエンス研究科教授
平原 聖文 名古屋大学 宇宙地球環境研究所教授
関 華奈子 東京大学 先端科学技術研究センター教授
東京大学大学院 理学系研究科(兼任)
東尾 奈々 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所主任
篠原 育 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所教授
DOI:10.1126/sciadv.aee1069
本研究は、2020年度から2024年度までの日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究B、JSPS科研費JP20H01957)『複数衛星観測と粒子追跡計算を用いた地球磁気圏近尾部での酸素イオン高圧化現象の研究』、2025年度から始まった科学研究費助成事業(基盤研究A、JSPS科研費JP25H00684)『恒星活動が地球型惑星周辺宇宙環境および大気散逸に与える影響に関する研究』の支援を受けています。