金ナノクラスターの発光特性を自在に設計
医療イメージング材料開発に新指針
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 特異的な発光特性を利用し、生体内を観察するためのイメージング材料や、温度・酸素など環境応答性を活かしたセンシング材料の設計に新たな道を拓く成果 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
スーパーコンピュータ/時間分解/時間分解分光/近赤外/数値計算/励起状態/ナノクラスター/ナフタレン/有機分子/光センシング/生体適合性/赤外光/発光材料/分光測定/光照射/材料設計/センシング/環境応答性/生体内/環境応答/生体イメージング/寿命/チオール/プローブ/近赤外光/配位子/分子設計
2026-6-23●自然科学系産業科学研究所教授坂本 雅典発表のポイント
医療用途での応用が期待される「金ナノクラスター」について、表面を覆う配位子との相互作用を利用して、発光特性を制御できることを明らかにした金ナノクラスターはエネルギー的に近接した複数の励起状態を形成し、特異な発光挙動を示すが、励起状態を意図的に設計し、発光特性を制御する指針は確立されていない
将来的に、特異な発光特性を生かし、生体内を高精度に観察するためのイメージング材料や、温度・酸素など環境応答性を活かしたセンシング材料設計への応用が期待される
発表概要
大阪大学産業科学研究所の縄田拓己さん(大学院理学研究科博士後期課程)、坂本雅典教授、京都大学福井謙一記念研究センターの大田航特定助教、佐藤徹教授らの研究グループは、金ナノクラスターの表面を覆う配位子との相互作用を利用することで、その発光特性が制御可能であることを見出しました。金ナノクラスターは、数個から数百個ほどの金原子が集まった、非常に小さな粒子です。生体への負担が小さく、体の組織を通り抜けやすい「近赤外光」を出して光ることから、体内を観察する際の目印(生体プローブ)への応用が期待されています。
また、金ナノクラスターは、エネルギー的に近接した複数の励起状態を形成し、それに起因した特異な発光挙動が見られます。しかし、これらの励起状態を意図的に設計し、発光特性を制御するための指針はこれまで確立されていませんでした。
本研究では、金原子36個(Au₃₆)からなる同じ構造の金ナノクラスターを用意し、電子の性質が異なる3種類の配位子を導入することで、それぞれ異なる発光状態が形成され、発光特性が変化することを見出しました。理論計算により、この発光特性の違いが配位子と金ナノクラスターのエネルギー状態の関係に起因することを明らかにしました(図1)。
本研究の成果は、配位子を利用して、金ナノクラスター本体の構造を変えることなく、その発光特性を意図的に設計できる可能性を示すものです。将来的に、特異的な発光特性を利用し、生体内を観察するためのイメージング材料や、温度・酸素など環境応答性を活かしたセンシング材料の設計に新たな道を拓く成果といえます。
本研究成果は、米国科学誌 『The Journal of Physical Chemistry C』 に、6月4日(現地時間)に公開されました。

図1. 理論計算された各Au₃₆(SR)₂₄クラスターのエネルギー準位図
研究の背景
金ナノクラスターは、数個から数百個程度の金原子が集まった、非常に小さな粒子です。私たちが普段目にする金属の「金」と同じ金原子からできていますが、その小ささゆえに性質が異なり、光を吸収して発光することがあります。また、毒性が低く、優れた生体適合性と近赤外発光特性を有することから、生体内の対象を光で検出するための目印(生体プローブ)への応用が期待されています。また、金ナノクラスターは、エネルギー的に近接した複数の励起状態の形成に起因して、熱活性化遅延蛍光(TADF)や多重発光といった特異な発光挙動がしばしば観測されます。しかし、これらを意図的に発現・制御するための設計指針は確立されておらず、これまでは偶発的に現れた発光特性を評価するにとどまっていました。
研究の内容
研究グループは、金ナノクラスターの周りを取り囲む有機分子(配位子)に着目し、配位子が持つ励起状態を金ナノクラスターの持つ励起状態と適切に近づけることで発光特性を大きく変調可能であることを見出しました。同じ核数・構造を持つAu₃₆クラスターに対して3種類の異なる配位子を導入し、発光測定、理論計算、および光照射後の状態変化を追跡する時間分解分光測定を組み合わせて解析しました。
その結果、配位子の種類によって発光の仕組みが異なることが明らかになりました。特に、2-ナフタレンチオール配位子で保護したAu₃₆クラスターにおいて、配位子が新たな発光状態を形成することで、3成分の発光寿命が観測されました。この結果は、配位子の分子設計によって多重発光特性を意図的に制御可能であることを示しています。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究により、配位子を利用して金ナノクラスターの発光特性を意図的に形成できることが明らかになりました。TADF特性や多重発光特性を有する金ナノクラスターは、高感度センシングや生体イメージングへの応用が期待されており、これらの発光特性を配位子の分子設計によって自在に発現・制御するための新たな指針を提供する成果といえます。本成果は、高機能な発光材料や光センシング材料の開発を加速し、金ナノクラスターの応用範囲のさらなる拡大につながることが期待されます。特記事項
本研究成果は、2026 年6月4日(現地時間)に米国科学誌 『The Journal of Physical Chemistry C』 (オンライン)に掲載されました。タイトル:“Orbitals of Molecular Ligands Control the Luminescent Excited States of Gold Clusters”
著者名:Takumi Nawata, Wataru Ota, Tohru Sato, Masanori Sakamoto
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jpcc.6c02745
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(研究活動スタート支援:JP24K23082、基盤研究(A):JP21H04638)、科学技術振興機構 創発的研究支援事業(PMJFR201M)の支援を受けて実施されました。また、本研究で用いた数値計算は、京都大学 学術情報メディアセンター(ACCMS)のスーパーコンピュータシステムを利用して行われました。ここに関係各位のご支援とご協力に深く感謝申し上げます。
参考URL
坂本雅典 教授 研究者総覧https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2985820aa923a6f9.html
大阪大学 研究