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東京農工大学 研究Discovery Saga
2026年6月15日

ナノポアを用いたポリペプチドの1分子検出に成功

複数狭窄部を有するEpx4ナノポアを利用

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
ペプチドを検出可能なナノポアに関する知見の蓄積に貢献するものであり、ペプチドを標的とするバイオセンサーやペプチドシーケンサーへの応用が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学化学生物学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
機械学習/ポリペプチド/塩基配列/二分子膜/脂質二分子膜/計測技術/センサー/ナノメートル/バイオセンサー/脂質膜/アミノ酸/イオンチャネル/膜タンパク質/細菌/脂質

概要

東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門の川野竜司教授と同大学院工学府生命工学専攻大学院生の伊集院綾子、佐藤茉奈、同大学院グローバルイノベーション研究院の竹内七海特任助教、東北大学大学院生命科学研究科の田中良和教授、大学院生の内藤航大(当時)、University of Rome Tor VergataのMauro Chinappi准教授、同大学大学院生のVirginia Di Toro Mammarellaらは、複数の狭窄部注1)を有するEpx4注2)ナノポア注3)を用いたポリペプチドの検出に成功し、機械学習を用いた識別能評価の結果、従来のナノポアよりも高い識別能を有することを実証しました。本成果は、ペプチドを検出可能なナノポアに関する知見の蓄積に貢献するものであり、ペプチドを標的とするバイオセンサーやペプチドシーケンサー注4)への応用が期待されます。
本研究成果は、Wileyの国際学術誌Small Methods(6月11日付)に掲載されました。
論文タイトル:Epx4 Nanopore With Multiple Constrictions for Single-Molecule Identification
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smtd.70762
背景
 ナノポア計測技術は迅速、簡便、ラベルフリーな単分子検出技術です。標的分子がナノポアを通過した際に生じる電流変化を解析することで通過分子の同定や配列決定に応用することができます。ナノポア計測技術によりDNAの塩基配列決定を可能とするナノポアDNAシーケンサーの実現以降、次の標的としてペプチドやタンパク質の配列決定への応用が期待されています。これを達成するには、ペプチドやタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を識別可能な高い識別精度を持つナノポアが必要です。先行研究では、ナノポアが分子を読み取る部位である「狭窄部」の数を増やすことで標的分子との相互作用を高め、識別精度を向上させたことが報告されています。
研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門の川野竜司教授、同大学工学府生命工学専攻大学院生の伊集院綾子、佐藤茉奈、同大学院グローバルイノベーション研究院の竹内七海特任助教、東北大学大学院生命科学研究科の田中良和教授、大学院生の内藤航大(当時)、University of Rome Tor VergataのMauro Chinappi准教授、同大学院大学院生のVirginia Di Toro Mammarellaらによって実施されました。本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21B2)、日本学術振興会科学研究費補助金(KAKENHI)(21H05229、25H00416)、JST先端国際共同研究推進事業 ASPIRE (JPMJAP2505)の助成を受けたものです。
研究成果
 本研究では、細菌由来の孔形成毒素で、複数狭窄部を有するEpx4ナノポアに着目しました(図1)。Epx4は脂質膜上で孔(ポア)を開けることが報告されているため、ナノポア計測に適していると考え、ナノポア計測による標的分子検出を試みました。ここでは、負電荷1本鎖DNAと、正電荷ポリペプチド注5)として分子量の異なる2種類のポリ-L-リジン注6)(分子量30,000–70,000の長鎖PLL、分子量10,000の短鎖PLL)を標的分子としました。ポリ-L-リジンは、同じアミノ酸が連なった単純な配列を持つため、今後より複雑な配列のペプチドへ展開するにあたり重要な足掛かりとなります。ナノポア計測の結果、Epx4を用いて各標的分子を1分子レベルで電気的に検出できました。特にポリ-L-リジンの検出において、既存のナノポアよりも高い頻度で検出できることが分かりました。さらに、機械学習注7)を用いた解析の結果、従来のナノポアよりも高い精度で2種類のポリ-L-リジンを識別できることが明らかになりました(図2)。
今後の展開
 本研究では、Epx4ナノポアを用いたポリペプチドの電気的1分子検出および高い識別能で2種類のポリペプチドを識別することに成功しました。本成果は、ペプチド検出可能なナノポアに関する知見の蓄積に貢献するものであり、今後、タンパク質シーケンサーへの展開を目指しています。

用語解説

注1)狭窄部
ナノポア内部で最も孔(ポア)直径が小さくなる部分。分子が通るときに一番強く影響を受ける細い場所で、通過分子を識別するために重要である。
注2)Epx4
腸球菌という細菌が産生する孔(ポア)形成毒素の一種で、細胞の膜に孔(ポア)を開ける働きを持つ。
注3)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。
注4)ペプチドシーケンサー
タンパク質やペプチドを構成するアミノ酸の配列を決定するための分析装置や手法のこと。
注5)ポリペプチド
数十個のアミノ酸がペプチド結合によりつながったもの。
注6)ポリ-L-リジン
塩基性アミノ酸であるリジンがペプチド結合によりつながったもの。
注7)機械学習
コンピュータがデータから特徴を学習し、分類や予測などを行う技術。



図1:Epx4ナノポアの構造とナノポア計測の原理。Epx4ナノポアは複数の狭窄部を持つことが推測されています。ナノポア計測では、電圧印加下でイオン電流が流れ、ペプチドがナノポアを通過する際に一時的な電流阻害が起こります。この電流阻害シグナルを解析することで、ペプチドを1分子レベルで同定することが可能です。(A. Ijuin et al., Small Methods, 2026より一部引用)
 


図2:Epx4と従来ポアとの阻害電流シグナルの違いと機械学習によるスコア結果。Epx4特有の阻害電流シグナルが見られ、機械学習を用いた評価では従来ポアよりも識別精度が高いことが明らかになりました。ROC AUCスコアとは、2種類をどれだけうまく分離できているかの指標です。(A. Ijuin et al., Small Methods, 2026より引用)
 

問い合わせ先

研究に関する問い合わせ

 東京農工大学大学院工学研究院
生命工学部門 教授
川野 竜司(かわの りゅうじ)
 TEL/FAX:042-388-7187
 E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
◆報道に関する問い合わせ◆
 東京農工大学 総務課広報室
 E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 東北大学 大学院生命科学研究科広報室
 E-mail:lifsci-pr(ここに@を入れてください)grp.tohoku.ac.jp


プレスリリース(PDF:739.0KB)

関連リンク

東京農工大学 川野竜司教授研究者プロフィール
東京農工大学 竹内七海特任助教研究者プロフィール
東京農工大学 川野竜司教授、竹内七海特任助教研究室WEBサイト
川野竜司教授、竹内七海特任助教が所属する 東京農工大学工学部生命工学科