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熊本大学 研究Discovery Saga
2026年6月12日

超分子ポリマーの「動き」を利用して効率的に 肝臓へ薬を届けるデリバリー技術を開発

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
肝臓を標的とした創薬プラットフォームとしての実用化が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
化学工学総合生物農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
シクロデキストリン/ロタキサン/持続可能/持続可能な開発/ナノ粒子/ポリマー/ターゲティング/ゲノム編集技術/超分子/ゲノム編集/アミロイド/バイオ医薬品/マウス/ラット/リガンド/遺伝病/核酸医薬/肝細胞/抗体医薬/受容体/創薬/糖タンパク質/ゲノム/遺伝子/抗体

研究のポイント

数珠のような分子鎖上で環状分子が動く超分子ポリマー (ポリロタキサン1) を活用した革新的な薬物送達戦略を開発しました。
従来必要だった複雑な三分岐構造の糖(triGalNAc) を使わず、シンプルな単一の糖 (monoGalNAc) が修飾されたポリロタキサンの「分子可動性」を活用することで、従来技術を凌駕する肝臓ターゲティングを実現しました。
最新の抗体医薬やゲノム編集分子などの次世代バイオ医薬品に応用可能であることを確認しており、肝臓を標的とした創薬プラットフォームとしての実用化が期待されます。

(概要説明)
熊本大学大学院生命科学研究部の田原春 徹 助教および東 大志 准教授らの研究グループは、シンガポール国立大学の Jun Li 教授らとの共同研究により、分子の「動き」を利用した革新的な肝臓ターゲティング技術を開発しました。従来の技術では、肝臓の受容体と強く結合するために複雑な三分岐構造の糖鎖 (triGalNAc) が必要でしたが、本研究では、環状分子が回転・移動できる超分子ポリマーであるポリロタキサンに単一の糖 (monoGalNAc) を結合させることで、分子が動的に集合し、強力な相互作用を可能にすることを明らかにしました。
 
本研究成果は、国際学術誌「Advanced Science」において、令和8年6月11日に公開されました。本研究は、大学発スタートアップエコシステム PARKS、文部科学省科学研究費助成事業、日本学術振興会特別研究員制度、若手研究者海外挑戦プログラムおよび新製剤技術とエンジニアリング振興基金などの支援を受けて実施されたものです。
 (説明)
核酸医薬やゲノム編集技術といった最新の創薬モダリティ(治療アプローチ)は、その多くが細胞の中で働く必要がありますが、単独では細胞内に移行しにくいという大きな課題があります。そのため、薬を標的となる細胞の中へ確実に導入する技術が不可欠です。
 
現在、このような薬を肝臓に移行させるために、肝細胞表面の受容体 (アシアロ糖タンパク質受容体: ASGPR2) に強く結合するN-アセチルガラクトサミン  (GalNAc3) という糖リガンドが利用されています。この受容体は、3つの結合部位がセットになった「三量体」という構造で待ち構えているため、それらに同時に・隙間なく結合できるよう、あらかじめ3つの GalNAc を精密な間隔で枝分かれさせた構造 (triGalNAc:三分岐型糖鎖) が必要とされてきました (図1a)。しかし、triGalNAc は、製造に非常に煩雑な化学合成を要するためコストが高く、大型の分子を運ぶ際の効率にも限界がありました。
 
そこで田原春助教らのグループは、ひも状の軸分子に環状のシクロデキストリンが貫通したポリロタキサンという超分子ポリマーに着目しました。この分子は、数珠やそろばんのように環状分子が軸の上を自由に回転・スライドできる、ユニークな「動き」を備えているのが特徴です。本研究では、ポリロタキサンを構成する環状分子に単一の GalNAc (monoGalNAc) を修飾すれば、受容体の三量体構造に合わせて自ら最適な位置に収まり、あらかじめ三分岐の形を精密に作らなくても、強く結合できるのではないか、という仮説を立てました (図1b)。
 
この仮説を実証するため、単一の GalNAc (monoGalNAc) が修飾されたポリロタキサン、三分岐型の GalNAc (triGalNAc) が修飾されたポリロタキサンに加え、monoGalNAc あるいはtriGalNAc が修飾された通常の (可動性が低い) ポリマーを合成し、これらの比較検討を行いました。その結果、monoGalNAc あるいはtriGalNAc が修飾されたポリロタキサンは、通常のポリマーよりも顕著に高い効率で標的である肝細胞内へ取り込まれることが示されました (図2)。重要なことに、triGalNAc が修飾された非可動ポリマーは、monoGalNAc が修飾された非可動ポリマーよりも高い細胞内取り込みを示すのに対し、monoGalNAc が修飾されたポリロタキサンおよびtriGalNAc が修飾されたポリロタキサンは、ほぼ同等の効率の細胞内取り込みを示すことを明らかにしました (図2)。
このことから、環状分子が自由に動けるポリロタキサン構造においては、複雑な三分岐構造をあらかじめ形成させずとも、複数のmonoGalNAcが受容体の配置に合わせて自発的に集まり、多数のリガンドと多数の受容体が同時に結合する多価相互作用が効率的に誘起される可能性が示されました。これは、精密な化学構造に頼る従来の設計概念を、ポリロタキサンの「動き」というユニークな特性によって打破する画期的な戦略です。
本技術の有用性を確認するため、次世代バイオ医薬品への応用を試みました。まず、特定のタンパク質を標的の細胞の中で分解させる働きを持つ新しい抗体医薬(Lysosome targeting chimera: LYTAC)に適用しました。その結果、本技術を応用した LYTAC をマウスへ投与した結果、肝標的化のためにtriGalNAcが付与されている従来のLYTACと比較して、顕著に高い効果を示す可能性を見出しました (図3a)。
さらに、標的の遺伝子を改変できることから、遺伝病の治療薬として期待されているゲノム編集分子 (Cas9 RNP) の送達への応用可能性について調べました。その結果、Cas9 RNP を搭載したナノ粒子に対し、monoGalNAc 修飾ポリロタキサンを結合させると、肝臓における遺伝病 (ATTR アミロイドーシス) の原因遺伝子であるトランスサイレチンのゲノム編集効率を向上させることを明らかにしました (図3b)。
 本研究は、分子の中での分子の「動き」という特性を利用した新しい設計指針を提示するものです。シンプルなリガンドを利用できるため、製造コストを抑えた安価かつ効率的なデリバリー技術として、将来的なゲノム編集治療などの普及に大きく貢献することが期待されます。
 ※図は【詳細】プレスリリースにございます。

用語解説

※1 ポリロタキサン:ひも状の分子に輪っか状の分子が通った、数珠のよう
な構造を持つ超分子ポリマー。輪っか状の分子がひもに沿って自由に動
ける (回転・移動できる) のが特徴です。 
 
※2ASGPR (アシアロ糖タンパク質受容体):肝細胞に多く存在する 「鍵穴」
(受容体)。GalNAc などと結合して細胞内へ取り込む働きがあります。
 
※3GalNAc (N-アセチルガラクトサミン) :肝細胞の表面にある受容体に特
異的に結合する糖の一種。細胞に取り込まれにくい薬を肝臓へ運ぶため
の「鍵」(リガンド) の役割を果たします。
 

論文情報

論文名:Molecular Mobility ofN-Acetylgalactosamine-Modified Cyclodextrins on a Polyrotaxane for Highly Efficient Liver Targeting of Antibody Chimeras and Genome-Editing Ribonucleoproteins
著者  :Toru Taharabaru, Keiichi Motoyama, Yuting Wen, Zhongxing Zhang, Xuehao Tian, Jun Li, Taishi Higashi
掲載誌:Advanced Science
doi:10.1002/advs.75996
URL :https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.75996
【詳細】プレスリリース(PDF697KB)





<熊本大学SDGs宣言>

問い合わせ先

 
熊本大学 大学院生命科学研究部(薬)
担当:助教 田原春 徹
電話:096-371-4168
e-mail: taharabaru@kumamoto-u.ac.jp