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山形大学 研究Discovery Saga
2026年6月22日

山形大学に残る木越邦彦関連試料RIU2を科学分析

~研究史資料としての理解と安全管理の両面から評価~

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域環境学数物系科学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
放射性炭素年代測定/加速器質量分析/X線回折/加速器/元素分析/質量分析法/同位体/同位体組成/γ線/スペクトル/検出器/同位体比/年代測定/放射性炭素/放射性炭素年代/質量分析/走査型電子顕微鏡/安全管理/ゲルマニウム/ウラン/核分裂/電子顕微鏡/同位体分析/分解能/放射性核種/SEM/放射性同位体/高分解能/化学形態/体組成/放射線

掲載日:2026.06.22



RIU2試料(薬品瓶とラベル)

発表のポイント


本学に保管されていた試料RIU2の薬品瓶ラベルには、「分離管壁」「附着セル」「U化合物」「昭20.5.11」と判読される記載があった。この試料は理化学研究所・仁科研究室の木越邦彦が昭和20年(1945年)に旧制山形高校(現・山形大学)で行ったウラン関連実験を考える重要な手がかりとなりました。
科学分析の結果、²³⁵U存在比は0.72%で天然ウランと整合し、UF₄を主体とするウランフッ化物混相が示唆されました。これにより、保管試料の安全管理に関わる登録情報の見直しにつながりました。
本件は、木越の時代から続く放射線研究の流れを、現在の山形大学における研究基盤、人材育成、研究支援とのつながりの中で捉え直す契機となります。

リリースペーパーはこちら

発表概要

山形大学に保管されていた試料「RIU2」について、ラベル記載の検討と科学分析を行い、その性状を明らかにしました。RIU2は、戦時期に理化学研究所仁科研究室でウラン研究に携わり、昭和20年(1945年)に山形へ疎開した木越邦彦が関わった実験と関係する可能性がある試料です。今回、瓶のラベルに残る文字情報を読み解くとともに、開封後に分取した101 mgの粉末試料に対し、ICP-MS、SEM-EDS、XRD、γ線測定の4種類の分析を行いました。その結果、²³⁵U存在比は0.72%で天然ウランと整合し、主な成分としてU、F、Oに加えてCuが検出され、結晶相の解析からはUF₄を主体とするウランフッ化物混相が示唆されました。これまで本試料は「劣化ウラン」として登録されていましたが、今回の分析結果に基づき登録情報の見直しを行いました。本研究は、戦時期の研究資料を科学的に読み解く試みであると同時に、来歴が限られた保管試料の安全管理を適正化する取り組みでもあります。木越は戦後、日本の放射性炭素年代測定研究を切り拓いた研究者として知られており、本件は、山形に残る研究の歴史を現在の放射線研究、人材育成、研究支援へとつなぐ意義を持ちます。

背景

 木越邦彦は、戦時中に理化学研究所仁科研究室でウランや核分裂生成物の研究に従事し、昭和20年(1945年)には旧制山形高校(現・山形大学)に疎開してウラン関連実験を続けたと回想しています。戦後は学習院大学で日本初の放射性炭素年代測定に成功し、日本の放射性炭素年代学を切り拓いた研究者として知られています。
一方、木越が昭和20年(1945年)当時に山形で行った実験を直接示す公式記録は、学内で確認できた資料の範囲では見出されていません。しかし、実験との関連を示唆するラベルが貼られた試料RIU2が現在も山形大学に保管されています。こうした来歴が限られた保管試料は、研究史資料として重要であるだけでなく、保管・取扱区分を適切に定めるため、同位体組成や化学形態を客観的に確認する必要があります。そこで本研究では、RIU2を対象に、ラベル記載の検討と科学分析を組み合わせて、その性状を明らかにしました。

研究手法・研究成果

 まず、RIU2試料の薬品瓶とラベル(上の写真)を確認したところ、「分離管壁」「附着セル」「U化合物」「昭20.5.11」と判読される記載がありました。こうした文字情報は、木越邦彦が山形へ疎開した時期と重なっており、本試料が当時のウラン関連実験に関連する可能性を示す重要な手がかりです。
次に、薬品瓶を開封して試料を分取し、必要最小量を用いてICP-MS、SEM-EDS、XRD分析を行いました。残りの試料は再封して保管しました。さらに、薬品瓶に入れた状態の試料について、HPGe検出器によるγ線測定を行いました。ICP-MS(表1)では、²³⁵Uの同位体存在比が0.72%で天然ウランと整合することを確認しました。SEM-EDS(図1)では、主成分がU、F、Oであり、Cuも含まれることが分かりました。XRD(図2)では、UF₄を主体とするウランフッ化物混相が示唆されました。さらに、γ線測定でも天然ウランに整合する結果が得られ、ICP-MSの結果を裏づけました。
 この結果から、RIU2は天然ウランと整合する同位体組成を持ち、化学形態としてはUF₄を主体とするウランフッ化物混相である可能性が高いことが分かりました。SEM-EDSでCuが検出されたことも、当時のウラン関連実験で用いられた装置材料との関係を考えるうえで重要な情報です。一方で、XRDでは未帰属ピークも残っており、単一の化合物として断定するには限界があることも明らかになりました。従前「劣化ウラン」として登録されていた本試料については、今回の分析結果に基づき登録情報の見直しを行いました。こうした成果は、戦時期の研究史資料の理解を深めるとともに、来歴が限られた保管試料の安全管理を適正化するうえでも重要です。
表1 ICP-MSで得られたRIU2試料のウラン同位体分析の結果








今後の展望

本件は、戦時期に山形へ残された研究の痕跡を、現代の科学分析によって読み解いた事例です。木越邦彦が戦後に日本初の放射性炭素年代測定を実現し、放射性炭素年代学の端緒を開いたことを踏まえると、本件は、山形大学における放射性核種を用いた基礎研究の流れを考えるうえでも意義があります。山形大学では、高感度加速器質量分析センターを中心にAMSを活用した研究・教育を進めており、その分析基盤は幅広い分野の研究を支えてきました。さらに、著者らの一部は113番元素ニホニウムの発見に貢献し、現在も119番元素以降の新元素生成を目指す理研仁科加速器科学研究センターの研究に携わっています。本件は、昭和の戦時期のウラン研究から現在の基礎研究へとつながる、山形大学の放射線研究の連続性を考える契機となるものです。

論文の詳細

表題:山形大学に残されたウラン濃縮実験関連試料RIU2の科学分析
著者:門叶冬樹1, 2石﨑学1,乾恵美子1,櫻井敬久1森谷透1, 2,武山美麗1, 2,森本幸司3, 1
1:山形大学理学部,2 :山形大学高感度加速器質量分析センター,3: 理化学研究所仁科加速器科学研究センター
雑誌:RADIOISOTOPES, 75, 137–145(2026) doi:10.3769/radioisotopes.750205

用語解説

1. ICP-MS:誘導結合プラズマ質量分析法。元素濃度や同位体比を高感度に測定する手法。
2. SEM-EDS:走査型電子顕微鏡と元素分析(EDS)を組み合わせ、微小領域の元素組成を調べる手法。
3. XRD:粉末X線回折法。結晶相(化合物の種類)を推定する手法。
4. HPGe:高純度ゲルマニウム検出器。γ線スペクトルを高分解能で測定できる。
5. AMS:加速器質量分析。極微量の放射性同位体を高感度に測定する装置・手法。