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東京大学 研究Discovery Saga
2026年6月19日

CO₂から生まれ、肥料と原料へ還るプラスチックシステム

~炭素と窒素を循環利用する新しい高分子資源循環系を実証~

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
モノマーと架橋剤を開環重合することで得られた架橋体は、透明かつ柔軟な自立フィルムとして形成され、ソフトマテリアルとしての利用が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学化学生物学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
最適化/窒素循環/再資源化/炭素循環/アンモニア/エステル/フィルム/ポリエステル/開環重合/機能性高分子/高分子/光合成/ソフトマテリアル/材料科学/樹脂/ケミカルリサイクル/前駆体/可視光/有機材料/持続可能/CO2排出量/紫外線/透明性/3Dプリンター/ネットワーク構造/プラスチック/ポリマー/リサイクル/高分子材料/資源循環/自動車/耐久性/二酸化炭素/廃棄物/有機物/園芸学/機能性/シロイヌナズナ/土壌/物質循環/アルコール/アミノ酸/環化反応/重合反応/生体分子/低分子化合物

概要

千葉大学大学院融合理工学府博士前期課程 仁木陸翔氏 (研究当時)、同大大学院工学研究院 青木大輔准教授(同大園芸学研究院附属宇宙園芸研究センター兼任)、谷口竜王教授らの研究グループは、東京大学 神谷岳洋准教授、京都大学 喜多祐介特定准教授、田村正純教授らと共同で、二酸化炭素(CO₂)を原料としてモノマー注1)および架橋剤注2)を直接合成し、架橋型脂肪族ポリカーボネート材料注3)を創製しました。本材料はソフトマテリアルとして利用可能であるだけでなく、使用後にアンモニア水で処理することで、植物肥料である尿素とモノマーと架橋剤の前駆体へ分解できます。さらに、得られた分解生成物から再びCO₂を用いて元のモノマーと架橋剤を再生することにも成功しました。本研究では、CO₂由来炭素を高分子材料として利用・再生する「炭素循環」と、アンモニアによる高分子分解を通じて窒素成分を尿素肥料として利用する「窒素循環」を統合した、新しい高分子資源循環システムを実証しました(図1)。本研究成果は2026年6月18日に学術誌Journal of CO2 Utilizationにオンライン掲載されました。(論文はこちら:10.1016/j.jcou.2026.103475)

図1:本研究概要

研究の背景(詳細は別途記載)

 現代社会に不可欠なプラスチックですが、廃棄物増加や化石資源依存、CO₂排出が社会課題であり、持続可能な資源循環型プラスチック注4)およびその分解・再資源化技術の開発が強く求められています。自然界では、炭素は大気中のCO₂から有機化合物へと変換され、窒素は土壌中でアンモニアやアンモニウム塩として植物に取り込まれ、栄養源として循環しています。そこで本研究では、このような炭素と窒素の循環利用を高分子材料へ導入することを目指し、CO₂由来の架橋型脂肪族ポリカーボネート材料に着目しました。脂肪族ポリカーボネート自体はCO₂を原料として合成可能であることが知られていましたが、その多くは線状高分子注5)を対象としていました。一方、架橋構造を導入することで、ソフトマテリアルとして利用可能な高分子材料へ展開できることから、CO₂を用いた架橋剤の直接合成に取り組みました。これにより、モノマーから架橋剤に至るまでCO₂を原料として利用したソフトマテリアルの創製と、その使用後を見据えた資源循環系の構築を目指しました。

研究成果のポイント(詳細は別途記載)

1.CO₂からのモノマーと架橋剤の直接合成に成功:
酸化セリウム(CeO₂)触媒を用いることで、副反応を抑制しながらモノマーと架橋剤を効率よく合成にすることに成功しました。
2.柔軟性と透明性を兼ね備えた自立フィルムの創製:
モノマーと架橋剤を開環重合注6)することで得られた架橋体は、透明かつ柔軟な自立フィルムとして形成され、ソフトマテリアルとしての利用が期待されます。
3.アンモニア処理による尿素肥料への分解とCO₂を用いた原料への再変換:
架橋高分子をアンモニア水で分解すると、尿素とモノマーと架橋剤前駆体が生成されました。さらに、植物実験注7)から、分解生成物は混合物のままでも肥料効果を示し、前駆体からはCO₂とCeO₂触媒を用いて元のモノマー・架橋剤を再合成できました。これにより、炭素と窒素を循環利用する新しい高分子資源循環系を実証しました。

今後の展望

 今後は、アンモニア分解条件や再資源化プロセスをさらに最適化することで、より実用的なケミカルリサイクル技術への展開が期待されます。また、架橋構造やモノマーを適切に設計することで、柔軟性や強度を調整可能なソフトマテリアルへの応用も期待されます。さらに、本研究では光を用いた材料形成にも成功しており、将来的には3Dプリンター用樹脂などの光硬化型材料注8)への展開も期待されます。

用語解説

注 1)モノマー:プラスチックなどの高分子(ポリマー)を構成する基本単位となる低分子化合物。
注 2)架橋剤:高分子同士を化学的につなぐことで網目状の構造(架橋構造)を形成する化合物。材料の強度や柔軟性、形状安定性などに大きく影響する。
注 3)架橋型脂肪族ポリカーボネート材料:柔軟性を示しやすい骨格を有するポリカーボネートが、化学結合によって網目状(架橋構造)につながった高分子材料。ゴムのような柔らかさや変形性を示し、ソフトマテリアルとして利用される。
注 4)資源循環型プラスチック:使用後に廃棄するのではなく、分解・再利用・再資源化を通じて、原料や有用物質として繰り返し利用可能なプラスチック材料。
注 5)線状高分子:ひも状の高分子鎖が独立して存在する高分子材料。高分子鎖同士は化学的に結合していない。一方、架橋構造を導入すると高分子鎖同士が三次元的に連結されたネットワーク構造となり、柔軟性や弾性を示すゴムやゲルなどのソフトマテリアルとして利用できる。
注 6)開環重合:環状構造を有する分子(環状モノマー)の結合を開裂させながら連結していくことで、高分子を形成する重合反応。ポリカーボネートやポリエステルなどの合成に広く用いられる。
注 7)植物実験:植物を用いて物質の肥料効果や生育への影響などを評価する実験。本研究では、モデル植物としてシロイヌナズナを用いた。
注 8)光硬化型材料:紫外線や可視光などの光を照射することで化学反応が進行し、液体から固体へと硬化する材料。塗料、接着剤、3Dプリンター用樹脂などに広く利用されている。

論文情報

雑誌名:Journal of CO2 Utilization
タイトル:A Carbon–Nitrogen Pathway in the Ammonolysis of CO2-Based Polycarbonate Networks
著者:Rikuto Niki, Yusuke Kita, Shuto Uchiumi, Mai Akatsuka, Raj Kishan Agrahari, Pengru Chen, Toyokazu Tsutsuba, Kazuaki Rikiyama, Norio Tomotsu, Tatsuo Taniguchi, Takehiro Kamiya, Masazumi Tamura, Daisuke Aoki
DOI:10.1016/j.jcou.2026.103475

研究プロジェクトについて

本研究は、以下の事業の支援を受けて行われました。
・科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST
研究領域:「[分解と安定化] 分解・劣化・安定化の精密材料科学」
研究総括:高原 淳 九州大学ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授
研究課題名:「カーボネート結合に基づく高分子材料循環システムの構築」(JPMJCR22L1)
・公益財団法人 小笠原敏晶記念財団一般研究助成
研究課題名:「使用後に肥料に変換できる機能性高分子の開発」

研究の背景

 高分子材料(プラスチック)は、軽量性、加工性、耐久性に優れることから、包装材、自動車、電子機器、医療分野など幅広い用途で利用されており、現代社会を支える不可欠な材料となっています。一方で、使用後のプラスチック量の増加や化石資源への依存、さらにはCO₂排出量の増大が社会課題となっており、持続可能な資源循環型プラスチックおよびその分解・再資源化技術の開発が強く求められています。
 このような持続可能なプラスチック資源循環を実現するうえで、自然界における物質循環の仕組みは重要なヒントとなります。プラスチックなどの有機材料は、主に炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)などの元素から構成されています。特に炭素は材料骨格を形成する主要元素であり、窒素は肥料や生体分子を構成する重要な元素です。自然界では、これらの元素は、有機物の合成と分解を通じて循環しています。
 例えば、大気中の二酸化炭素(CO₂)は、植物の光合成によって有機化合物へと変換され、生物の体を構成する炭素源として利用されています。一方、窒素は、土壌中でアンモニア(NH₃)やアンモニウム塩として植物に取り込まれ、アミノ酸やタンパク質の合成に利用されることで、生物の成長を支える重要な栄養源となっています。このように、炭素と窒素は自然界において資源として循環利用されています。
 そこで本研究では、CO₂由来のカーボネート結合を基盤とした架橋型脂肪族ポリカーボネートに着目しました。脂肪族ポリカーボネート自体はCO₂を原料として合成可能であることが知られていましたが、その多くは線状高分子を対象としていました。一方、架橋構造を導入することで、ソフトマテリアルとして利用可能な高分子材料へ展開できることから、本研究ではまずCO₂を用いた架橋剤の直接合成に取り組みました。これにより、モノマーから架橋剤に至るまでCO₂を原料として利用したソフトマテリアルの創製と、その使用後を見据えた資源循環系の構築を目指しました。

研究の成果

1.CO₂からのモノマーと架橋剤の直接合成に成功

CO₂とジトリメチロールプロパン(DTMP)から、酸化セリウム(CeO₂)触媒を用いることで、架橋剤として機能する環状カーボネート化合物DTMPCの直接合成に成功しました(図2a)。DTMPは4つの水酸基を有しているため、副反応を抑制しながら目的とする分子内環化反応を選択的に進行させることは容易ではありません。しかし、本触媒系を用いることで、目的化合物DTMPCを効率よく合成することに成功しました。

図2:各種化学反応: a)架橋剤の合成、b)架橋体の合成、c)アンモニア分解

2.柔軟性と透明性を兼ね備えた自立フィルムの創製

次に、得られたDTMPCと、同様にCeO₂触媒を用いてCO₂から合成した6員環カーボネートモノマーであるトリメチレンカーボネート(TMC)およびネオペンチルグリコールカーボネート(NPGC)を用いて、開環重合による架橋型脂肪族ポリカーボネートの合成を行いました(図2b)。得られた架橋体は、透明かつ柔軟な自立フィルムとして形成され、ソフトマテリアルとしての利用が期待されます(図3)。

図3:架橋型脂肪族ポリカーボネートの外観

3.アンモニア処理による尿素肥料への分解とCO₂を用いた原料への再変換

さらに、使用後の資源循環を想定し、得られた架橋高分子をアンモニア水中、90℃で処理したところ、いずれのフィルムも完全に消失し、均一溶液へと変化しました。分解生成物を解析した結果、肥料として利用可能な尿素に加え、モノマー前駆体であるジオール、および架橋剤前駆体であるジトリメチロールプロパン(DTMP)が生成していることを確認しました(図2c)。また、分解生成物のマスバランスは70%以上を維持しており、架橋型ポリカーボネートがアンモニアによって効率的に低分子化できることが示されました。分解生成物は混合物のままでも肥料として効果を有することを、モデル植物を用いた実験により明らかにしました(図4)。
また、分解生成物中の各成分を単離することにも成功しました。単離した尿素についても、肥料として利用可能であることを確認しました。なお、得られたアルコール類については、再びCO₂とCeO₂触媒を用いることで、元の環状モノマーおよび架橋剤へ再変換できることも確認しました。
 これにより、本研究では、「CO₂からソフトマテリアル(架橋体)を合成し、使用後には肥料と再利用可能な原料へ変換し、さらにCO₂を用いて再生する」という、CO₂由来炭素とアンモニア由来窒素を一体的に循環利用する新しい高分子資源循環システムを実証しました。

図4:モデル植物を用いた生育実験

問い合わせ先

<研究内容については発表者にお問合せください>

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 総務課広報情報担当
Tel:03-5841-5484 E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

関連教員

神谷 岳洋